上 下
305 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#305 タナトスの矜持④

しおりを挟む
 A組攻略に思ったより時間を取られてしまった杏里だったが、そこで習得した手法が次の2クラスで役立った。
 学年が同じで、顔見知りの生徒が何人かいたことと、B組とC組にはクラスをまとめるリーダー的存在が不在だったことも、杏里にとってはラッキーだった。
 自分をイカせた者にリングを渡す。
 その条件で、2クラス70人をひとりずつ浄化していったのだ。
 だが、A、B、Cの3クラス分の生徒たちをフェラチオとクンニで片づけ終えた頃には、さすがの杏里もへとへとに疲れてしまっていた。
 目がかすみ、顎がだるい。
 舌先がしびれたようになり、うまくしゃべれない。
 あまりにも滑稽な、まるで下手なギャグ漫画のような展開に、思わず自分でも笑い出したくなるほどだ。
 だが、それが一番安全で地道な方法であることも、また確かだったのだ。
 杏里は今、全裸で廊下を歩いている。
 コスチュームも下着もはぎ取られ、豊満なGカップの乳房を弾ませて、無毛の下腹部もあらわに歩いていく。
 目の前には、次のD組の入口が見えている。
 あと2クラス。
 先が見えてきた、と思う。
 それにしても、つらい。
 この脱力感は、半端ない。
 引きちぎれかけたクリトリスは、持ち前の治癒能力で、すでに完全に元通りになっている。
 いや、それどころか、修復の過程でクリトリスリングを中に取り込み、もはや容易には外せない状態だ。
 だから肉体に傷は一切負っていないのだが、体力が底を尽きかけているのだった。
 補充の媚薬は、後は職員室のある中央棟と、体育館の下駄箱に隠してある分だけである。
 せめてそれを服用して、一時的にでも性的エネルギーを取り戻したいと切に思う。
 が、そのためには、この西棟の最後の2クラスを陥落させなければならないのだ。
 廊下の壁につかまりながら、D組の入口の前に立つ。
 深呼吸をして、一気に戸を引き開けた。
 何も起こらなかった。
 人の気配もまるでない。
 首だけ伸ばして内部の様子をうかがった杏里は、予想外の光景に出くわして、呆然と口を開けた。
「何、これ…?」
 D組の教室内には生徒の姿はなく、ただ机と椅子が雑然と詰め込まれているだけだった。
 しかも、数が馬鹿に多い。
 数えてみるまでもなく、優にふたクラス分はありそうである。
「どういうこと?」
 閉めた引き戸に背をもたせかけ、杏里は吐息をついた。
 D組の生徒たちは、どこにいってしまったというのだろう?
 これまでの杏里の奮闘ぶりをどこからか監視していて、おそれをなして逃げ出してしまったのだろうか。
 でも、それではあの机と椅子の山の説明がつかない。
 生徒が姿を消し、机と椅子が増える。
 奇妙なミステリーだった。
 杏里は廊下の先に目をやった。
 突き当りの手前に、最後のクラス、E組がある。
 杏里自身が所属するクラスである。
 E組の教室は、不気味なほど静まり返っている。
 何かあるとしたら、あそこだ。
 そう思わずにはいられない。
 E組には璃子とふみがいるのだ。
 あのふたりが、クラスの一員として、他のクラスメイトたちと共同作業をするとは考えにくいが、璃子が彼らに何かよからぬ知恵を授けている可能性は十分にある。
 息を整え、足を引きずるようにして、また歩き出す。
 とにかく今確かに言えるのは、あのE組さえ攻略すれば、この棟は終了ということだけだ。
 やるしかなかった。
 杏里は下唇を噛みしめた。
 なぜって私は、最強のタナトスなのだから。
 

 

しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

臓物少女

ホラー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:8

異世界病棟

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:10

処理中です...