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第9部 倒錯のイグニス
#338 ラストステージ⑬
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唯佳の指と舌が変化したその紐状の器官は、触手というよりは生きたチューブにようなものらしかった。
先端に中が空洞になった針を備えた極細のチューブ。
それが杏里の喉と乳頭、そして膣に突き刺さり、体内で精製される生体エキスを吸い上げているのだ。
媚薬成分を含んだ杏里の体液は、人間が吸収したら中毒症状を起こすほどの劇物である。
だから本来なら、ある分量を吸い上げれば、いかに変異外来種とはいえ、神経系統に異常を来たすはずだった。
現にその方法で、杏里は何体かの敵を行動不能に追い込んだことがある。
したがって、今、杏里が狙うのも、それだった。
エキスを閾値以上に摂取しすぎた唯佳の怪物が、戦闘不能状態に陥ること。
それを成し遂げれば、この苦境を脱することもあながち不可能ではない。
ただ、今までと決定的に異なるのは、動けなくなった敵にとどめを刺すパトスがそばにいないことだった。
タナトスに攻撃力はない。
かつてサイコジェニーは、自ら外来種を罠にかけ、自ら仕留めるタナトスを目指せと杏里を諭したものである。
だが、今の杏里はまだその域に達していないのだ。
由羅を、ルナを欠いたこの戦いは、杏里にとって圧倒的に不利だった。
しかも、唯佳の怪物は予想以上にタフであるようだ。
ひょっとして、権藤美穂に憑りついていたのが分株で、こっちのほうが本体なのかもしれないと杏里は思った。
そうとでも考えない限り、このタフさ加減は説明できない。
これは、明らかに美穂の怪物より強靭だ…。
かなりの生体エキスを吸い上げられ、杏里は全身から力が抜けていくのを感じている。
血液やリンパ液とは別に、性腺から多量に分泌されるこのエキスは、タナトスにとって細胞再生の貴重な原動力になる。
それが音を立ててどんどん失われていくのである。
どっちが先に音を上げるのか…。
杏里にはすでに自信がなくなりつつあった。
ただひたすら、気持ちがいい。
ぬるま湯のような緩いエクスタシーに、ともすれば思考それ自体が身体の外に溶け出していくようだ。
ああ…もう、だめ。
投げやりな気分で、思う。
このまま、木乃伊になって、死んでしまうかも…。
けだるい快感に全身を支配され、杏里は壊れた操り人形のように空中に磔になっている。
その艶めかしい裸身はオイル状の体液にまみれて光沢を放ち、とめどなく襲い来る快感の波に痙攣を繰り返す。
10本を超す生体チューブで杏里の体液を吸い上げる唯佳の上半身は、杏里の肌が透明に近くなっていくのと反比例して、その輝きを増していくようだ。
あれほど青ざめていた貧弱な裸体が、今は健康そうな薔薇色に輝き始めていた。
「杏里、ありがとね。私、生き返ったみたい」
がっくりとうなだれた杏里の耳に、唯佳の声が響いてきた。
「あなたのおかげで、この新しい身体とも、なんとか折り合いがつけられそう…」
その明るさすらともなった声に、杏里の心の中にどす黒い絶望が湧きあがった。
だめだ…。
私、負けてる…。
このままじゃ…ほんとに、ミイラにされてしまう…。
「そ、そうは、いかない…」
力を振り絞り、顔を上げた時だった。
勝ち誇った眼で杏里を見上げていた唯佳の首が、ふいにぎりぎりと軋みながら不自然にねじれ出した。
「な、なん、なの?」
苦し気に唯佳が叫ぶ。
ぶしゅっ。
と、次の瞬間、杏里の目の前で、鮮血を噴き上げて突然唯佳の細い首がねじ切れた。
先端に中が空洞になった針を備えた極細のチューブ。
それが杏里の喉と乳頭、そして膣に突き刺さり、体内で精製される生体エキスを吸い上げているのだ。
媚薬成分を含んだ杏里の体液は、人間が吸収したら中毒症状を起こすほどの劇物である。
だから本来なら、ある分量を吸い上げれば、いかに変異外来種とはいえ、神経系統に異常を来たすはずだった。
現にその方法で、杏里は何体かの敵を行動不能に追い込んだことがある。
したがって、今、杏里が狙うのも、それだった。
エキスを閾値以上に摂取しすぎた唯佳の怪物が、戦闘不能状態に陥ること。
それを成し遂げれば、この苦境を脱することもあながち不可能ではない。
ただ、今までと決定的に異なるのは、動けなくなった敵にとどめを刺すパトスがそばにいないことだった。
タナトスに攻撃力はない。
かつてサイコジェニーは、自ら外来種を罠にかけ、自ら仕留めるタナトスを目指せと杏里を諭したものである。
だが、今の杏里はまだその域に達していないのだ。
由羅を、ルナを欠いたこの戦いは、杏里にとって圧倒的に不利だった。
しかも、唯佳の怪物は予想以上にタフであるようだ。
ひょっとして、権藤美穂に憑りついていたのが分株で、こっちのほうが本体なのかもしれないと杏里は思った。
そうとでも考えない限り、このタフさ加減は説明できない。
これは、明らかに美穂の怪物より強靭だ…。
かなりの生体エキスを吸い上げられ、杏里は全身から力が抜けていくのを感じている。
血液やリンパ液とは別に、性腺から多量に分泌されるこのエキスは、タナトスにとって細胞再生の貴重な原動力になる。
それが音を立ててどんどん失われていくのである。
どっちが先に音を上げるのか…。
杏里にはすでに自信がなくなりつつあった。
ただひたすら、気持ちがいい。
ぬるま湯のような緩いエクスタシーに、ともすれば思考それ自体が身体の外に溶け出していくようだ。
ああ…もう、だめ。
投げやりな気分で、思う。
このまま、木乃伊になって、死んでしまうかも…。
けだるい快感に全身を支配され、杏里は壊れた操り人形のように空中に磔になっている。
その艶めかしい裸身はオイル状の体液にまみれて光沢を放ち、とめどなく襲い来る快感の波に痙攣を繰り返す。
10本を超す生体チューブで杏里の体液を吸い上げる唯佳の上半身は、杏里の肌が透明に近くなっていくのと反比例して、その輝きを増していくようだ。
あれほど青ざめていた貧弱な裸体が、今は健康そうな薔薇色に輝き始めていた。
「杏里、ありがとね。私、生き返ったみたい」
がっくりとうなだれた杏里の耳に、唯佳の声が響いてきた。
「あなたのおかげで、この新しい身体とも、なんとか折り合いがつけられそう…」
その明るさすらともなった声に、杏里の心の中にどす黒い絶望が湧きあがった。
だめだ…。
私、負けてる…。
このままじゃ…ほんとに、ミイラにされてしまう…。
「そ、そうは、いかない…」
力を振り絞り、顔を上げた時だった。
勝ち誇った眼で杏里を見上げていた唯佳の首が、ふいにぎりぎりと軋みながら不自然にねじれ出した。
「な、なん、なの?」
苦し気に唯佳が叫ぶ。
ぶしゅっ。
と、次の瞬間、杏里の目の前で、鮮血を噴き上げて突然唯佳の細い首がねじ切れた。
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