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第9部 倒錯のイグニス
#353 もうひとつのエピローグ②
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とある地方都市の総合病院。
その廊下を、貧しい身なりの老人が歩いていく。
老人の後ろに付き従うのは、くるぶしまである長いコートを身にまとった長身の女である。
耳の上で切りそろえた髪とサングラスが、どこかアンドロイドを髣髴とさせる美女だった。
女は病院内だというのに、スマホを耳に当てている。
「笹原杏里は拉致された模様です」
スマホをポケットにしまうと、先を行く老人の背中にそう声をかけた。
「曙中学の火事は偽装ですね。杏里の拉致を隠すための」
「ルナは? ルナもあそこにいたのだろう。ルナの死体は見つかったのか」
「いえ。今のところ、その情報はありません。あるいは笹原杏里同様、敵の手に落ちたかと」
「だろうな」
老人がため息をついた。
「仕方ない。いよいよ彼女の助力を乞う時が来たようだ」
役員専用のエレベーターに乗り、ふたりがたどり着いたのは病院の地下2階だった。
このフロアにはドアがひとつしかなく、エアロックのような分厚いドアをくぐると広大なフロアに出た。
仕切りのないワンフロアのスペースの中央にベッドがあり、その周りを白衣の医師たちと看護師たちが取り囲んでいる。
「目覚めたかね」
老人が声をかけると、リーダー格らしき年配の医師が振り向いた。
「ええ。たった今」
「経過はどうだね?」
「破壊された四肢と頭部の傷、すべてが順調に回復しています。やはり、生きた外来種の血液はすごい。入れ替えただけで、さっそく組織の再生が始まって…」
「雌だったからな。その分、”輸入”するのに骨が折れたよ」
「話されますか」
「ああ、頼む」
医師が場所を譲ると、老人が前へ進み出た。
目の前に現れたのは、ベッドというより、大きな手術台である。
その中央に、体中をチューブでつながれた全裸の少女が仰臥していた。
髪が剃られ、陰部にも体毛がないため、一見したところ、裸の人形のように見える。
が、人形にしては、鍛えられた筋肉質の体つきをしていた。
「ここはどこだ? あんたは誰だ?」
老人を認めるなり、少し上体を起こした姿勢で手術台に固定されたまま、少女が言った。
切れ上がった大きな目には、疑い深そうな表情が浮かんでいる。
「私は君を委員会のゴミ捨て場から拾ってきた。それをここまで回復させたんだ。まず、礼くらい言ってほしいところなんだがね」
食ってかかるような少女の口調に、老人が面白そうに微笑んだ。
「ゴミ捨て場? 回復? 何を…」
途中で少女が口をつぐみ、複雑な顔つきになる。
何か嫌なことでも思い出したのだろう。
「単刀直入に言おう。由羅、君にその借りを返してもらう時が来た。立てるようになったら、私の部屋に来てほしい」
「だから…あんたは誰だと訊いてるんだ」
少女の声に怒りがにじむ。
「富樫博士。私のことはそう呼んでおくれ。笹原杏里同様、榊由羅、君も私の娘のようなものなのだよ」
つば広帽を取って白髪を晒し、真顔に戻って老人が言った。
その廊下を、貧しい身なりの老人が歩いていく。
老人の後ろに付き従うのは、くるぶしまである長いコートを身にまとった長身の女である。
耳の上で切りそろえた髪とサングラスが、どこかアンドロイドを髣髴とさせる美女だった。
女は病院内だというのに、スマホを耳に当てている。
「笹原杏里は拉致された模様です」
スマホをポケットにしまうと、先を行く老人の背中にそう声をかけた。
「曙中学の火事は偽装ですね。杏里の拉致を隠すための」
「ルナは? ルナもあそこにいたのだろう。ルナの死体は見つかったのか」
「いえ。今のところ、その情報はありません。あるいは笹原杏里同様、敵の手に落ちたかと」
「だろうな」
老人がため息をついた。
「仕方ない。いよいよ彼女の助力を乞う時が来たようだ」
役員専用のエレベーターに乗り、ふたりがたどり着いたのは病院の地下2階だった。
このフロアにはドアがひとつしかなく、エアロックのような分厚いドアをくぐると広大なフロアに出た。
仕切りのないワンフロアのスペースの中央にベッドがあり、その周りを白衣の医師たちと看護師たちが取り囲んでいる。
「目覚めたかね」
老人が声をかけると、リーダー格らしき年配の医師が振り向いた。
「ええ。たった今」
「経過はどうだね?」
「破壊された四肢と頭部の傷、すべてが順調に回復しています。やはり、生きた外来種の血液はすごい。入れ替えただけで、さっそく組織の再生が始まって…」
「雌だったからな。その分、”輸入”するのに骨が折れたよ」
「話されますか」
「ああ、頼む」
医師が場所を譲ると、老人が前へ進み出た。
目の前に現れたのは、ベッドというより、大きな手術台である。
その中央に、体中をチューブでつながれた全裸の少女が仰臥していた。
髪が剃られ、陰部にも体毛がないため、一見したところ、裸の人形のように見える。
が、人形にしては、鍛えられた筋肉質の体つきをしていた。
「ここはどこだ? あんたは誰だ?」
老人を認めるなり、少し上体を起こした姿勢で手術台に固定されたまま、少女が言った。
切れ上がった大きな目には、疑い深そうな表情が浮かんでいる。
「私は君を委員会のゴミ捨て場から拾ってきた。それをここまで回復させたんだ。まず、礼くらい言ってほしいところなんだがね」
食ってかかるような少女の口調に、老人が面白そうに微笑んだ。
「ゴミ捨て場? 回復? 何を…」
途中で少女が口をつぐみ、複雑な顔つきになる。
何か嫌なことでも思い出したのだろう。
「単刀直入に言おう。由羅、君にその借りを返してもらう時が来た。立てるようになったら、私の部屋に来てほしい」
「だから…あんたは誰だと訊いてるんだ」
少女の声に怒りがにじむ。
「富樫博士。私のことはそう呼んでおくれ。笹原杏里同様、榊由羅、君も私の娘のようなものなのだよ」
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