激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
450 / 463
第10部 姦禁のリリス

#96 対決⑯

しおりを挟む
 こんなに硬かったか?
 由羅は次第に焦り始めていた。
 いくら床に打ちつけても、零の頭蓋が割れないのだ。
 脊椎を折られて十分に力が入らないのか、それとも零の肉体構造自体が強化されているのか・・・。
 零の後頭部は皮膚が裂け、長い黒髪が血にまみれている。
 その下のリノリウムの床には放射状にひびが入り、打撃の激しさを物語っていた。
 こうなったら、くびり殺してやるまでだ。
 由羅は戦法を変え、零の細い首を両手でつかんだ。
「死にやがれ!」
 体重をかけ、渾身の力で締め上げにかかる。
 零は顔色ひとつ変えず、必死で己の喉を絞めつける由羅を見上げている。
 その切れ長の眼に光る縦に細い瞳は、まるで毒蛇のそれのように薄気味が悪い。
 そうしてどれだけの間、締め続けたのか。
 疲労と出血でふと意識が遠のいた、その一瞬のことだった。
 由羅はふと、両手首を掴まれるのを感じて、驚愕に目を見張った。
 零が動いている。
 呪縛から解放されたかのように、両手を曲げ、由羅の手首を下から握っているのだ。
「お、おい、どういうことだ?」
 由羅は傍らにひざまずくルナのほうを振り返った。
 ルナは右手で片目を覆っている。
 零に潰されていない、無事なほうの眼に手を当ててうめいている。 
 その手の間から血が滴っているのに気づいて、由羅は思わず声をかけた。
「どうしたんだ、ルナ? 大丈夫か?」
「ごめん・・・由羅」
 ルナが苦しそうな声で詫びた。
「私、もう、持ちそうにない・・・」
 そういうことか。
 由羅は青ざめた。
 ルナが精魂尽き果てたせいで、零の自由を奪っていた念動力が切れかけているのだ。
「ふたりがかりで、この程度か」
 由羅の両手をねじり上げながら、不気味なまでに落ち着いた口調で、零が言った。
「しょせん、おまえたちパトスなど、下等動物に造られた出来損ない。われらの劣化コピーに過ぎないのさ」
 軽々と由羅の腕をひねり上げ、零が上体を起こした。
「く、くそっ・・・」
 歯嚙みして悔しがる由羅を、両手で軽く突き放す。
 トラックにはねられたような勢いで由羅の躰が吹っ飛び、うずくまるルナに衝突した。
 放り出された人形のようなふたりを尻目に、全裸の零が立ち上がる。
「そんなに殺してほしい? 殺してほしいなら、どんな死に方がいい?」
 血の糸で網の目のように彩られた顔で、にたりと笑う。
「ばーか、まだ勝負はついちゃいねーよ!」
 上半身を起こして、由羅が叫んだ。
「誰がおまえみたいなサイコ野郎に!」
「威勢だけはいいんだね」
 零が由羅の頸を片手でつかんで持ち上げた。
「でも、その不具の躰で、おまえに何ができる? このままぐしゃぐしゃに潰してやってもいいんだよ」
「放せ!」
 苦しげに由羅がうめいた時だった。
 衝立の陰から、全身をオイルを塗ったように光らせた、裸の杏里が現れた。
「零、そこまでにして」
 大人が子どもをたしなめるような口調で、杏里が言った。
「由羅もルナも関係ない。あなたの目当ては、初めからこの私だけ。そうなんでしょう?」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...