激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第10部 姦禁のリリス

#13 飼育される少女②

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 裏委員会…。
 そんな組織が存在するという話を、最近聞いた気がする。
 あれは、誰が言っていたのだろう?
 重人?
 それとも、ヤチカさん?
 ともあれ、はっきりしているのは、目の前のこの男が敵側の外来種、それも首領だということだ。
 でも、どうしたらいいのだろう?
 タナトスには、パトスのような攻撃能力はない。
 この状況で、杏里に何ができるというのだろう?
 当てもなくこうべを巡らすと、男の背後のあのベッドが見えた。
 ひとつ向こうのベッドで誰かが寝ているらしいのだが、それが誰なのか、妙に気になってならないのだ。
「気になるか」
 杏里の視線に気づいて、井沢と名乗った男が言った。
「おまえさんの同類だよ。ヤチカは、確か、いずなとか呼んでたが」
 いずなちゃん?
 杏里は目を見開いた。
 重人が幻視したという、囚われたいずなの画像。
 あれは、ここでのできごとだったのだ。
 杏里は、ついさっきまでの己の状況を思い出した。
 全裸ではりつけにされ、性感帯に電気ショックを受け、老婆たちにエキスを浴びせかける肉人形…。
 いずなはおそらく、杏里が来るまで、代わりに”あれ”をさせられていたのに違いない。
「死んでるの…?」
 おそるおそる、訊いてみた。
 杏里でさえげっそり疲れるあの仕打ちである。
 駆け出しのタナトスであるいずなの身体が、そんなに長持ちするとは思えない。
「一応まだ生きてはいるが…極度の栄養失調で、意識不明の状態が続いている。もしよかったら、おまえさんの力で少し治療してやってくれないか。タナトスにも予備があったほうが、何かと都合がいいんでね」
 杏里はうなずいた。
 言われなくても、そのつもりだった。
 いずなが目を覚ましてくれれば、杏里としても心強い。
 それにしても、と思う。
 この男、今、ヤチカさんの名前を口にした。
 それに、あのおばあさんたちの中には、間違いなく人形工房の真布ばあさんも混じってた。
 これはもしかして、ふたりがこの男の仲間になっていると…そういうことなのだろうか。
「ヤチカさんと、真布ばあさんも、ここにいるのね」
 ミラーグラスに映る自分の顔を睨み据えて、杏里はたずねた。
「みんな、私を裏切ったってわけ? 私の身体を、実験動物みたいに切り刻むために」
「大人には、皆それぞれに事情があるのさ。おまえさんみたいな、子どもにはわからない複雑な事情がね」
 井沢が苦笑し、ミラーグラスに指をかけた。
「ま、それを知られてしまった以上、おまえさんをそのままにしておくわけにはいかないな」
「…どういうこと? 私に何を?」
 杏里は身構えた。
 が、遅かった。
 井沢がミラーグラスをはずし、杏里を見た。
 瞳のない黄金色の眼に見つめられ、一瞬にして、杏里の自我は上書きされた。 



 
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