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第10部 姦禁のリリス
#25 美里の決断
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「あなた、外来種ね」
開口一番、その女は言った。
人気のない職員室の応接スペースで、井沢はその女ー丸尾美里と向かい合っていた。
第一印象は、地味な中年女、といったところか。
後ろでひっつめた髪、縁なし眼鏡…。
首から上は、時代遅れの生真面目な学校教師のようだ。
が、そのグレーのスーツに包まれた身体は、胸と尻が発達し、なんとも言えない色香を醸し出している。
「どうせなら、優生種と言ってほしいね」
ミラーグラスに指をかけ、井沢は苦笑した。
「しかし、さすがだな。タナトス計画初期の頃につくられた、攻撃型タナトスだけのことはある」
「つくられた、というのは好きじゃないわ」
校庭で遊ぶ園児たちの声にともすればかき消されそうになるほど低い声で、美里が言う。
「今の私は人間たちの玩具じゃないもの。自由意志を棄て去った他のタナトスと一緒にしないで」
「その、他のタナトスには、例えば笹原杏里も入るのかな?」
井沢の突っ込みに、美里が一瞬、押し黙る。
「あんたたちの所にあの子がいることは聞いてるけど…彼女を監禁して、何に使うつもりなの?」
「それはまあ、色々とね」
井沢はこれ見よがしに、電子煙草を口に咥えた。
「話を戻しましょうか」
井沢の挑発には乗って来ず、背中を椅子のせもたれに預けると、美里がやにわに話題を変えた。
「外来種のあなたが、あなたたちの天敵タナトスである私に仲間になれと? どういう風の吹き回しなのかしら」
「ヤチカとの縁もあるが…。そもそもあんた、委員会から追放された身だろう。不適格者として。だから杏里があの学校に派遣されたと聞いている。だったら、あんたと俺たちは、利害が一致するんじゃないかと思ってね」
「私に利害なんてない。私はただここで、あの子たちと一緒に静かに暮らしたいだけ」
美里の眼が、校庭を駆けまわる園児たちに注がれる。
「そうかな。あんたについては色々聞いてるが…。なんでも趣味は調教だそうじゃないか。かつて杏里を調教して性の奴隷に仕立て上げたように、大方あの子供lたちも、ひそかに調教してるんじゃないのかい?」
「だったらどうなの。あなたには関係ないことでしょう」
井沢のたび重なる挑発も、この女には効果がないようだ。
「とにかく、俺たちに協力してくれたら、もう一度あんたに杏里を自由にする機会を与えてやる。それでどうだ? 杏里のエキスを好きなだけ吸い取って、子どもたちの調教に使う手もあるだろう? 悪い話じゃないと思うが」
美里が目を上げた。
能面のように無表情な顔に、初めて感情らしきものが動いた。
渇望にも似た、獣じみた欲情…。
「…それはいい考えかもしれない」
自分に言い聞かせるかのように、美里が小さくうなずいた。
こいつも、所詮、目的は杏里なのか。
黒野零のことを思い出し、井沢はいささか鼻白んだ。
これじゃ、まるで世界が杏里中心に回ってるみたいなものじゃないか…。
そう思ったのだ。
「それで、私に何をしてほしいの」
長い沈黙の後、美里が訊いてきた。
「メンバーが集まるまでは、しばらく独りで行動してもらわなきゃならないが…。そうだな、とりあえずは、ヤチカの屋敷をガードしてくれないか」
「ヤチカさんを? なぜ? 誰が彼女を狙ってるというの?」
「正確にいうと、狙われているのはヤチカ本人じゃない。ヤチカが匿ってるハーフの少女のほうだ。その少女を、榊由羅なる杏里の元相棒が狙っている。かなり強力なパトスだそうだ」
「パトス…」
美里の薄い唇が、三日月形に吊り上がる。
「面白いわね。それは、私がパトスハンターだと知っての依頼なのかしら?」
開口一番、その女は言った。
人気のない職員室の応接スペースで、井沢はその女ー丸尾美里と向かい合っていた。
第一印象は、地味な中年女、といったところか。
後ろでひっつめた髪、縁なし眼鏡…。
首から上は、時代遅れの生真面目な学校教師のようだ。
が、そのグレーのスーツに包まれた身体は、胸と尻が発達し、なんとも言えない色香を醸し出している。
「どうせなら、優生種と言ってほしいね」
ミラーグラスに指をかけ、井沢は苦笑した。
「しかし、さすがだな。タナトス計画初期の頃につくられた、攻撃型タナトスだけのことはある」
「つくられた、というのは好きじゃないわ」
校庭で遊ぶ園児たちの声にともすればかき消されそうになるほど低い声で、美里が言う。
「今の私は人間たちの玩具じゃないもの。自由意志を棄て去った他のタナトスと一緒にしないで」
「その、他のタナトスには、例えば笹原杏里も入るのかな?」
井沢の突っ込みに、美里が一瞬、押し黙る。
「あんたたちの所にあの子がいることは聞いてるけど…彼女を監禁して、何に使うつもりなの?」
「それはまあ、色々とね」
井沢はこれ見よがしに、電子煙草を口に咥えた。
「話を戻しましょうか」
井沢の挑発には乗って来ず、背中を椅子のせもたれに預けると、美里がやにわに話題を変えた。
「外来種のあなたが、あなたたちの天敵タナトスである私に仲間になれと? どういう風の吹き回しなのかしら」
「ヤチカとの縁もあるが…。そもそもあんた、委員会から追放された身だろう。不適格者として。だから杏里があの学校に派遣されたと聞いている。だったら、あんたと俺たちは、利害が一致するんじゃないかと思ってね」
「私に利害なんてない。私はただここで、あの子たちと一緒に静かに暮らしたいだけ」
美里の眼が、校庭を駆けまわる園児たちに注がれる。
「そうかな。あんたについては色々聞いてるが…。なんでも趣味は調教だそうじゃないか。かつて杏里を調教して性の奴隷に仕立て上げたように、大方あの子供lたちも、ひそかに調教してるんじゃないのかい?」
「だったらどうなの。あなたには関係ないことでしょう」
井沢のたび重なる挑発も、この女には効果がないようだ。
「とにかく、俺たちに協力してくれたら、もう一度あんたに杏里を自由にする機会を与えてやる。それでどうだ? 杏里のエキスを好きなだけ吸い取って、子どもたちの調教に使う手もあるだろう? 悪い話じゃないと思うが」
美里が目を上げた。
能面のように無表情な顔に、初めて感情らしきものが動いた。
渇望にも似た、獣じみた欲情…。
「…それはいい考えかもしれない」
自分に言い聞かせるかのように、美里が小さくうなずいた。
こいつも、所詮、目的は杏里なのか。
黒野零のことを思い出し、井沢はいささか鼻白んだ。
これじゃ、まるで世界が杏里中心に回ってるみたいなものじゃないか…。
そう思ったのだ。
「それで、私に何をしてほしいの」
長い沈黙の後、美里が訊いてきた。
「メンバーが集まるまでは、しばらく独りで行動してもらわなきゃならないが…。そうだな、とりあえずは、ヤチカの屋敷をガードしてくれないか」
「ヤチカさんを? なぜ? 誰が彼女を狙ってるというの?」
「正確にいうと、狙われているのはヤチカ本人じゃない。ヤチカが匿ってるハーフの少女のほうだ。その少女を、榊由羅なる杏里の元相棒が狙っている。かなり強力なパトスだそうだ」
「パトス…」
美里の薄い唇が、三日月形に吊り上がる。
「面白いわね。それは、私がパトスハンターだと知っての依頼なのかしら?」
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