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第10部 姦禁のリリス
#63 迎撃⑨
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百足丸は、ドアの脇に貼りついた。
生き延びるためには、零を殺すしかない。
いや、殺すことはできなくとも、せめて戦闘不能の状態に落とし込んでやるのだ。
ひょっとしたら、”あれ”の腹の中では俺の子どもが育ちつつあるのかもしれない。
毎日のように、精が涸れるまで犯し続けたのだ。
零が妊娠していても、不思議ではない。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
井沢の計画なんて、くそくらえだ。
俺は、交尾の後のカマキリのオスのように、むざむざ貪り食われるわけにはいかないのだ。
こんなところで死んでなるものか。
百足丸が顎をしゃくると、りつがスタスタとドアに歩み寄った。
「これこれ、そんなに乱暴するんじゃないよ。ドアが壊れちまうじゃないか。今空けてやるから、大人しくおし」
そう言いながら、たわんだドアをスライドさせた。
その瞬間、ぷんと濃厚な血の匂いが流れ込んできて、あやうく百足丸は吐きそうになった。
足元も立てず、優雅な身ごなしで、長身の少女が入ってくる。
ストレートの黒髪を背中まで流した、全裸の零である。
「あんたが、黒野零さんかい?」
痩身の美少女を見上げて、りつが訊いた。
怖いもの知らずといえばいいのか、全身から殺気を迸らせる零を目の前にして、大した度胸である。
「なんだ、おまえは?」
零の眼が動いた。
蛇の眼のように、瞳孔が縦に細い独特のまなざしだった。
「あたしゃ、りつと言ってね。ここでお世話になってるしがないばあさんだよ。もっとも、杏里のおかげでだいぶ若返ることができたがね」
いひひひと笑うりつ。
まったく物怖じしないその態度は、立派としかいいようがない。
「杏里はどこだ?」
りつを睨み下ろして、鋭く零が訊く。
零は全身に鮮血を浴び、左手にちぎれた若い女の首を提げていた。
髪が蛇になった変異外来種の首級のようだ。
「こうなりたくなければ、さっさと杏里を出すがいい」
左手に持った死人の首を、無造作に放り投げて零が畳みかけた。
「杏里はここにはいないよ。でも、あれを見てごらん。素敵な眺めだと思わないかい?」
りつの言葉に、零はようやくいずなの存在に気づいたようだった。
壁際でカーテンレールから吊るされたいずなを、2頭のドーベルマンが玩具にしている。
オスが二本足で立ち上がり、バックから犯している。
そしてメスはその小ぶりの乳房に牙を立て、今しも引きちぎろうとしているところである。
「これは・・・?」
零の瞳の色が、目まぐるしく変わり始めた。
虹のように移り変わるそのさまは、彼女の情動の変化を現しているのだ。
犬たちに未成熟の身体を蹂躙されながら、いずなはしきりに喘いでいる。
痛みを快感に変える機能を持ついずなは、快楽に溺れるとどことなく杏里に似てくるようだった。
同じタナトスという種のなせる業だったのかもしれない。
磁石に引かれるように、零がいずなに向かって歩き出す。
すでにりつには何の関心も抱いていないらしく、モノを扱うように押しのけた。
やったぞ、引っかかった。
百足丸は、心の中で快哉を叫んだ。
そっと右手を上げる。
チャンスは1回しなない。
このワンチャンスに賭けるのだ。
伸ばした人差し指の先で、鍼が鈍く光った。
生き延びるためには、零を殺すしかない。
いや、殺すことはできなくとも、せめて戦闘不能の状態に落とし込んでやるのだ。
ひょっとしたら、”あれ”の腹の中では俺の子どもが育ちつつあるのかもしれない。
毎日のように、精が涸れるまで犯し続けたのだ。
零が妊娠していても、不思議ではない。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
井沢の計画なんて、くそくらえだ。
俺は、交尾の後のカマキリのオスのように、むざむざ貪り食われるわけにはいかないのだ。
こんなところで死んでなるものか。
百足丸が顎をしゃくると、りつがスタスタとドアに歩み寄った。
「これこれ、そんなに乱暴するんじゃないよ。ドアが壊れちまうじゃないか。今空けてやるから、大人しくおし」
そう言いながら、たわんだドアをスライドさせた。
その瞬間、ぷんと濃厚な血の匂いが流れ込んできて、あやうく百足丸は吐きそうになった。
足元も立てず、優雅な身ごなしで、長身の少女が入ってくる。
ストレートの黒髪を背中まで流した、全裸の零である。
「あんたが、黒野零さんかい?」
痩身の美少女を見上げて、りつが訊いた。
怖いもの知らずといえばいいのか、全身から殺気を迸らせる零を目の前にして、大した度胸である。
「なんだ、おまえは?」
零の眼が動いた。
蛇の眼のように、瞳孔が縦に細い独特のまなざしだった。
「あたしゃ、りつと言ってね。ここでお世話になってるしがないばあさんだよ。もっとも、杏里のおかげでだいぶ若返ることができたがね」
いひひひと笑うりつ。
まったく物怖じしないその態度は、立派としかいいようがない。
「杏里はどこだ?」
りつを睨み下ろして、鋭く零が訊く。
零は全身に鮮血を浴び、左手にちぎれた若い女の首を提げていた。
髪が蛇になった変異外来種の首級のようだ。
「こうなりたくなければ、さっさと杏里を出すがいい」
左手に持った死人の首を、無造作に放り投げて零が畳みかけた。
「杏里はここにはいないよ。でも、あれを見てごらん。素敵な眺めだと思わないかい?」
りつの言葉に、零はようやくいずなの存在に気づいたようだった。
壁際でカーテンレールから吊るされたいずなを、2頭のドーベルマンが玩具にしている。
オスが二本足で立ち上がり、バックから犯している。
そしてメスはその小ぶりの乳房に牙を立て、今しも引きちぎろうとしているところである。
「これは・・・?」
零の瞳の色が、目まぐるしく変わり始めた。
虹のように移り変わるそのさまは、彼女の情動の変化を現しているのだ。
犬たちに未成熟の身体を蹂躙されながら、いずなはしきりに喘いでいる。
痛みを快感に変える機能を持ついずなは、快楽に溺れるとどことなく杏里に似てくるようだった。
同じタナトスという種のなせる業だったのかもしれない。
磁石に引かれるように、零がいずなに向かって歩き出す。
すでにりつには何の関心も抱いていないらしく、モノを扱うように押しのけた。
やったぞ、引っかかった。
百足丸は、心の中で快哉を叫んだ。
そっと右手を上げる。
チャンスは1回しなない。
このワンチャンスに賭けるのだ。
伸ばした人差し指の先で、鍼が鈍く光った。
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