激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#279 東棟攻略④

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「ど、どうなってんだよ、杏里。これじゃ、話が違うじゃないか」
 うろたえる重人。
「どうなってるって言ったって…あんたのサーチが甘すぎたんじゃないの!」
 答える杏里の顔も引きつっている。
 廊下で投網に絡め取られるという状況も予想外なら、集まってきた生徒たちの様子も想定外だった。
 男子も女子も、めいめい手に手に得物を持っているのだ。
 野球のバット、剣道の竹刀、テニスのラケット、果ては掃除道具のモップを担いでいる者もいる始末だ。
「だって、無理だよ。そんな大勢の思考を読むなんて。相手が不特定多数の場合は、せいぜい意識の断片を拾うのがせいいっぱいなんだ」
 杏里は背後から重人に抱きついた姿勢のまま動けない。
 立てた両膝の間に重人の尻が挟まった体勢のまま、網にがんじがらめに拘束されてしまっているのだ。
 網越しに尻が床に着く感触がしたかと思うと、喚声を上げて生徒たちが襲いかかってきた。
 バットや竹刀が次々に繰り出され、杏里と重人の肩や背中に打ちかかる。
「いて! やめろよ! なにすんだよ!」
 ろくによけることもできず、重人が悲鳴を上げた。
 ふたりを包み込んだ投網は、衝撃で前後左右に揺れ、ほとんどサンドバック状態だ。
 痛みに唇を噛みしめながら、杏里は己の不明を恥じた。
 生徒たちの狙いは杏里の嵌めているクリトリスリングだけなのだ。
 それを奪うためには、何も杏里を性的な対象として見る必要もない。
 徹底的に痛めつけ、気絶したところを裸に剥いてリングさえ奪えばそれで事は済む。
 性的に未熟な1年生ならではの発想だと思う。
 彼らの大半は、肉体が未発達なため、まだそれほど杏里の性フェロモンの影響を受けないのかもしれない。
 でも、やるしかない。
 杏里は懸命に頭を働かせた。
 こちらの武器はそれしかないのだ。
 いくら中学1年生とはいえ、彼らも思春期にさしかかっているのだ。
 男子の多くは精通を済ませているだろうし、女子の大部分は初潮を迎えているに違いない。
 つまり、性的喜びを感じる肉体的な準備は整っているわけで、あとはその未使用に近い快楽中枢に点火してやりさえばいい。そういうことなのだ。
 ただ、問題はこの体勢だった。
 見たところ、廊下を埋め尽くした1年生は、ほぼ男女半々だ。
 杏里の指で仮に重人ひとりをイカせて”念”を放出したところで、女子は残ってしまう。
 5クラス約170人の半数の女子をも浄化するには、重人と一緒に杏里もオルガスムスに達する必要がある。
 が、重人を背後から抱えたこの状態では、それも難しい。
 指先を動かすのがせいぜいで、体勢を入れ替えることすらままならないのだ。
 せめて重人が下で、私が上なら、座位で挿入という手もあるんだけど…。
 考えている間にも、間断なく打撃はやってくる。
 幸い、媚薬で敏感になったタナトスの感覚器官が打撃を疼くような快感に変換し始めていて、杏里自身は重人ほど痛みを感じなくて済んでいる。
 が、頭を攻撃されるのは避けたかった。
 不死身の生命体、タナトスの弱点は脳である。
 後頭部を強打されればさすがに気を失ってしまうだろうし、下手をすると死んでしまいかねないのだ。
 杏里は懸命に右手を動かした。
 一度重人のペニスを離し、苦労しながら身体に引き寄せる。
 方法はひとつだけ。
 密着した自分の腹と重人の背中の間に、なんとか右手を忍び込ませた。
 開いた股の間に手を通し、重人の尻の下から前に回す。
 やった。届いた。
 指先に硬い陰茎の根元に触れ、杏里は安堵の息をついた。
「な、何する気?」
 涙声で重人が訊いてきた。
「セックス」
 短く杏里は答えた。
「あんた、夢だったんでしょ。私とセックスすることが」
 
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