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第10部 姦禁のリリス
#1 ルナの消息
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七尾ヤチカの肩越しにその少女を目の当たりにした瞬間、井沢は息を呑んだ。
細面の顔の周りで波打つブロンドに近い髪。
透き通るようなアクアマリンの瞳。
正真正銘の美少女がそこにいたからだ。
この娘が、富樫ルナ…?
同じ美少女ながら、どこか和風の要素を残した杏里とは対照的に、ルナの顔立ちは明らかに北欧系である。
手足も長く、半透明のネグリジェから透けて見える身体のシルエットは、ほとんど女神と見紛うほどだ。
が、ルナの美少女ぶりに感心している場合ではなさそうだった。
ルナは激した口調でヤチカをなじっている。
アクアマリンの瞳が怒りに燃え、握りしめたこぶしが小刻みに震えているのだ。
「ヤチカさんとか言ったよね? あなた、私に何をしたの? それから、美里とかいうあの気味の悪い女は? あなたたち、何を企んでるわけ? 体育館で、あの後杏里をどうしたの?」
潮時のようだった。
黙り込んでしまったヤチカを押しのけて、井沢は前に出た。
「あなたは誰?」
ルナがきついまなざしで睨んでくる。
危ないところだった、と井沢は思う。
もう少しそのまま放置していたら、この娘はヤチカに向かって”力”爆発させていたに違いない。
なんせ、ルナは世にも珍しい、サイキックタイプのパトスなのだ。
井沢たちにとっては、最も始末の悪い相手である。
「富樫ルナ、だな」
ミラーグラスに手を添えながら、見沢は慎重に言葉を選んだ。
「君の身体はまだ万全じゃない。君自身、気づいているとは思うが、その肉体は一時ある種の寄生虫の宿主になっていた。だから、ここで完治するまで静養する必要があるんだよ」
「そんなの嘘!」
ルナは敵愾心を剥き出しにしている。
「その女は、おかしな幼稚園児の集団を使って私を拉致して、ここに監禁しようとした。あの美里を番人につけてね。あれは、私を足止めするためだった。杏里の所に行けないように。そんなあなたたちの言うことなんて、信じられると思う?」
「信じられないのなら、信じられるようにしてやるまでさ」
ルナの瞳の輝きが強くなったのを見て取って、井沢はとっさにミラーグラスを取った。
ルナの念動力が発動するより一瞬早く、井沢の邪眼がルナの視線を捉えた。
こうなれば、もうこっちのものだ。
にらみ合いは、数秒続いたようだ。
やがて、ルナががくりと首を折った。
そのままずるずるとベッドの上に横倒しになっていく。
「後は頼んだぞ」
ルナが寝息を立て始めたのを確認すると、傍らのヤチカに井沢は声をかけた。
「おまえのテクニックで、骨の髄まで調教してやるんだ。二度と逆らう気になれないようにな」
「あなたが私にしたようにね」
寝入ったルナを凝視したまま、ヤチカが答えた。
「ところで美里はどこにいる? 屋敷の中には姿が見えないようだが」
「この時間なら、まだ幼稚園よ。彼女、あれでも本職は幼児教育だから」
「あの女が幼稚園の先生とはな。とんだブラックジョークだよ」
「それで、彼女に何の用? 彼女はまだ、完全に裏委員会に所属しているわけではないのよ」
「なに、そろそろ本腰を入れてもらおうと思ってね」
井沢が電子煙草を口にくわえて、かすかに笑った。
「幼稚園教諭より、もっと彼女に似合いの職があるんだよ」
細面の顔の周りで波打つブロンドに近い髪。
透き通るようなアクアマリンの瞳。
正真正銘の美少女がそこにいたからだ。
この娘が、富樫ルナ…?
同じ美少女ながら、どこか和風の要素を残した杏里とは対照的に、ルナの顔立ちは明らかに北欧系である。
手足も長く、半透明のネグリジェから透けて見える身体のシルエットは、ほとんど女神と見紛うほどだ。
が、ルナの美少女ぶりに感心している場合ではなさそうだった。
ルナは激した口調でヤチカをなじっている。
アクアマリンの瞳が怒りに燃え、握りしめたこぶしが小刻みに震えているのだ。
「ヤチカさんとか言ったよね? あなた、私に何をしたの? それから、美里とかいうあの気味の悪い女は? あなたたち、何を企んでるわけ? 体育館で、あの後杏里をどうしたの?」
潮時のようだった。
黙り込んでしまったヤチカを押しのけて、井沢は前に出た。
「あなたは誰?」
ルナがきついまなざしで睨んでくる。
危ないところだった、と井沢は思う。
もう少しそのまま放置していたら、この娘はヤチカに向かって”力”爆発させていたに違いない。
なんせ、ルナは世にも珍しい、サイキックタイプのパトスなのだ。
井沢たちにとっては、最も始末の悪い相手である。
「富樫ルナ、だな」
ミラーグラスに手を添えながら、見沢は慎重に言葉を選んだ。
「君の身体はまだ万全じゃない。君自身、気づいているとは思うが、その肉体は一時ある種の寄生虫の宿主になっていた。だから、ここで完治するまで静養する必要があるんだよ」
「そんなの嘘!」
ルナは敵愾心を剥き出しにしている。
「その女は、おかしな幼稚園児の集団を使って私を拉致して、ここに監禁しようとした。あの美里を番人につけてね。あれは、私を足止めするためだった。杏里の所に行けないように。そんなあなたたちの言うことなんて、信じられると思う?」
「信じられないのなら、信じられるようにしてやるまでさ」
ルナの瞳の輝きが強くなったのを見て取って、井沢はとっさにミラーグラスを取った。
ルナの念動力が発動するより一瞬早く、井沢の邪眼がルナの視線を捉えた。
こうなれば、もうこっちのものだ。
にらみ合いは、数秒続いたようだ。
やがて、ルナががくりと首を折った。
そのままずるずるとベッドの上に横倒しになっていく。
「後は頼んだぞ」
ルナが寝息を立て始めたのを確認すると、傍らのヤチカに井沢は声をかけた。
「おまえのテクニックで、骨の髄まで調教してやるんだ。二度と逆らう気になれないようにな」
「あなたが私にしたようにね」
寝入ったルナを凝視したまま、ヤチカが答えた。
「ところで美里はどこにいる? 屋敷の中には姿が見えないようだが」
「この時間なら、まだ幼稚園よ。彼女、あれでも本職は幼児教育だから」
「あの女が幼稚園の先生とはな。とんだブラックジョークだよ」
「それで、彼女に何の用? 彼女はまだ、完全に裏委員会に所属しているわけではないのよ」
「なに、そろそろ本腰を入れてもらおうと思ってね」
井沢が電子煙草を口にくわえて、かすかに笑った。
「幼稚園教諭より、もっと彼女に似合いの職があるんだよ」
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