激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第10部 姦禁のリリス

#88 対決⑧

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 壁に手を突き、百足丸は立ち上がった。
 大丈夫だ。
 ペニスを折られただけで、身体にはどこも支障はないようだ。
 足音を立てぬように、そろそろと零の背後に近づいていく。
 零は開き切った杏里の股に顔を埋め、じゅるじゅると音を立ててあふれる淫汁を啜っている。
 その間にも杏里の両足は限界まで押し開かれ、今にも関節から外れそうになっている。
 チャンスだった。
 一度破壊した頸椎は、零の持つ生来の治癒能力で、すでに復元されてしまっている。
 が、それならもう一度壊してやるだけだ。
 少なくともそれでまた、一時的に零を行動不能にできるはずだった。
 りつを連れて逃げる時間ぐらいは稼げるだろう。
 十分に近づき、右腕を振り上げる。
 鍼と化した爪を、目の前の零の白いうなじめがけて振り下ろした、その時だった。
 いつもなら何の抵抗もなく皮膚に吸いこまれるはずの鍼が、1ミリも刺さらぬままぐにゃりと曲がった。
 まずい。
 百足丸の顔から血の気が引いた。
 零の皮膚が硬化している。
 鋼鉄のように硬くなっているのだ。
「しつこい」
 零が、杏里の裸身を足元に投げ出した。
「邪魔されるのは、我慢ならないんだよ」
 首だけねじって、百足丸を見た。
 爬虫類のそれを思わせる縦長の瞳孔が、怒りで揺れている。
「うわっ!」
 身体ごと振り向くなり、飛び退ろうとする百足丸に向かって、零のしなやかな右腕が伸びた。
 殺される!
 悲鳴を上げかけた瞬間だった。
「うっ?」
 ふいに零の躰が、宙に浮いた。
 百足丸を捕まえる寸前のところで、前のめりに床に倒れ込む。
「な、なんだ?」
 驚愕に見開いた眼で、百足丸は、見た。
 零の左足首を、由羅がつかんでいる。
 血にまみれたいずなの下から這い出た由羅が、右手を伸ばして零の足首をがっしりと握っているのだ。
「まだなんにも終わってないぜ」
 血に汚れた顔でにたりと笑って、由羅が言う。
 背骨を折られて半身不随にされたはずだが、上半身は健在ということらしい。
「しつこい!」
 零がまなじりを吊り上げた。
「しつこい! しつこい! しつこい! どいつもこいつも!」
 自由なほうの右足を振り上げ、由羅の頭を蹴ろうとした。
 が、零の足は由羅の奇妙な形の髪をかすっただけだった。
 だしぬけに、すごい勢いで零の躰が上昇し、鈍い音を立てて天井にぶつかったのだ。
「しつこくて、悪かったわね」
 由羅の向こうから、やおらルナが身を起こした。
 顔を上げ、無事なほうの右目で、天井にはりつけになった零をじっと睨みつけている。
「残念だけど、片目でも力は発揮できるのよ」
「おまえたち、誰に向かってモノを言っている」
 歯軋りするような声で、零が吐き捨てた。
「そんなことして、ただで済むと思うのか」


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