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第10部 姦禁のリリス
#84 対決④
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「いずなちゃんを、放して」
棒を呑んだように立ち尽くすルナの後ろから進み出ると、正面から零を見つめて、杏里は言った。
「いずなちゃんは関係ない。零、あなたが欲しいのは、この私の躰でしょう?」
「そうはいかない」
零が面白そうに片方の眉を吊り上げた。
「そこの新顔、どうせ新しいパトスだろう? しかも、殺したはずの由羅まで蘇生しているとは。ふたりもパトスを引き連れてきて、おまえが素直に私の言うことを聞くとは思えない」
「重人、さっきの手を使えよ」
杏里の後ろで由羅がささやいた。
「ほら、杏里を助けた時、使ったやつ」
つまりはテレパシーでいずなを目覚めさせ、何らかの行動を起こさせて零の隙をつくれというのだろう。
「それが、無理なんだよ」
ひそひそ声で、重人が言い返す。
「いずなのやつ、ほとんど死にかけてる。出血が多すぎて、造血機能が追いついていないみたいなんだ。早く助けないと、脳に血液が行かなくなって、零に頭を潰される前に死んじゃうよ」
そんな・・・。
杏里は下唇を噛みしめた。
確かに、改めて見ると、いずなはひどいありさまだった。
乳房を毟り取られただけでなく、全身の皮膚を簾のように切り刻まれ、あちこちから多量に出血しているのだ。
最も出血量が多いのは、細い太腿と太腿の間にのぞく陰部だった。
膣から会陰部にかけてが、まるで鋭利な刃物で切り裂かれたように縦に裂け、床に夥しい鮮血を滴らせている。
「わからないの? その子を放しなさいってば」
杏里の手を振り払い、ルナが一歩前に歩み出た。
その時になって、杏里は初めてそれに気づいた。
いつのまにか、ルナの頭の上に、円を描くようにして何本もの手術用メスが浮遊している。
「サイキックタイプか」
ゆっくりと回転する刃物の円を見上げて、零がつぶやいた。
「初めてお目にかかるけど…でも、そんなおもちゃで私を殺せるとでも?」
いずなを片手で吊り下げたまま、零がルナの前に進み出た。
「それに、そのメスが1ミリでも動いたら、私はこの子の頭蓋を握り潰す。それでも、いいの?」
「くう・・・」
悔しそうにうめき、ルナが数歩、後じさる。
「やめて、ルナ。これ以上、零を刺激しないで」
杏里はルナの手首を握り、引っ張った。
「でも・・・」
怒りのあまりか、ルナの顔の周りでは長くしなやかな髪が後光のように広がって、風もないのに靡いている。
「おまえ、綺麗な顔、してるね」
ルナが動けないのをいいことに、零が更に一歩近寄り、その顔をじっとのぞきこんだ。
零とルナは、髪と目の色をのぞけば、髪型も背丈も体つきもよく似ている。
和風の零を西洋風に変えるとルナになる。
ふたりを眺めていて、そんな感じがする、と何の脈絡もなく、杏里は思った。
「綺麗なものは好きだよ。壊れた時、興奮するから」
ルナの頬に、零が右手の人差し指を伸ばした。
「触らないで!」
金切り声を上げ、ルナがそれをはねのけた、その瞬間だった。
零の指が目にもとまらぬ速さで翻り、いきなりルナの左眼に突き刺さった。
「きゃあああああっ!」
絶叫するルナ。
「ごめんね。指が滑ったみたい」
ぽつりとつぶやいて、零が指を引き抜いた。
指先に、ルナの碧い眼球が突き刺さっている。
その人差し指を口元に持っていくと、血みどろの眼球を口に放り込み、零はうまそうに咀嚼し始めた。
棒を呑んだように立ち尽くすルナの後ろから進み出ると、正面から零を見つめて、杏里は言った。
「いずなちゃんは関係ない。零、あなたが欲しいのは、この私の躰でしょう?」
「そうはいかない」
零が面白そうに片方の眉を吊り上げた。
「そこの新顔、どうせ新しいパトスだろう? しかも、殺したはずの由羅まで蘇生しているとは。ふたりもパトスを引き連れてきて、おまえが素直に私の言うことを聞くとは思えない」
「重人、さっきの手を使えよ」
杏里の後ろで由羅がささやいた。
「ほら、杏里を助けた時、使ったやつ」
つまりはテレパシーでいずなを目覚めさせ、何らかの行動を起こさせて零の隙をつくれというのだろう。
「それが、無理なんだよ」
ひそひそ声で、重人が言い返す。
「いずなのやつ、ほとんど死にかけてる。出血が多すぎて、造血機能が追いついていないみたいなんだ。早く助けないと、脳に血液が行かなくなって、零に頭を潰される前に死んじゃうよ」
そんな・・・。
杏里は下唇を噛みしめた。
確かに、改めて見ると、いずなはひどいありさまだった。
乳房を毟り取られただけでなく、全身の皮膚を簾のように切り刻まれ、あちこちから多量に出血しているのだ。
最も出血量が多いのは、細い太腿と太腿の間にのぞく陰部だった。
膣から会陰部にかけてが、まるで鋭利な刃物で切り裂かれたように縦に裂け、床に夥しい鮮血を滴らせている。
「わからないの? その子を放しなさいってば」
杏里の手を振り払い、ルナが一歩前に歩み出た。
その時になって、杏里は初めてそれに気づいた。
いつのまにか、ルナの頭の上に、円を描くようにして何本もの手術用メスが浮遊している。
「サイキックタイプか」
ゆっくりと回転する刃物の円を見上げて、零がつぶやいた。
「初めてお目にかかるけど…でも、そんなおもちゃで私を殺せるとでも?」
いずなを片手で吊り下げたまま、零がルナの前に進み出た。
「それに、そのメスが1ミリでも動いたら、私はこの子の頭蓋を握り潰す。それでも、いいの?」
「くう・・・」
悔しそうにうめき、ルナが数歩、後じさる。
「やめて、ルナ。これ以上、零を刺激しないで」
杏里はルナの手首を握り、引っ張った。
「でも・・・」
怒りのあまりか、ルナの顔の周りでは長くしなやかな髪が後光のように広がって、風もないのに靡いている。
「おまえ、綺麗な顔、してるね」
ルナが動けないのをいいことに、零が更に一歩近寄り、その顔をじっとのぞきこんだ。
零とルナは、髪と目の色をのぞけば、髪型も背丈も体つきもよく似ている。
和風の零を西洋風に変えるとルナになる。
ふたりを眺めていて、そんな感じがする、と何の脈絡もなく、杏里は思った。
「綺麗なものは好きだよ。壊れた時、興奮するから」
ルナの頬に、零が右手の人差し指を伸ばした。
「触らないで!」
金切り声を上げ、ルナがそれをはねのけた、その瞬間だった。
零の指が目にもとまらぬ速さで翻り、いきなりルナの左眼に突き刺さった。
「きゃあああああっ!」
絶叫するルナ。
「ごめんね。指が滑ったみたい」
ぽつりとつぶやいて、零が指を引き抜いた。
指先に、ルナの碧い眼球が突き刺さっている。
その人差し指を口元に持っていくと、血みどろの眼球を口に放り込み、零はうまそうに咀嚼し始めた。
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