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第10部 姦禁のリリス

#97 対決⑰

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 惨殺死体の転がる血まみれの通路を抜け、ようやく地下施設の出口にたどりついた時だった。
 目の前の広場に鎮座する場違いな物体をひと目見て、重人は棒を呑んだように立ちすくんだ。
 ヘリコプターだった。
 純白の機体に赤十字のマークがあることからして、どうやら救命用のドクター・ヘリらしい。
 さっきの音は、これだったんだ・・・。
 おそるおそる近づくと、側面のドアがスライドしてタラップが地面に伸びた。
 下りてきたのは、背の高い男とスーツ姿の女のふたり組である。
「小田切さん・・・それに、冬美も・・・」
 あっけにとられた重人がたずねるのと、
「重人か? 杏里はどうした?」
 男が鋭く問いかけてくるのとが、ほとんど同時だった。
「地下の部屋で、零が・・・」
 何から話せばいいのかわからない。
 第一、どうして委員会のふたりがここを嗅ぎつけたのだろう。
「零? あいつもここにいるのか?」
 小田切の声がますます尖る。
「ルナと由羅が止めようとしたけど、反対にやられちゃって・・・」
「まずいな」
 小田切の顔が曇った。
「どうする?」
 傍らの冬美に問いかけたが、冬美はなんだか様子が変だ。
 眼がうつろで、服装も乱れている。
 まるで情事の途中で抜け出してきたみたいに、スーツの前をはだけ、ボタンの外れたブラウスから下着に包まれた胸を半ば以上のぞかせている。
「どうしたの? 何か問題でも?」
 小田切の問いに応えたのは、冬美ではなく、別の声だった。
 ヘリのタラップを、もうひとりの人物が下りてくる。
「え?」
 重人が仰天したのは、その人物が単に全裸の少女だったからではなかった。
 肌の色をのぞけば、そっくりなのだ。
 杏里に。
 全身小麦色に日焼けした杏里が、今目の前に立っている。
「そ、その子は?」
 声が震えた。
 褐色の杏里は、一種異様なオーラを身体中から発散させている。
 もうひとりの杏里を上回るほど淫蕩で、しかも邪悪な”念”のようなものー。
 それが重人の足をすくませた。
「説明が難しい。実は俺たちにも、よくわからないんだ。いったい彼女が何者なのか」
 苦渋に満ちた表情で、小田切が言った。
「何言ってるの? そんな馬鹿なことって・・・」
「我々はあの体育館から、ふみのものらしき肉体を回収した。ところがふみは、美里の触手に寄生され、化け物に変異したあげく、杏里の肉をたらふく食っていた・・・。そのふみの身体が変異して出現したのが、彼女なのさ」
「そ、そんな・・・それ、どういうこと?」
 局部を潰され、昏倒していた重人は、あの後体育館で何があったのか、実際には見ていない。
 ただ、ふみが怪物と化して杏里たちを襲ったという話は聞いていた。
 でも、なぜそのふみが、杏里そっくりの姿に・・・?
「そんなことより、もっと詳しく教えなさい」
 重人の前に歩み寄ると、杏里そっくりの少女が言った。
「地下では何が起こってるの? その零というのは誰なの?」
   


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