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第10部 姦禁のリリス
#59 追撃⑤
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車の屋根から由羅が飛び出した。
黒革のミニスカートを鳥の翼のようにはためかせ、逞しい太腿と白い下着も露わにマイクロバスに飛び移る。
それと同時に、バスの側面から次々と蜘蛛男たちが現れた。
あり得ない角度に曲がった棘だらけの四肢を動かし、アスファルトの上をこっちに向かって這ってくる。
その時にはすでに、ルナは目覚めていた。
塔子と重人の間から身を乗り出し、迫りくる変異体たちに向かって精神を集中する。
まるで地雷を踏んだかのようだった。
たどりく前に、3体の怪物が次々に爆発した。
その千切れた手足をタイヤが巻き込み、ガクンガクンと車が振動する。
前方では、由羅を屋根に貼りつかせたマイクロバスが車線を逸れようとしていた。
走行車線からはみ出すと、ガードレールに激突し、それをテープのように引きちぎって、左手に広がる休耕地に突っ込んだ。
どうやら由羅がフロントガラスを割り、運転手を急襲したらしい。
「降りましょう」
路肩に車を止めて、塔子が言った。
「博士はここでお待ちください。私たちが笹原杏里を回収します」
「わかった」
老人がうなずいた。
「だが、くれぐれも無理をせぬよう。特にルナは、マインドコントロールに注意しなさい。おまえがまた敵の手に落ちたら、たとえあの由羅でも、勝ち目はない」
「同じ失敗は繰り返さない」
ドアに手をかけ、突き詰めた表情でルナが言った。
「それに、私は杏里に会いたい。どうしても」
塔子、重人、ルナの順で車を降りた。
マイクロバスは、タイヤを軟土にめり込ませたまま、斜めにかしいで止まっている。
重人たちが近づくと、屋根から由羅が飛び降りてきた。
「杏里は間違いなくこの中にいるんだな」
重人に向かって確認する。
「うん、たぶん、真布ばあさんと、あのミラーグラスの男も一緒にね」
「邪眼に注意か」
「ああ。富樫博士もそう言ってた」
「じゃあ、まずその外来種の親玉を潰さなきゃな」
重人がうなずいた時である。
半ば開いたバスの側面に、動きが起こった。
「そいつはあんまり穏やかじゃないな」
男の声がして、ミラーグラスが夕陽を反射した。
「杏里・・・」
由羅がうめいた。
全裸の杏里が、男に後ろから抱きかかえられている。
オイルを塗ったように全身の肌が光沢を帯びているのは、ついさっきまで快楽に溺れていた証拠だろう。
男は左手で杏里を抱きしめ、右手にピストルを握っている。
銃身は杏里のこめかみに当てられ、指がトリガーにかかっていた。
「こんなチンケなサスペンスドラマみたいな安っぽいシチュエーションには、我ながら反吐が出そうなんだが」
余裕の笑みを口元に浮かべ、男が言った。
「君らがそこまで無茶をするなら、仕方がない。お仲間なら、知ってるだろう? 不死身のタナトスといえども、脳組織の再生は不可能だ。つまり、私がここで引き金を引けば、間違いなく杏里は死ぬ」
「くそったれ! きたねえぞ!」
由羅がわめいた。
「あなた、確か、井沢って言ったわね」
その由羅を押しのけて、ルナが前に歩み出た。
そうして、溜まった息を吐き出すように、低く抑えた声で言った。
「ここまで私を怒らせて、タダで済むと思ってる?」
黒革のミニスカートを鳥の翼のようにはためかせ、逞しい太腿と白い下着も露わにマイクロバスに飛び移る。
それと同時に、バスの側面から次々と蜘蛛男たちが現れた。
あり得ない角度に曲がった棘だらけの四肢を動かし、アスファルトの上をこっちに向かって這ってくる。
その時にはすでに、ルナは目覚めていた。
塔子と重人の間から身を乗り出し、迫りくる変異体たちに向かって精神を集中する。
まるで地雷を踏んだかのようだった。
たどりく前に、3体の怪物が次々に爆発した。
その千切れた手足をタイヤが巻き込み、ガクンガクンと車が振動する。
前方では、由羅を屋根に貼りつかせたマイクロバスが車線を逸れようとしていた。
走行車線からはみ出すと、ガードレールに激突し、それをテープのように引きちぎって、左手に広がる休耕地に突っ込んだ。
どうやら由羅がフロントガラスを割り、運転手を急襲したらしい。
「降りましょう」
路肩に車を止めて、塔子が言った。
「博士はここでお待ちください。私たちが笹原杏里を回収します」
「わかった」
老人がうなずいた。
「だが、くれぐれも無理をせぬよう。特にルナは、マインドコントロールに注意しなさい。おまえがまた敵の手に落ちたら、たとえあの由羅でも、勝ち目はない」
「同じ失敗は繰り返さない」
ドアに手をかけ、突き詰めた表情でルナが言った。
「それに、私は杏里に会いたい。どうしても」
塔子、重人、ルナの順で車を降りた。
マイクロバスは、タイヤを軟土にめり込ませたまま、斜めにかしいで止まっている。
重人たちが近づくと、屋根から由羅が飛び降りてきた。
「杏里は間違いなくこの中にいるんだな」
重人に向かって確認する。
「うん、たぶん、真布ばあさんと、あのミラーグラスの男も一緒にね」
「邪眼に注意か」
「ああ。富樫博士もそう言ってた」
「じゃあ、まずその外来種の親玉を潰さなきゃな」
重人がうなずいた時である。
半ば開いたバスの側面に、動きが起こった。
「そいつはあんまり穏やかじゃないな」
男の声がして、ミラーグラスが夕陽を反射した。
「杏里・・・」
由羅がうめいた。
全裸の杏里が、男に後ろから抱きかかえられている。
オイルを塗ったように全身の肌が光沢を帯びているのは、ついさっきまで快楽に溺れていた証拠だろう。
男は左手で杏里を抱きしめ、右手にピストルを握っている。
銃身は杏里のこめかみに当てられ、指がトリガーにかかっていた。
「こんなチンケなサスペンスドラマみたいな安っぽいシチュエーションには、我ながら反吐が出そうなんだが」
余裕の笑みを口元に浮かべ、男が言った。
「君らがそこまで無茶をするなら、仕方がない。お仲間なら、知ってるだろう? 不死身のタナトスといえども、脳組織の再生は不可能だ。つまり、私がここで引き金を引けば、間違いなく杏里は死ぬ」
「くそったれ! きたねえぞ!」
由羅がわめいた。
「あなた、確か、井沢って言ったわね」
その由羅を押しのけて、ルナが前に歩み出た。
そうして、溜まった息を吐き出すように、低く抑えた声で言った。
「ここまで私を怒らせて、タダで済むと思ってる?」
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