激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
459 / 463
第10部 姦禁のリリス

#105 女王と魔少女⑤

しおりを挟む
 ブチブチと細い触手が千切れる音が響く。
 引きちぎられた触手たちは、精子が卵巣を目指すように、杏里の毛穴から体内に潜り込んでくる。
 それがとてつもない快感を生み出し、杏里は嬌声を発しながら由羅の腕の中に倒れ込んだ。
「しっかりしろ、杏里。逃げるなら、今だ」
 杏里の頬を叩いて、由羅が言った。
「ううん・・・」
 眼を開くと、異様な光景が視界に飛び込んできた。
 天井まで膨れ上がった肉塊は、杏里を吐き出した女陰そっくりの口を今しも閉じようとしている。
 不気味なのは、肉塊の表面に無数に浮き上がった顏だった。
 さっきまではみな杏里のコピーだったのに、今は別の顔がその中に混じっている。
 日本人形を連想させるその細面の顔立ちは、間違いなく零のものだった。
 零の属性が表面に現れて、杏里の属性と拮抗しているのだ。
 顏だけではなかった。
 手も足も、そうだった。
 二種類の手足が、互いに相手を殺そうとでもするかのように、肉塊のあちこちで複雑に絡み合っている。
 その人体パーツレベルの闘争が、肉塊の存在それ自体を不安定にしているのか、ガスタンクのように膨張した”それ”は、あたかも爆発寸前のようにぶるぶる震えている。
「行くよ。杏里、由羅、立てる?」
 身体が無事なルナを真ん中にして、なんとか3人、立ち上がる。
 二人三脚のようなぎこちない足取りで、部屋を出た。
 出口に着くまで、途方もなく長い時間がかかったような気がした。
 施設の外に出ると、日が暮れかけていた。
 汗ばんだ肌に、晩秋の風がひどく冷たかった。
 ジオラマの間の舗道を、小田切がやってくるのが見えた。
「無事だったか。”あれ”はどうした?」
「よくわからない。零を取り込んで、逆に狂い出したみたい。どんどんでかくなって、爆発しかけてる」
 額の汗を手の甲で拭い、由羅が説明する。
「委員会の処理班を呼んでおいた。もうすぐ専門部隊がここを焼き払いにやってくる。それまでに、逃げるんだ」
 小田切の思いがけない台詞に、杏里はハッと顏を上げた。
「私たち、委員会に出頭しなくていいの? そんなことしたら、勇次の立場がないんじゃない?」
「平気さ。余計な心配は無用だ。冬美はあの通り腑抜け状態で、何があったかろくに覚えていない。なんとでもごまかしは利く」
 なるほど、あずまやの屋根の下、ベンチに座った冬美は放心状態で、ただ池の水面を眺めているだけだ。
 ここに残る、という小田切と別れ、冠木門を出た。
 ワゴン車はまだ、そこに止まっていた。
 窓から老婆たちが、杏里たちに向けて呑気に手を振った。
 百足丸の姿はないようだ。
 さすがに敵同士、同席するのは気が引けたのだろう。
 井沢の死体でも探しに行ったのかもしれなかた。
「くそ、まったくとんでもない目に遭ったぜ」
 後部座席に乗り込むと、由羅がぼやいた。
「うちもルナも、回復するまでしばらくパトス休業だ。その間、杏里、おまえ、頼むから面倒に巻き込まれないでくれよな」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...