激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第10部 姦禁のリリス

#55 追撃①

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 廃工場の2階は従業員用の宿泊スペースになっている。
 装飾を一切排除した無骨なつくりなため、壁はコンクリートの打ちっ放しだし、殺風景この上ない。
 重人は今、その片隅の食堂で、由羅を前に昼食の最中だ。
「ほんとに君はよく食べるね」
 バスケットに山積みになったロールパンを次から次へと口に放り込む由羅を見て、呆れたようにそう言った。
「余計なお世話だ。おまえと違ってこっちは肉体労働が専門なんで、腹が減るんだよ」
 野菜ジュースをピッチャーからグラスになみなみと注ぎ、ひと息で飲み干して由羅が言う。
「でも今日はまだなんにもしてないじゃないか。第一、由羅はさっき起きたばかりなんだろう?」
 きのう、ルナをここに連れてきてから、ほぼ丸一日経っている。
 ルナは従業員用の保健室で、御門塔子に付き添われて休んでいるはずだ。
「大した食事を用意できなくて、悪いね」
 たわいもない言い合いをしていると、そこに富樫博士と塔子が入ってきた。
「まったくだ。さすがにこうパンばっかりだと飽きる。肉が食いたい、肉が」
 遠慮というものを知らない由羅が、ずけずけ言った。
 確かにテーブルの上にあるのは、量は多いものの、パン類とサラダだけである。
「そうだな。今夜あたり、夕食は外で摂ることにするかね」
 対面の席に座って、老人が柔和に眼を細めた。
 老人の話が本当なら、由羅も重人も彼の手でこの世に生み出されたことになる。
 だから、この老人にとり、ふたりは実の子どものようなものなのだ。
「ああ、ぜひそうしてくれ。こんな粗食じゃ、肝心の時に力が出ない」
 偉そうに言う由羅を遮って、重人は話題を変えた。
「それより、ルナは? もう眼が覚めてるでしょ?」
「それが・・・」
 言葉を濁したのは、アンドロイドのように無表情な御門塔子である。
「ずっとオナニーに耽っていて、ベッドから出ようとしないのよ」
 アンドロイドの口から”オナニー”の語が出るのも衝撃なら、その報告の内容も衝撃的だった。
「ぶはっ、マジかよ」
 噴き出したのは、由羅だった。
「あんな綺麗な顔して、あいつ、とんでもない淫乱なんだな」
「それは違うよ」
 老人の頬がかすかに引きつるのを見て取って、すかさず重人は口をはさんだ。
 ルナは老人の孫なのだ。
 どんないきさつなのかは知らないが、死んだ孫娘を老人が外来種のミトコンドリアを使って蘇生させたのだと聞いている。
「ルナの名誉のために断言しておくけど、本当の彼女はそんな子じゃない。きのうも言ったろう? ルナの洗脳はほぼ解けたけど、調教の影響はまだ残ってるんだ。杏里を篭絡したヤチカさんに、身も心も性奴にされちゃってる」
「早く笹原杏里を見つけて、ルナを浄化してもらわないとね」
 ぼそりと塔子がつぶやいた。
「あんな姿、痛々しくてとても見ていられないもの」
「そうだね。記憶も一部飛んじゃうけど、それが一番いいだろうね」
 何気なく相槌を打った時である。
 ふいに、何の前触れもなく、異様な”思念”が流れ込んできて、重人は野菜ジュースのグラスを右手に持ったまま、硬直した。
 杏里だ。
 また杏里が、快感に悶え狂っている。
 しかも、今回は影像までついていた。
 全裸の杏里を、2頭の大きな犬と老婆が凌辱している。
 老婆と犬なんてずいぶん奇妙な取り合わせだが、それでもよほど気持ちがいいのか、杏里は泡まで吹いている。
 欠落したペニスが勃起するほど、官能的な映像だった。
「くう、い、いくぅ」
 ペニスの”幻肢現象”に、次の瞬間、重人はたまらずうめき声を上げていた。
 

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