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第9部 倒錯のイグニス

#281 西棟へ

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 死屍累々とはこのことをいうのだろう。
 廊下を埋め尽くす下級生たちの身体を見渡して、杏里は満足の笑みを漏らした。
 もちろん、彼らは死んでいるわけではない。
 至近距離から重人の念波に直撃され、意識が飛んでしまったのだ。
 重人の射精時の絶頂感と、杏里のオルガスムス。
 そのハーモニーともいうべき愉悦の津波が思春期のうぶな快楽中枢を麻痺させ、一気に全員を”浄化”へと運び去ってしまったのである。
 僥倖としかいいようがなかった。
 1クラスずつ回るまでもなく、180人にも及ぶ1年生が向こうから廊下に出てきて杏里と重人を取り囲んでくれたのだ。
 杏里自身、これでかなり体力を温存することができたし、重人の延命の一助にもなったに違いない。
「もう、折れちゃうかと思ったよ」
 ようやく網から抜け出し、その重人がよろよろと立ち上がった。
「杏里ったら、ほんと、乱暴なんだから」
「済んだこと、ぐだぐだ言わないの。ほら、見なさいよ。うまくいったでしょ?」
「そりゃまあ、僕、がんばったからね」
 パンツを穿こうとする重人の手を、杏里はぐいとつかんだ。
「穿かなくていい。手をつなぐ代わりに、こうしてあげるから」
 まだ半分勃起したままのひょろ長いペニスを、左手で乱暴に握りしめてやる。
 親指の腹を尿道に当て、軽くさすってやると、
「あん」
 重人が女のような喘ぎを漏らした。
 そのまま、ペニスを後ろ手に握って、歩き出す。
「いつでも発射できるように、ずっとこうしててあげるから」
 積み重なるようにして倒れている1年生たちの身体をよけながら、廊下の先の非常扉へと向かう。
 そこから出て渡り廊下をまっすぐ行くと、通路はいったん中央の北棟に入り、次の目的地、西棟に向かう。
 西棟は1階が3年生、2階が2年生のフロアだ。
 ともにクラスは5つずつ。
 1年生のように、短時間で決着がつけばいいが、おそらくそう簡単にはいかないだろう。
 中学生の1年での肉体の成長差には目を見張るものがある。
 杏里たち2年生ともなると、性的な面での機能はほとんど大人と変わらなくなるのだ。
 3年生ともなれば、なおさらだった。
 つまり、この先、敵は間違いなく杏里を性欲の捌け口として見るだろうということだ。
 1年生たちのように、単純にクリトリスリングを奪いにくるとは思えない。
 がらんとした北棟を突っ切り、西棟に入った。
「どっちからにするの?」
 2階への階段を見上げて、重人が訊いた。
「下から。こっちにまだ余力があるうちに、一番手強い3年生を落としたい」
 元気になってきた重人のペニスを5本の指でふにふに揉みながら、冷静な口調で杏里は言った。
「正確には、あんたに余力があるうちにってことだけど」
「あんまり自信ないけど…僕、淡白だから」
「そうでもないよ。また硬くなってきてるし」
「で、でも、そんなに何回もイケるかな…」
「大丈夫。これがあるから」
 杏里は下駄箱の隅で身をかがめた。
 来客用のスリッパボックスから、予備の下着とビニール袋を取り出した。
 袋の中には、黒い丸薬2錠と軟膏の平たい容器が入っている。
「また媚薬?」
 黒縁眼鏡の奥で、重人が眼を見開いた。
「しかも塗り薬まで? もう、鼻血だけじゃ済まないよ」
「今度は私も飲むわ」
 袋のジッパーを開けながら、杏里は言った。
「思いきり気持ちよくしてあげるから、最後の一滴を絞り出すまで頑張って」


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