激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#337 ラストステージ⑫

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 大蛇の胴体に節足動物の肢。
 鎌状になった巨大な前肢の向こうに、胴体の上に生えた唯佳の上半身が見える。
 透き通るように白い肌にそこだけ桜色のふたつの乳首が痛々しい。
 折れそうなほど細い首に支えられたあどけない顔は、魂が抜けた後のようにうつろだった。
 怪物は今やふみを下敷きにし、その肉襦袢のような醜悪な肉体に4本の肢を突き立てている。
 ふみのユニフォームはずたずたにちぎれ、その下の肌はあちこちで爆ぜている。
 傷口からは黄色い脂肪と真っ赤な血があふれ出し、特に酷い裂け目からは内臓すらも覗いているようだ。
 仰向けになったふみは、血みどろになった顏をくしゃくしゃにして、それでも怪物の腹を殴りつけるのをやめようとしない。
「杏里は…あたいのもんなんだ。おまえみたいなお化けに渡しゃしない…くそ…どきやがれ…痛い、痛いったら」
 怪物の前に立った杏里は、驚嘆する思いでふみを眺めた。
 あんなにされて、まだ歯向かってる。
 まったく、なんという執念だろう。
 ふみを突き動かしているのは、何なのか。
 単純に、私に対する獣欲なのだろうか。
 死を超える獣欲などというものがもしこの世にあるとすれば、ふみの生の原動力こそがそれなのかもしれない。
「唯佳、やめて」
 怪物を見上げて、静かな声で杏里は言った。
「ふみは関係ない。あなたの狙いは私でしょ? その子を放してあげて」
 杏里の声に反応して、怪物が動いた。
 鎌が左右に開くと、唯佳の裸身がよく見えるようになる。
 焦点を失った唯佳の眼がゆっくりと動き、杏里を見た。
 背中に手をやり、杏里はボンテージスーツのジッパーを下ろし始めた。
 半分まで下げたところで今度は腰のあたりから手を回し、尻の上まで引き下ろす。
 爬虫類が脱皮するように時間をかけてスーツを脱ぎ捨てると、全裸の身体を唯佳の怪物に向ける。
「さあ、さっきの続きを。まだ途中よね。あなたは私のエキスをすべて吸い取りたい。そうなんでしょう?」
 ふみの肉体から、怪物が肢を引き抜いた。
 肉の潰れる嫌な音とともに、新たな鮮血がマットの上に広がっていく。
 順番に肢を引き抜くと、杏里のほうに近づいてきた。
 杏里の目と鼻の先で、進行を停止する。
 と、奇怪な胴体の上に生えたマンドラゴラのような唯佳が、はばたくように両手を左右に持ち上げた。
 骨のない軟体動物の触手のような、優雅な動きだった。
 杏里がつかの間その動きに幻惑された時、変化が起こった。
 唯佳の両手の10本の指がふいにするすると宙に伸び、細い鞭のような形状に変わったのだ。
 あっと思った時には、すでに遅かった。
 螺旋を描いて空中に広がった唯佳の長くしなやかな指が、獲物に投げつけられる投網のように杏里めがけて落ちてきた。
 杏里の両手首、両足首、太腿、腹、乳房の真下を、指から進化した紐状の器官がぐるぐる巻きにする。
 全裸のまま宙に吊り上げられる杏里の身体を、空中で鎌首をもたげた残りの2本の”指”が狙っている。
 全身を緊縛した指はそれぞれ思い思いの方向にずるずると動き、杏里の膣口とアヌスを見つけては無遠慮にずぶずぶ中にもぐりこんできた。
「ああ…」
 挿入の快感に思わず熱い吐息を漏らす杏里。
 そして、最後の仕上げは、あの舌だった。
 唯佳が丸く口を開くと触手状の舌が伸び上がり、大きくしなると杏里の口を狙って空を切った。
「ぐふ」
 濡れた太い舌が喉に飛び込み、杏里はむせた。
 残りの2本がそれぞれ勃起したままの乳首に絡みつき、乳頭に突き刺さる。
 こうしてまた、吸引が始まった。


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