激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#320 幕間③

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 ブラウスの下に、美里は下着をつけていなかった。
 そこに現れたものをひと目見るなり、ルナはひっと息を呑みこんだ。
 本来なら、女性特有のまろやかなふくらみのある場所に、隆起した噴火口のような穴が開いている。
 ぽっかり口を開けた気味の悪い穴には乳白色の液体が溜まり、その奥で何かが蠢いていた。
「それから、先に断っておくけど、私は変異外来種などではないわ。これでもあなたたちの仲間、タナトスなの。その証拠を、今、見せてあげる」
 美里の台詞が終わるか終わらぬかのうちだった。
 ふいに液体が飛び散って、美里の胸の噴火口から黒いものが伸び出した。
 触手?
 その動きを目で追い、ルナは身構えた。
 ルナの動体視力は超人並みである。
 そして、その眼で捉えたものは容赦なく破壊する。
 触手なんて脆弱なもの、何の役に立つと思ってるの?
 勝ちを意識した、その瞬間である。
 ふいにルナの視界から触手が消えた。
 なに?
 予想外の動きに、不安が胸を締めつける。
 床にもぐったのだ。
 美里の胸から飛び出した一対の触手は、ルナに襲いかかる前に美里の足元の床にもぐって消えてしまったのだ。
 どういうこと?
 眉をひそめた、その瞬間である。
 突然、すさまじい痛みと衝撃を感じて、その場でルナは硬直した。
 ば、馬鹿な…。
 おそるおそる、自分の足元に目を落とす。
 白い太腿を伝って、真っ赤な血が糸を引いている。
 脚と脚の間に、太い植物の根のようなものが生えていた。
 美里の放った触手である。
 それが、床を突き破った揚げ句、下着を突き抜けてルナの股間を貫いたのだ。
 触手は2本がDNA連鎖のようにらせん状に絡み合い、床から飛び出している。
 その棘だらけの表面を、あふれ出したルナの血が網の目を描いて伝い降りていく。
「くう」
 ルナは歯を食いしばり、激痛に耐えている。
 触手の先端は、膣壁をずたずたに切り裂いた末、子宮の中にまで達しているようだ。
「どう? 痛い? 痛いでしょう?」
 笑いを含んだ口調で、美里が言った。
「タナトスは快楽を与えてくれるもの…そう思い込んでいるなら、それは大間違いよ。浄化には、他にも色々方法があるの。例えば、死に至るほどの激痛を対象に与え、すべての衝動を消し去るやり方…」
 苦痛を与える、タナトス…?
 そんなもの、聞いたことがない。
 この女、やっぱり、狂ってる。
 狂ったタナトスは、もはや外来種と同じ。
 ここで排除するのに、何をためらう必要がある?
 だらりと垂らした両手に力を込める。
 こぶしを握って、美里を見つめ返す。
 死ね。
 眼底に力を込めようとした、その時。
 膣の中で激しく触手が動いた。
 内臓を破壊される激痛に、ルナの意識がちりぢりに乱れ、身体が大きく横に傾いた。
「パトス、サイキッカータイプ・ルナ。期待したけど、大したことなかったわね」
 美里が、低く嗤ったようだった。
 ドアが閉まる音に続き、ハイヒールの足音が廊下を遠ざかっていく。
 杏里…ごめん。
 ごぼっと口から赤い液体を吐き、床に倒れ伏したまま、やがてルナは動かなくなった。

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