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第9部 倒錯のイグニス
#333 ラストステージ⑧
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「なんだあれは? これはどういうことだね、いったい?」
大山が色をを失った顔を、傍らの璃子に向けた。
体育館2階の通路である。
大山と璃子のほかには、ヤチカと百足丸の姿もある。
「変異優生種だな。しかし、ありゃ、まるで怪物だ」
長い前髪の下の眼を光らせ、百足丸が吐き捨てた。
「同じ種族に見られちゃ、こっちが迷惑だぜ」
「紅白戦の時に校内に紛れ込んでたやつだね。ルナに殺されたと思ってたけど、その前に唯佳にも憑依して、分裂してたんだと思う」
手すりから身を乗り出して、下を覗き込みながら、璃子が言った。
大して驚いているふうもなく、ふてぶてしいほど落ちついている。
4人が見下ろしている体育館の1階フロアは、今や血の海と化している。
生き残った生徒や教師を惨殺しながら、大蛇と蜘蛛が融合したような格好の怪物が、バスケットボールのゴールポストから逆さ吊りにされた杏里に近寄っていく。
「事情がよくわからんのだが、なぜあんなものがうちの学校に…? このイベントは、死者が出るような性格のものではないし、当然、そんなことがあってはならぬのだ」
大山は手すりにしがみつき、分厚い唇をわなわなと震わせている。
驚愕のあまり、眼窩からただでさえ大きい眼玉がこぼれ落ちそうだ。
「元凶は、杏里ちゃんね。彼女はさまざまなモノを引き寄せる。なぜって、彼女の肉体は、すべての生命体に取って宝の山だから」
サングラスをかけたヤチカが、クールな口調でひとり言のように言う。
「タナトスの不死性、類いまれな再生能力…。それを手に入れた種族は間違いなくこの惑星の支配者になれる、というわけか」
したり顔でうなずく百足丸に、
「何をわけのわからんことを言っている? これはB級SF映画じゃない。現実なんだ。こうなったら、もう警察を呼ぶしかないだろう?」
大山が血相を変えて突っかかる。
「そんなことしても、手遅れだよ。警察が到着する頃には、みんな殺されてるさ。むしろ、騒ぎが大きくなりすぎて、校長のあんたの立場も、学校の存続自体もやばくなる」
璃子が見下すような口ぶりで遮った。
「でも、このままじゃ、杏里ちゃんが…」
ヤチカが誰にともなく、つぶやいた。
「みすみすあんなできそこないに彼女を奪われるなんて、シナリオにない事態だわ」
「トンビに油揚げをさらわれるってか? 井沢に連絡して、零でもよこしてもらうつもりかよ?」
「それは危険すぎる。零が解き放たれたら、誰にも制御できないもの。あの子は? あなたの相棒、ふみって子」
ヤチカの言葉の後半は、璃子に向けられたものだった。
「あんたひょっとして、ふみをあれと戦わせる気?」
とたんに璃子が吹き出した。
「ちょっと、可哀想なこと言わないでよ。ふみはああ見えても、ただの人間だよ。そりゃ、あの子がかなり化け物じみてるのは、あたしも認めるけどさ」
「あの糞デブなら、いい線いくような気もするけどな」
百足丸が苦虫を噛み潰したような顔になる。
コンビニのイートインで、ふみに襲われた時のことを思い出したのだろう。
「まあ、これも運命さ。杏里が自分でどう切り抜けるか、見届けるしかないね。彼女をどう処理するかはその後だ。とりあえず委員会に連絡だけ入れて、事後処理の予約を取りつけておくんだね」
「わ、わかった」
大山がうなずいた。
「それは私が…この前の荘内橋中学の籠城事件だな。あれも、委員会がもみ消したと聞いている」
「じゃ、あとはゆっくり楽しもうよ」
璃子が心なしか浮き浮きした声で言った。
「杏里があの化け物にズタズタに切り刻まれる、とっておきの流血シーンをさ」
大山が色をを失った顔を、傍らの璃子に向けた。
体育館2階の通路である。
大山と璃子のほかには、ヤチカと百足丸の姿もある。
「変異優生種だな。しかし、ありゃ、まるで怪物だ」
長い前髪の下の眼を光らせ、百足丸が吐き捨てた。
「同じ種族に見られちゃ、こっちが迷惑だぜ」
「紅白戦の時に校内に紛れ込んでたやつだね。ルナに殺されたと思ってたけど、その前に唯佳にも憑依して、分裂してたんだと思う」
手すりから身を乗り出して、下を覗き込みながら、璃子が言った。
大して驚いているふうもなく、ふてぶてしいほど落ちついている。
4人が見下ろしている体育館の1階フロアは、今や血の海と化している。
生き残った生徒や教師を惨殺しながら、大蛇と蜘蛛が融合したような格好の怪物が、バスケットボールのゴールポストから逆さ吊りにされた杏里に近寄っていく。
「事情がよくわからんのだが、なぜあんなものがうちの学校に…? このイベントは、死者が出るような性格のものではないし、当然、そんなことがあってはならぬのだ」
大山は手すりにしがみつき、分厚い唇をわなわなと震わせている。
驚愕のあまり、眼窩からただでさえ大きい眼玉がこぼれ落ちそうだ。
「元凶は、杏里ちゃんね。彼女はさまざまなモノを引き寄せる。なぜって、彼女の肉体は、すべての生命体に取って宝の山だから」
サングラスをかけたヤチカが、クールな口調でひとり言のように言う。
「タナトスの不死性、類いまれな再生能力…。それを手に入れた種族は間違いなくこの惑星の支配者になれる、というわけか」
したり顔でうなずく百足丸に、
「何をわけのわからんことを言っている? これはB級SF映画じゃない。現実なんだ。こうなったら、もう警察を呼ぶしかないだろう?」
大山が血相を変えて突っかかる。
「そんなことしても、手遅れだよ。警察が到着する頃には、みんな殺されてるさ。むしろ、騒ぎが大きくなりすぎて、校長のあんたの立場も、学校の存続自体もやばくなる」
璃子が見下すような口ぶりで遮った。
「でも、このままじゃ、杏里ちゃんが…」
ヤチカが誰にともなく、つぶやいた。
「みすみすあんなできそこないに彼女を奪われるなんて、シナリオにない事態だわ」
「トンビに油揚げをさらわれるってか? 井沢に連絡して、零でもよこしてもらうつもりかよ?」
「それは危険すぎる。零が解き放たれたら、誰にも制御できないもの。あの子は? あなたの相棒、ふみって子」
ヤチカの言葉の後半は、璃子に向けられたものだった。
「あんたひょっとして、ふみをあれと戦わせる気?」
とたんに璃子が吹き出した。
「ちょっと、可哀想なこと言わないでよ。ふみはああ見えても、ただの人間だよ。そりゃ、あの子がかなり化け物じみてるのは、あたしも認めるけどさ」
「あの糞デブなら、いい線いくような気もするけどな」
百足丸が苦虫を噛み潰したような顔になる。
コンビニのイートインで、ふみに襲われた時のことを思い出したのだろう。
「まあ、これも運命さ。杏里が自分でどう切り抜けるか、見届けるしかないね。彼女をどう処理するかはその後だ。とりあえず委員会に連絡だけ入れて、事後処理の予約を取りつけておくんだね」
「わ、わかった」
大山がうなずいた。
「それは私が…この前の荘内橋中学の籠城事件だな。あれも、委員会がもみ消したと聞いている」
「じゃ、あとはゆっくり楽しもうよ」
璃子が心なしか浮き浮きした声で言った。
「杏里があの化け物にズタズタに切り刻まれる、とっておきの流血シーンをさ」
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