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第9部 倒錯のイグニス

#334 ラストステージ⑨

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 逆さになった杏里の視界いっぱいに、唯佳の怪物が迫ってくる。
 両腕の鎌が振り下ろされる瞬間、衝撃に備え、杏里は目を閉じた。
 どこまで耐え切れるか、自信はない。
 この身体の治癒能力に賭けるしかないと、そう思った。
 
 永遠に近い時間が過ぎたようだった。
 予期した衝撃は、いっこうにやってこなかった。
 代わりに杏里を襲ったのは、信じがたいことに、激烈な快感だった。
 薄目を開けた杏里は、そのわけを悟った。
 逆さ吊りにされ、ボンテージスーツの胸に開いた穴から突き出した杏里の乳房。
 怪物の鎌の先が、その頂で勃起したふたつの乳首にずぶりとめり込んでいる。
 乳頭のくぼみに鋭い先端を突き刺し、怪物はまるで愛撫でもするかのように、ゆっくりと鎌を動かしている。
 くうぅぅ…。
 痺れるような快感に、杏里の喉から喘ぎが漏れた。
 怪物の狙いは、どうやら杏里を惨殺することではないらしい。
 やがて、怪物の身体の上に乗った唯佳の口がぱっくりと開いて、中から長い蛭のような舌が伸び出した。
 螺旋を描いて伸びてきた舌が、杏里の股間にむき出しになった性器に接近する。
「唯佳、あなた、な、何を…?」
 言い終わらぬうちに、軟体動物のように冷たくざらついた舌が、秘裂を押し分け、ぬるり膣内に侵入する。
「あふっ!」
 Gスポットを突かれ、杏里は激しくのけぞった。
 その拍子に、膣の分泌腺からどくどくと淫汁があふれ出すのがわかった。
 さかんに分泌されるそのエキスを、先に穴の開いた唯佳の舌が、じゅるじゅると吸い始める。
 その分泌を促進するかのように、鎌の先端が杏里の乳頭に更に深くめり込んだ。
 恍惚感で全身の神経が麻痺してしまったかのようだった。
 動けない杏里めがけて、怪物の2対目の肢がクワガタの牙のように開き、そして閉じた。
 両の脇腹を串刺しにされ、がくんと杏里の身体が振動する。
 怪物の鎌と肢の先は、おそらくチューブ状になっているのだろう。
 乳頭と脇腹から、音を立てて体液と血液が吸い上げられていく。
「あああ…」
 あまりの愉悦に、杏里は身悶えた。
 それは、たとえていうなら、死の快楽だった。
 怪物は杏里の全身からすべての体液を吸い取り、木乃伊化しようとしているのだ。
 気持ち…いい…。
 杏里は喘いだ。
 力が、出ない。
 意識が、遠くなる。
 朦朧とした脳裏のスクリーンに、光り輝く扉が見えた。
 あの遠くの扉の向こうが、もしかして、天国なの…?
 ぼんやりとそんなことを思った時…。
 ふいに、どこかで重いものが吹き飛ぶ音がした。

 

 

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