355 / 463
第10部 姦禁のリリス
#1 ルナの消息
しおりを挟む
七尾ヤチカの肩越しにその少女を目の当たりにした瞬間、井沢は息を呑んだ。
細面の顔の周りで波打つブロンドに近い髪。
透き通るようなアクアマリンの瞳。
正真正銘の美少女がそこにいたからだ。
この娘が、富樫ルナ…?
同じ美少女ながら、どこか和風の要素を残した杏里とは対照的に、ルナの顔立ちは明らかに北欧系である。
手足も長く、半透明のネグリジェから透けて見える身体のシルエットは、ほとんど女神と見紛うほどだ。
が、ルナの美少女ぶりに感心している場合ではなさそうだった。
ルナは激した口調でヤチカをなじっている。
アクアマリンの瞳が怒りに燃え、握りしめたこぶしが小刻みに震えているのだ。
「ヤチカさんとか言ったよね? あなた、私に何をしたの? それから、美里とかいうあの気味の悪い女は? あなたたち、何を企んでるわけ? 体育館で、あの後杏里をどうしたの?」
潮時のようだった。
黙り込んでしまったヤチカを押しのけて、井沢は前に出た。
「あなたは誰?」
ルナがきついまなざしで睨んでくる。
危ないところだった、と井沢は思う。
もう少しそのまま放置していたら、この娘はヤチカに向かって”力”爆発させていたに違いない。
なんせ、ルナは世にも珍しい、サイキックタイプのパトスなのだ。
井沢たちにとっては、最も始末の悪い相手である。
「富樫ルナ、だな」
ミラーグラスに手を添えながら、見沢は慎重に言葉を選んだ。
「君の身体はまだ万全じゃない。君自身、気づいているとは思うが、その肉体は一時ある種の寄生虫の宿主になっていた。だから、ここで完治するまで静養する必要があるんだよ」
「そんなの嘘!」
ルナは敵愾心を剥き出しにしている。
「その女は、おかしな幼稚園児の集団を使って私を拉致して、ここに監禁しようとした。あの美里を番人につけてね。あれは、私を足止めするためだった。杏里の所に行けないように。そんなあなたたちの言うことなんて、信じられると思う?」
「信じられないのなら、信じられるようにしてやるまでさ」
ルナの瞳の輝きが強くなったのを見て取って、井沢はとっさにミラーグラスを取った。
ルナの念動力が発動するより一瞬早く、井沢の邪眼がルナの視線を捉えた。
こうなれば、もうこっちのものだ。
にらみ合いは、数秒続いたようだ。
やがて、ルナががくりと首を折った。
そのままずるずるとベッドの上に横倒しになっていく。
「後は頼んだぞ」
ルナが寝息を立て始めたのを確認すると、傍らのヤチカに井沢は声をかけた。
「おまえのテクニックで、骨の髄まで調教してやるんだ。二度と逆らう気になれないようにな」
「あなたが私にしたようにね」
寝入ったルナを凝視したまま、ヤチカが答えた。
「ところで美里はどこにいる? 屋敷の中には姿が見えないようだが」
「この時間なら、まだ幼稚園よ。彼女、あれでも本職は幼児教育だから」
「あの女が幼稚園の先生とはな。とんだブラックジョークだよ」
「それで、彼女に何の用? 彼女はまだ、完全に裏委員会に所属しているわけではないのよ」
「なに、そろそろ本腰を入れてもらおうと思ってね」
井沢が電子煙草を口にくわえて、かすかに笑った。
「幼稚園教諭より、もっと彼女に似合いの職があるんだよ」
細面の顔の周りで波打つブロンドに近い髪。
透き通るようなアクアマリンの瞳。
正真正銘の美少女がそこにいたからだ。
この娘が、富樫ルナ…?
同じ美少女ながら、どこか和風の要素を残した杏里とは対照的に、ルナの顔立ちは明らかに北欧系である。
手足も長く、半透明のネグリジェから透けて見える身体のシルエットは、ほとんど女神と見紛うほどだ。
が、ルナの美少女ぶりに感心している場合ではなさそうだった。
ルナは激した口調でヤチカをなじっている。
アクアマリンの瞳が怒りに燃え、握りしめたこぶしが小刻みに震えているのだ。
「ヤチカさんとか言ったよね? あなた、私に何をしたの? それから、美里とかいうあの気味の悪い女は? あなたたち、何を企んでるわけ? 体育館で、あの後杏里をどうしたの?」
潮時のようだった。
黙り込んでしまったヤチカを押しのけて、井沢は前に出た。
「あなたは誰?」
ルナがきついまなざしで睨んでくる。
危ないところだった、と井沢は思う。
もう少しそのまま放置していたら、この娘はヤチカに向かって”力”爆発させていたに違いない。
なんせ、ルナは世にも珍しい、サイキックタイプのパトスなのだ。
井沢たちにとっては、最も始末の悪い相手である。
「富樫ルナ、だな」
ミラーグラスに手を添えながら、見沢は慎重に言葉を選んだ。
「君の身体はまだ万全じゃない。君自身、気づいているとは思うが、その肉体は一時ある種の寄生虫の宿主になっていた。だから、ここで完治するまで静養する必要があるんだよ」
「そんなの嘘!」
ルナは敵愾心を剥き出しにしている。
「その女は、おかしな幼稚園児の集団を使って私を拉致して、ここに監禁しようとした。あの美里を番人につけてね。あれは、私を足止めするためだった。杏里の所に行けないように。そんなあなたたちの言うことなんて、信じられると思う?」
「信じられないのなら、信じられるようにしてやるまでさ」
ルナの瞳の輝きが強くなったのを見て取って、井沢はとっさにミラーグラスを取った。
ルナの念動力が発動するより一瞬早く、井沢の邪眼がルナの視線を捉えた。
こうなれば、もうこっちのものだ。
にらみ合いは、数秒続いたようだ。
やがて、ルナががくりと首を折った。
そのままずるずるとベッドの上に横倒しになっていく。
「後は頼んだぞ」
ルナが寝息を立て始めたのを確認すると、傍らのヤチカに井沢は声をかけた。
「おまえのテクニックで、骨の髄まで調教してやるんだ。二度と逆らう気になれないようにな」
「あなたが私にしたようにね」
寝入ったルナを凝視したまま、ヤチカが答えた。
「ところで美里はどこにいる? 屋敷の中には姿が見えないようだが」
「この時間なら、まだ幼稚園よ。彼女、あれでも本職は幼児教育だから」
「あの女が幼稚園の先生とはな。とんだブラックジョークだよ」
「それで、彼女に何の用? 彼女はまだ、完全に裏委員会に所属しているわけではないのよ」
「なに、そろそろ本腰を入れてもらおうと思ってね」
井沢が電子煙草を口にくわえて、かすかに笑った。
「幼稚園教諭より、もっと彼女に似合いの職があるんだよ」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。





女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる