激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第10部 姦禁のリリス

#34 美里再臨

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 長い黒髪に包まれたアーモンド形の小づくりな顔。
 眼鏡の奥の眼はどちらかというと細く、通った鼻筋や薄い唇と相まって、見る者に無機質な印象を与える。
 が、その細い首から下の肉体ははちきれんばかりにスーツを押し上げ、匂うような色気を醸し出していた。
 丸尾美里。
 杏里と同じ、タナトスである。
 ただし、試作品として失敗作の烙印を押され、杏里と重人、そしていずなの3人の手によって数か月前、闇に葬り去られたはずだった。
 パトスの攻撃性とタナトスの受容性をひとつの肉体に顕現させようとした結果、美里は心身ともに制御不能の怪物と化してしまったのだ。
 外見に騙されちゃいけない。
 匍匐前進のように地面に這いつくばり、少しずつ幼児たちの群れに接近しながら、重人は思った。
 あのスーツの下には、ケロイド状に引き攣れた皮膚と、フジツボのような吹き出物に覆われた化け物の肉体が隠されている。
 そして、その噴火口みたいな開口部からは、あの気味の悪い触手が…。
「どうしたの、ボク? それでも隠れてるつもりなの? 頭隠して尻隠さずとは、まさに今のあなたのことね」
 スーツの上着を脱ぎながら、美里が近づいてくる。
 白いブラウスを、熟れた果実のような乳房が中から突き上げ、今にもボタンが弾け飛びそうだ。
 重人は懸命に這い進む。
 美里に勝てるとしたら、由羅を自由にするしかない。
 その由羅は、十人以上の幼児たちにもみくちゃにされ、すっかり姿が見えなくなってしまっている。
 重人は手の届く距離まで幼児の群れに近づくと、大地を蹴ってその中に飛び込んだ。
 両手を広げ、片っ端から幼児たちの身体に手のひらを押し当てる。
 ヒュプノスとしての重人の特技は、他人の心を操ることだ。
 手でじかに触れた相手を、一定期間、思い通りに動かせる。
 果たして、重人が身体のどこかに触れるたびに、幼児たちがひとりまたひとりと、由羅の上から脱落していく。
 やがて、重人の眼にも、仰向けになった由羅が見えてきた。
 由羅は悲惨な状態に陥ってしまっている。
 胴着の前は完全にはだけられ、首まで黒いブラジャーがずり上げられている。
 その下から露出したそこだけ陽に焼けていない真っ白な乳房に、大柄な男児が蛭のように吸いついていた。
 下半身も同様だった。
 腰までめくれあがったミニスカートの下にあらわになったハイレグ気味の黒いショーツ。
 その中に別の男児が手を突っ込み、性器を執拗にまさぐっているのだ。
「し、重人…早く、こいつらを」
 懇願する由羅と、目が合った。
 不思議なことに、由羅は熱っぽい、潤んだ瞳をしていた。
 はっ!
 重人は思わず吹き出しそうになった。
 こんな状況なのに、どうやら由羅のやつ、感じてしまっているらしい。
「いつまでも遊んでるんじゃないよ」
 最後のひとりを引きはがすと、重人は言った。
「由羅、君の相手はこんな子どもたちなんかじゃない。ほら、さっさと立って」
 肩を貸して、立ち上がらせた。
 周囲には、催眠状態にされた幼児たちが、昼寝の最中のようにごろごろ転がっている。
「ふたりいる」
 重人の手を振り払い、服の乱れを直しながら、由羅が言った。
「年増の女が美里だろ? ってことは、あのジンガイみたいなのが…」
 重人も気づいていた。
 美里の斜め後ろに、背の高い、すらりとした肢体の少女が佇んでいる。
 陽光にきらめく金色の髪。
 アクアマリンの大きな瞳。
 透き通るような肌。
 女神のような顔立ち。
 制服のブラウスとプリーツスカートがこれほどサマになる美少女は、他にいない。
「ルナ…」
 呆けたようにその美貌に見とれ、ぽつりと重人はつぶやいた。


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