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第10部 姦禁のリリス

#71 異変①

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 会議に次ぐ会議で、小田切勇次は疲れ切っていた。
 原種薔薇保存委員会極東支部も、所詮は旧来の日本の悪しき官僚組織の弊害を引きずっているのだ。
 コの字型に並んだテーブルで、各部署の報告が延々と続く。
 スクリーンに映し出される画像は、世界各地で捕獲された外来種のものばかりだ。
 その種類は多岐にわたり、もはや人間の姿を留めていない者も多かった。
 変異外来種。
 さまざまな動物の機能を取り込んだような出来損ないの個体たち。
 外来種が人類の進化の過程で生まれた鬼子なら、こいつらはその鬼にもなれなかった不良品なのだろう。
 なぜ出来損ないが増殖しているのか。
 議論の的は、そこだった。
 地球環境の急変。
 外来種の先祖返り。
 招かれた生物学や遺伝子工学の専門家たちが、勝手放題の意見を述べる。
 が、小田切にとっては、どうでもいいことだった。
 そんなことは、彼女に訊けばいいのに、と思う。
 この委員会本部の心臓、あのサイコジェニーにはすべてがわかっているはずだからだ。
 外来種が実在するからには、その裏にそれを地球環境に持ち込んだ何者かが存在するー。
 会議はいつもそこで行き詰まる。
 ”神”という概念を持ち出すのを誰もが避けているせいだ。
 それを最初に口に出して失笑を浴びるのを、研究者たちは皆恐れている・・・。
 だが、と小田切は思うのだ。
 未来を見通すというサイコジェニーは、まさにその神に近い存在ではないのか。
 だったら、その上の階梯に属する更なる神、そう、オーバーロードとでも呼ぶべき何かが実在するとしても、あながち不思議ではないだろう。

 何時間にも及ぶ会議から解放され、小田切は特に行く当てもなく、管制室に顔を出した。
 本部の中で、一番早く情報が集まるのはここだ。
 今はまず、杏里のその後を知りたかった。
 諜報班は、裏委員会の基地を見つけたのだろうか。
 あんな会議はお偉方に任せておいて、できることなら杏里の捜索に関わりたかった。
 生意気でやたらフェロモンをふりまくハネッ返りだが、長い間一緒に暮らしていると情が移る。
 小田切にとり、杏里は単なる生体兵器ではなく、今や世話の焼ける妹のような存在なのだ。
「なにかわかったか?」
 部屋に入るなり、気のなさそうに声をかけた小田切だったが、すぐにいつもと雰囲気が違うことに気づいた。
 パソコンの前に座った係員たちが、皆、妙に浮き足立っている。
「ん? どうした?」
 気になってたずねると、リーダーらしき中年女性が、壁を埋め尽くすモニター画面のひとつを指さした。
「それが・・・変なんです。培養槽から、あの”黒体”が消えています…」

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