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第10部 姦禁のリリス
#4 由羅の復活
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ダンダンダンッ!
がらんとした廃工場の中に、硬質の足音がこだまする。
疾風のように、何者かが走っているのだ。
黒のタンクトップに同じく黒いボクサーパンツを身に着け、鉄底のブーツを履いた少女である。
少女が床に引かれた白いラインを駆け抜けた瞬間、スポーツウェア姿の長身の女がストップウォッチを止めた。
耳の上で髪を切りそろえたアンドロイドのような女が、手のひらの中の秒針を確認して、よく通る声で言った。
「6秒2。走れば走るほど速くなるみたいね」
「100メートル6秒台か」
片隅の暗がりから声がした。
くたびれた背広姿の老人が現れる。
「オリンピック選手など、目じゃないな」
「もう、いいだろ?」
うんざりしたように、少女が振り向いた。
100メートルの全力疾走を10本は繰り返しているのに、息ひとつ切らしていない。
野生の猫を思わせる切れ上がった眼。
その目の周りを囲むダークなシャドウ。
翼を広げた蝙蝠のように奇妙な髪型をしている。
小柄だが、露出した手足は一流アスリートのそれのように、強靭な筋肉で覆われている。
「うちはもうどこも悪くない。こんなこと、続けるだけ無駄だ。それより早く杏里を探しに行かせてくれよ」
「まあ、焦るな」
明かり採りの窓から差し込む陽光の中に進み出て、老人が言った。
「どの組織に拉致されたにせよ、笹原杏里はそう簡単に殺されはしない。殺そうにも死なないのだからな。それは由羅、おまえがいちばんよく知ってるだろう」
「それはそうだけど…。もし杏里が零の手に落ちたとしたら、そんなのんびりしたことは言ってられないんだ」
零。
その名を口にする時、由羅はかすかに頬をひきつらせた。
「あの化け物、今度こそ、息の根を止めてやる」
「やめておけ」
由羅のむき出しの肩に手を置いて、老人が首を横に振る。
「おまえの気持ちはわかるが、今仮におまえが黒野零と戦っても、またやられるのが関の山だ。もう少し、その身体が新しい骨髄液と血液になじんでからでないと…。だから、今のおまえに必要なのは、むしろ仲間なのだ。おまえと同じ、パトスのな」
「パトスの、仲間…? まだそんなものが残ってるのか。能力値の高いやつらはみんなあのトーナメント戦で…」
「そこまでの記憶はあるようだな」
老人が笑った。
「確かにおまえと杏里は、この国の貴重な財産を何人も葬ってしまったが…実はもうひとり、最強のパトスがいるのだよ。おまえには、まず、彼女を探し出してもらいたい」
「最強のパトス?」
由羅の眼が光る。
「おもしろい。うちより強いっていうのかよ」
「どうだかな。ルナとおまえでは、タイプが違い過ぎるからのう」
「ルナ? それがそのパトスの名前なのか」
「ああ、富樫ルナ。未来のおまえの相棒だよ」
がらんとした廃工場の中に、硬質の足音がこだまする。
疾風のように、何者かが走っているのだ。
黒のタンクトップに同じく黒いボクサーパンツを身に着け、鉄底のブーツを履いた少女である。
少女が床に引かれた白いラインを駆け抜けた瞬間、スポーツウェア姿の長身の女がストップウォッチを止めた。
耳の上で髪を切りそろえたアンドロイドのような女が、手のひらの中の秒針を確認して、よく通る声で言った。
「6秒2。走れば走るほど速くなるみたいね」
「100メートル6秒台か」
片隅の暗がりから声がした。
くたびれた背広姿の老人が現れる。
「オリンピック選手など、目じゃないな」
「もう、いいだろ?」
うんざりしたように、少女が振り向いた。
100メートルの全力疾走を10本は繰り返しているのに、息ひとつ切らしていない。
野生の猫を思わせる切れ上がった眼。
その目の周りを囲むダークなシャドウ。
翼を広げた蝙蝠のように奇妙な髪型をしている。
小柄だが、露出した手足は一流アスリートのそれのように、強靭な筋肉で覆われている。
「うちはもうどこも悪くない。こんなこと、続けるだけ無駄だ。それより早く杏里を探しに行かせてくれよ」
「まあ、焦るな」
明かり採りの窓から差し込む陽光の中に進み出て、老人が言った。
「どの組織に拉致されたにせよ、笹原杏里はそう簡単に殺されはしない。殺そうにも死なないのだからな。それは由羅、おまえがいちばんよく知ってるだろう」
「それはそうだけど…。もし杏里が零の手に落ちたとしたら、そんなのんびりしたことは言ってられないんだ」
零。
その名を口にする時、由羅はかすかに頬をひきつらせた。
「あの化け物、今度こそ、息の根を止めてやる」
「やめておけ」
由羅のむき出しの肩に手を置いて、老人が首を横に振る。
「おまえの気持ちはわかるが、今仮におまえが黒野零と戦っても、またやられるのが関の山だ。もう少し、その身体が新しい骨髄液と血液になじんでからでないと…。だから、今のおまえに必要なのは、むしろ仲間なのだ。おまえと同じ、パトスのな」
「パトスの、仲間…? まだそんなものが残ってるのか。能力値の高いやつらはみんなあのトーナメント戦で…」
「そこまでの記憶はあるようだな」
老人が笑った。
「確かにおまえと杏里は、この国の貴重な財産を何人も葬ってしまったが…実はもうひとり、最強のパトスがいるのだよ。おまえには、まず、彼女を探し出してもらいたい」
「最強のパトス?」
由羅の眼が光る。
「おもしろい。うちより強いっていうのかよ」
「どうだかな。ルナとおまえでは、タイプが違い過ぎるからのう」
「ルナ? それがそのパトスの名前なのか」
「ああ、富樫ルナ。未来のおまえの相棒だよ」
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