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第10部 姦禁のリリス
#57 追撃③
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工場の裏にある駐車場から塔子が出してきたのは、今流行の大型ワゴン車だった。
全身真っ黒で、正面の銀色のグリルが、獰猛な機械獣の貌のように見える。
車はこの廃工場に似合わぬ新車だった。
富樫老人の背後にも、委員会や裏委員会のような組織がついているのだろうか。
近づいてくる値の張りそうな車を眺めながら、重人は思った。
考えてみれば、博士はタナトス計画発祥にかかわるマッドサイエンティストなのである。
政府黙認の人体実験を幾度となく繰り返して、重人たち異能者をつくりだした元凶なのだ。
少しでも事情を知っている者なら、そんな危ない人間を放置しておくはずがない。
「乗って」
側面のドアをスライドさせて、サングラスで顔を隠した御門塔子が言った。
重人が助手席に、ルナを抱えた老人が真ん中の座席、由羅が最後列の席に乗り込んだ。
「沼人形工房は、JRの駅のすぐ近く。旧商店街のはずれだから、ここからそんなに遠くない」
重人が説明すると、
「車なら10分ってとこね。でも、笹原杏里をどこへ連れていくつもりかしら」
カーナビをセットしながら、塔子がたずねた。
「病院だって言ってた。近くに裏委員会の息のかかった病院があるんじゃないかな。本来は地下通路でつながってたらしいんだけど、零が逃げ出したせいで、そのルートが使えなくなったらしい」
「しっかし、あの工房の下に、そんな地下施設があったなんてな。何度か行ったけど、全然気づかなかったぜ」
後部座席にふんぞり返って、由羅がぼやく。
大胆に足を組んでいるため、今にも革のミニスカートから下着が見えそうだ。
「元は、よくある旧日本軍の塹壕じゃないかな。きっとそれを改造したんだよ」
「資金は?」
「大方、真布ばあさんが入ってるロータリークラブの金持ち老人たちが、みんなで援助したんだろうよ。この国の個人資産の8割は、彼ら老人が持ってるから」
「けっ、若返るためなら何でもありってわけか」
重人と由羅の会話を、間にはさまれた老人は、何を考えているのか、ただにこにこしながら聞いているだけだ。
その隣では、ルナが老人の肩に頭を乗せて、じっと目を閉じている。
ブルーのワンピースに包まれた身体が時折震えるのは、いまだ快感の余韻に浸っているからだろうか。
やがて国道に出ると、塔子が車のスピードをアップした。
新幹線の高架が見えてきて、それをくぐってしばらく行くと、駅前のロータリーだ。
その前を通り過ぎ、踏切を渡ると、そこからがさびれたシャッター商店街だった。
猫の子一匹通らない往来を突っ切ると、左手に黒光りするお寺の門のようなものが見えてきた。
沼人形工房の玄関である。
門は開いていた。
空気に排気ガスの臭いが色濃く残っている。
「たぶんここを出たばかりだ。杏里の”気配”が強くなってる」
さっきと比べると、杏里はかなり落ち着いたようだ。
だが、時折エクスタシーの快感が思い出したようによみがえる。
そのたび重人は幻のペニスの勃起に悩まされるのだった。
「病院もこの方角ね。中規模の私立総合病院が、1キロもいかないうちにあるみたい」
塔子の声に、ナビを見る。
なるほど、進行方向の丘の上に、病院の地図記号が出ていた。
商店街を出ると、周囲が耕作地に変わった。
収穫を終えた田畑が、秋空の下に延々と続いている。
ここまで見晴らしがいいと、さすがに見えてきた。
ずっと先を、20人乗りのマイクロバスが走っている。
「あれだ」
重人は言った。
「裏委員会だから、装甲車か戦車を予想してたけど、意外に普通の車だね」
「あのすぐ後ろにつけてくれ」
いつのまにか、由羅がすぐ後ろに来ていて、運転席に身を乗り出した。
「うちが一気にカタをつけてくるからさ」
全身真っ黒で、正面の銀色のグリルが、獰猛な機械獣の貌のように見える。
車はこの廃工場に似合わぬ新車だった。
富樫老人の背後にも、委員会や裏委員会のような組織がついているのだろうか。
近づいてくる値の張りそうな車を眺めながら、重人は思った。
考えてみれば、博士はタナトス計画発祥にかかわるマッドサイエンティストなのである。
政府黙認の人体実験を幾度となく繰り返して、重人たち異能者をつくりだした元凶なのだ。
少しでも事情を知っている者なら、そんな危ない人間を放置しておくはずがない。
「乗って」
側面のドアをスライドさせて、サングラスで顔を隠した御門塔子が言った。
重人が助手席に、ルナを抱えた老人が真ん中の座席、由羅が最後列の席に乗り込んだ。
「沼人形工房は、JRの駅のすぐ近く。旧商店街のはずれだから、ここからそんなに遠くない」
重人が説明すると、
「車なら10分ってとこね。でも、笹原杏里をどこへ連れていくつもりかしら」
カーナビをセットしながら、塔子がたずねた。
「病院だって言ってた。近くに裏委員会の息のかかった病院があるんじゃないかな。本来は地下通路でつながってたらしいんだけど、零が逃げ出したせいで、そのルートが使えなくなったらしい」
「しっかし、あの工房の下に、そんな地下施設があったなんてな。何度か行ったけど、全然気づかなかったぜ」
後部座席にふんぞり返って、由羅がぼやく。
大胆に足を組んでいるため、今にも革のミニスカートから下着が見えそうだ。
「元は、よくある旧日本軍の塹壕じゃないかな。きっとそれを改造したんだよ」
「資金は?」
「大方、真布ばあさんが入ってるロータリークラブの金持ち老人たちが、みんなで援助したんだろうよ。この国の個人資産の8割は、彼ら老人が持ってるから」
「けっ、若返るためなら何でもありってわけか」
重人と由羅の会話を、間にはさまれた老人は、何を考えているのか、ただにこにこしながら聞いているだけだ。
その隣では、ルナが老人の肩に頭を乗せて、じっと目を閉じている。
ブルーのワンピースに包まれた身体が時折震えるのは、いまだ快感の余韻に浸っているからだろうか。
やがて国道に出ると、塔子が車のスピードをアップした。
新幹線の高架が見えてきて、それをくぐってしばらく行くと、駅前のロータリーだ。
その前を通り過ぎ、踏切を渡ると、そこからがさびれたシャッター商店街だった。
猫の子一匹通らない往来を突っ切ると、左手に黒光りするお寺の門のようなものが見えてきた。
沼人形工房の玄関である。
門は開いていた。
空気に排気ガスの臭いが色濃く残っている。
「たぶんここを出たばかりだ。杏里の”気配”が強くなってる」
さっきと比べると、杏里はかなり落ち着いたようだ。
だが、時折エクスタシーの快感が思い出したようによみがえる。
そのたび重人は幻のペニスの勃起に悩まされるのだった。
「病院もこの方角ね。中規模の私立総合病院が、1キロもいかないうちにあるみたい」
塔子の声に、ナビを見る。
なるほど、進行方向の丘の上に、病院の地図記号が出ていた。
商店街を出ると、周囲が耕作地に変わった。
収穫を終えた田畑が、秋空の下に延々と続いている。
ここまで見晴らしがいいと、さすがに見えてきた。
ずっと先を、20人乗りのマイクロバスが走っている。
「あれだ」
重人は言った。
「裏委員会だから、装甲車か戦車を予想してたけど、意外に普通の車だね」
「あのすぐ後ろにつけてくれ」
いつのまにか、由羅がすぐ後ろに来ていて、運転席に身を乗り出した。
「うちが一気にカタをつけてくるからさ」
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