激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第10部 姦禁のリリス

#30 漆黒の誕生

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 ”それ”は、自分が何者であるのか、いまだにわからないでいた。
 起こった事象だけを並べてみれば、こういうことになる。
 変異外来種に寄生され、体組織に変化を生じたふみが、杏里の肉を大量に捕食した。
 そのせいで、今度は体内で杏里の細胞が猛烈な勢いで増殖し、ふみと外来種の融合体を侵食し始めた。
 だから、現在、”それ”の中では杏里の要素が優勢になり、身体全体にもその方向への進化が始まっている。
 が、とはいうものの、ふみの要素が完全に消滅したわけでは、もちろんなかった。
 ふみはDNAレベルで杏里と複雑に混じり合い、”それ”全体の意識の組成にも大きな影響を及ぼしていた。
 いわば、変異外来種の体細胞という結合剤を使って、ふみと杏里が物理的に混じり合ったようなものだった。
 培養槽に浮遊しながら、”それ”は次第にひとりの”人間”へと収束し始めている。
 複数あった身体の部位が表皮の上を移動しながら徐々に接近し、やがてひとつにまとまり、ひとりの少女の肉体を形づくろうとしているのだ。
 が、完成にはまだ時間がかかるだろう、と”それ”は思っている。
 その前に、自分が何者なのかを理解できたらいい、そうも思っていた。
 そして更なる難題は、復活した後、自分が何を目的に生きるか、だ。
 オリジナルに会いたい。
 今のところ、唯一認識できる欲望はそれだった。
 オリジナルに再会して、もう一度、ひとつの身体に戻りたい…。
 それは、増殖した杏里の細胞が内に秘めた、本能のようなものだったのかもしれない。
 そこに、ふみの渇望が加わった。
 愛する者を食べても満たされない、愛する者に愛されることを求める渇望が…。

 こうして、人知れず今、もうひとりの杏里が生まれようとしていた。
 漆黒の肌と闇に閉ざされた心を持つ、”黒い杏里”が…。
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