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第10部 姦禁のリリス

#83 対決③

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「何か来たって、なんだよ! 零のほかにもヤバいやつがいるっていうのかよ」
 通路の天井を見上げて、苛立たしげに由羅が言った。
「よ、よくわからない・・・。でも、感じるんだ。すっごく邪悪な意志を・・・世界中のすべてを呪ってるみたいな」
「それが何なのかはわからないけど、だったら尚更早く済ませないと」
 怯えて立ちすくむ重人を、杏里が促した。
 通路の右手はちょっとしたレストルームになっていて、丸テーブルや自動販売機が備えられている。
 だが、今、テーブルは派手にひっくり返り、床には防弾チョッキ姿の男たちの死体がいくつも転がっていた。
 その間には、銃器を握ったままの腕や、根元から引き抜かれた脚などが乱雑に放置されている。
 血しぶきは天井にまで迷彩模様を描き、ここでいかに激しい戦闘が行われたのかを暗示していた。
 破壊された防御扉をまたぎ超えると、通路の突き当りに両開きの扉が現れた。
 セキュリティロックのかかるICUのドアに似ているが、これも半ば捻じ曲げられ、隙間が開いていた。
「ここね」
 ミニワンピースの裾をなびかせて杏里の前へ出ると、低いがよく通る声でルナが言った。
「ええ。私の記憶が正しければ」
 杏里はうなずいた。
「あの様子だと、中に零がいるのはまず間違いない。気をつけて」
「下がってて」
 ルナが心持ち両足を開き、碧い眼でねじれたドアを睨みつけた。
 次の瞬間、まるで見えない巨人の手で引きはがされたかのように、片方の金属扉が手前に倒れ込んできた。
 耳を聾する轟音が収まると、異様な光景が杏里の視界に飛びこんできた。
 いくつものベッドが並ぶ、縦に長い部屋である。
 その中央で、真っ裸の少女が、血まみれになって宙吊りになっている。
 未成熟の少女の肢体からは乳房がふたつともえぐり取られ、その後に血みどろの丸い穴が開いている。
 少女の斜め後ろの壁際に、奇妙な角度に首を折られた巨大な黒い犬が2頭、折り重なるようにして死んでいる。
 皮一枚でかろうじてつながった頭部は、顔面を潰され、ぐちゃぐちゃの肉塊と化していた。
「来たね」
 血塗れのいずなの背後から、ハスキーな女の声がした。
「零・・・」
 杏里はうめいた。
 いずなの後頭部を左手で鷲掴みにして、全裸の零が立っている。
 零のほうが頭一つ分背が高いので、掴み上げられたいずなのつま先は、完全に床から浮いてしまっているのだ。
「この子、まだ生きてるけど」
 口角を三日月形に吊り上げて、零が言った。
「おまえたちの出方次第では、この頭、握り潰すから」

 

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