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第9部 倒錯のイグニス
#341 ラストステージ⑯
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「ルナ、どうしたの? それは…何?」
問いかけても、ルナは応えない。
開いた両足を杏里のほうに向け、上半身を不自然にねじった状態で倒れ伏している。
そのスカートの間から血の川が生まれ、そしてその中を這い進んでくるのは、これまで見たことのない異形の生物だ。
ロープ状の身体の長さは50センチほど。
杏里の手首ほどの太さである。
緑色の蔦にも似たそれは、先に行くほど太くなり、次第に肌色に代わって赤児のような丸い頭部に続いている。
頭部には目も鼻もなく、ただ丸い口だけが開いていた。
「ルナ、大丈夫? ルナ! なんとか言ってよ!」
駆け寄りたくても、奇怪な生き物が行く手を阻んでいるため、身動きが取れない。
少しでも動けばそれに飛びかかられそうで、恐怖で足がすくんでしまっているのだ。
しかし、本当にこれは何なのだろう?
ルナの体内から現れたこの生き物は?
ルナを拉致したのが美里であるのなら、この生き物は美里が仕掛けた罠である可能性が高い。
あるいはこれは、彼女の肉体の一部なのかもしれない。
美里の触手の進化形とか、おそらくそういった類いのものであるのに違いない。
逃げ道を探して周囲に視線を走らせる。
体育館の中は、唯佳の怪物に惨殺された生徒たちの死体で、足の踏み場もないありさまだ。
そしてその怪物も今は物言わぬむくろと化して、死体の山の上に巨大な蛇の抜け殻のようにうずくまっている。
怪生物が、全裸で震える杏里まで、あと10メートルほどの距離に迫った時だった。
突然、生物の胴の両側から、蜘蛛の脚のような針金状の器官が伸び出した。
シャーッ!
3対の脚が床を踏みしめると、威嚇の声を上げて怪生物の上半身が持ち上がる。
丸く開いた口の中にびっしりと並ぶやすりのような歯に、杏里は背筋を悪寒が駆け抜けるのを感じないではいられなかった。
バンっと床を叩く音がして、だしぬけに”それ”が跳躍した。
来た!
腕で顔をかばって杏里はその場にしゃがみこんだ。
血の糸を引いて、赤ん坊の顔に似た頭部が迫ってきた。
衝撃と激痛に備えて全身の筋肉を強張らせた、その瞬間だった。
「そうはいかないよ」
甲高い声がして、太い腕が怪生物の尾をつかんだ。
「あたいの杏里に触らないでって、言ってるでしょ!」
この声は…ふみ!
杏里はおそるおそる目を開けた。
生徒たちの死体の間から手を伸ばしたふみが、怪生物の尾を握りしめ、自分のほうへとたぐり寄せようとしている。
ふみ…まだ、生きてたの?
ふみの肉襦袢のような醜い裸体は、すでにズタズタだ。
顔も目鼻の位置さえわからぬほど破壊されてしまっている。
杏里は茫然となった。
恐るべき執念だと思った。
ふみは別に、杏里を助けようとしているわけではない。
自分の楽しみを横取りされないよう、邪魔者を排除しようとしているだけなのだ。
だから、都合2度助けられたかたちになっても、感謝する気にはなれなかった。
シャーッ!
長い胴を曲げ、怪生物がふみに向き直る。
蜘蛛の脚が、血にまみれたふみの顔に突き刺さる。
針金状の脚に口をこじ開けられ、ふみがうめいた。
と、次の瞬間、予想外のことが起こった。
その赤いふみの口の中に、突如として怪生物の丸い頭部が飛び込んだのだ。
問いかけても、ルナは応えない。
開いた両足を杏里のほうに向け、上半身を不自然にねじった状態で倒れ伏している。
そのスカートの間から血の川が生まれ、そしてその中を這い進んでくるのは、これまで見たことのない異形の生物だ。
ロープ状の身体の長さは50センチほど。
杏里の手首ほどの太さである。
緑色の蔦にも似たそれは、先に行くほど太くなり、次第に肌色に代わって赤児のような丸い頭部に続いている。
頭部には目も鼻もなく、ただ丸い口だけが開いていた。
「ルナ、大丈夫? ルナ! なんとか言ってよ!」
駆け寄りたくても、奇怪な生き物が行く手を阻んでいるため、身動きが取れない。
少しでも動けばそれに飛びかかられそうで、恐怖で足がすくんでしまっているのだ。
しかし、本当にこれは何なのだろう?
ルナの体内から現れたこの生き物は?
ルナを拉致したのが美里であるのなら、この生き物は美里が仕掛けた罠である可能性が高い。
あるいはこれは、彼女の肉体の一部なのかもしれない。
美里の触手の進化形とか、おそらくそういった類いのものであるのに違いない。
逃げ道を探して周囲に視線を走らせる。
体育館の中は、唯佳の怪物に惨殺された生徒たちの死体で、足の踏み場もないありさまだ。
そしてその怪物も今は物言わぬむくろと化して、死体の山の上に巨大な蛇の抜け殻のようにうずくまっている。
怪生物が、全裸で震える杏里まで、あと10メートルほどの距離に迫った時だった。
突然、生物の胴の両側から、蜘蛛の脚のような針金状の器官が伸び出した。
シャーッ!
3対の脚が床を踏みしめると、威嚇の声を上げて怪生物の上半身が持ち上がる。
丸く開いた口の中にびっしりと並ぶやすりのような歯に、杏里は背筋を悪寒が駆け抜けるのを感じないではいられなかった。
バンっと床を叩く音がして、だしぬけに”それ”が跳躍した。
来た!
腕で顔をかばって杏里はその場にしゃがみこんだ。
血の糸を引いて、赤ん坊の顔に似た頭部が迫ってきた。
衝撃と激痛に備えて全身の筋肉を強張らせた、その瞬間だった。
「そうはいかないよ」
甲高い声がして、太い腕が怪生物の尾をつかんだ。
「あたいの杏里に触らないでって、言ってるでしょ!」
この声は…ふみ!
杏里はおそるおそる目を開けた。
生徒たちの死体の間から手を伸ばしたふみが、怪生物の尾を握りしめ、自分のほうへとたぐり寄せようとしている。
ふみ…まだ、生きてたの?
ふみの肉襦袢のような醜い裸体は、すでにズタズタだ。
顔も目鼻の位置さえわからぬほど破壊されてしまっている。
杏里は茫然となった。
恐るべき執念だと思った。
ふみは別に、杏里を助けようとしているわけではない。
自分の楽しみを横取りされないよう、邪魔者を排除しようとしているだけなのだ。
だから、都合2度助けられたかたちになっても、感謝する気にはなれなかった。
シャーッ!
長い胴を曲げ、怪生物がふみに向き直る。
蜘蛛の脚が、血にまみれたふみの顔に突き刺さる。
針金状の脚に口をこじ開けられ、ふみがうめいた。
と、次の瞬間、予想外のことが起こった。
その赤いふみの口の中に、突如として怪生物の丸い頭部が飛び込んだのだ。
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