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第9部 倒錯のイグニス

#261 シークレット・イベント当日⑨

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「ど、どうして、そんなことを…?」
 押しつけられたユニフォームを胸に押し当て、目を見開いて杏里は訊いた。
 着替えるのはいいが、ここでしなければならないという意味がわからない。
 教師全員が見ている前で、生着替えしろということなのだろうか?
「みんなの士気を高めるためだよ」
 杏里の耳に口を寄せ、ヤニ臭い息を吐きながら、大山がささやいた。
「彼らは”浄化”の意味もほとんど知らない。ただ、賞金につられて応募しただけの者も多い。だから、モチベーションに今ひとつ欠けるきらいがあってね。そこで君の魅力を再認識させておきたいんだよ。むろん、あのイベント紹介映像は教職員も全員見てはいるが…生の迫力にはとうてい及ばないからね」
「でも…」
「君とて、なるべく後始末をしなくて済むよう、今日中に学校中の浄化を終わらせたいだろう? それに、”他己破壊衝動”を抱えたままの教員をいつまでも教壇に立たせておくわけにもいかんのだ。生徒への影響を考えると、むしろ最優先で浄化してもらわねばならん。そうじゃないか?」
 それはその通りだと思う。
 ただでさえ、世間では教員によるセクハラまがいの事件が後を絶たないのだ。
 それを防ぐのもタナトスの役目。
 そう言われてしまっては、返す言葉がなかった。
「わかりました」
 うなずいて、スカートに手をかける杏里。
 輿のファスナーを下ろし、心持ち身をかがめて、一本ずつ脚を抜く。
 下半身下着だけになると、教員たちの間から声にならぬどよめきが沸き起こった。
 無理もない。
 杏里が穿いているのは、極端に布面積の狭い性風俗嬢用のショーツなのだ。
 見たところほとんど紐と変わりがないので、一見、何も穿いていないように見えてしまう。
 腰はきゅっとくびれているが、杏里の下半身は成人女性並みに発達している。
 骨盤の張り具合といい、尻の大きさといい、AV女優顔負けだ。
 女性教師の中には、明らかに嫉妬に燃える視線を向けてくる者もいるほどだった。
「木更津先生と、小谷先生は?」
 ノースリーブのセーラー服に指をかけながら、杏里は職員室内を見回した。
 ふたりのほかにも、欠けている教員が何人かいるようだ。
「小谷先生は、レスリングのメンバーとともに、シアターで待機中だ。木更津君たちには、外部からよそ者が入らぬよう、校門の見張りを頼んである。なあに、彼らにも最後にはチャンスを与えるつもりだよ」
 正門で会った木更津の情けない顔が脳裏に浮かんだ。
 今のひと言を聞けば、きっと喜ぶに違いない。
 ちらっとそんなことを思った。
 上着を脱ぎ、デスクの上に畳んで置いた。
 丸い枠と横一線のレース状の紐だけでできた、見るからに淫らなブラジャーがあらわになる。
 それは突き出た乳房をいたずらに強調するだけで、かろうじて乳首を隠す役に立っているだけだった。
 下着姿になった杏里は、一度身を起こして教師たちを順繰りに見た。
 毎日学校で見かける大人たちの顔が、別人のもののように豹変してしまっている。
 そのぎらついた目とよだれを垂らさんばかりに薄く開いた口元は、教師というより獲物を前にしたシリアルキラーのものだ。
 男性教師は全員ズボンの前を醜く突っ張らせ、女性教師の中には自分の胸元に手を差し入れる者もいる。
 そのけだものたちの視線にさらされ、一時的に治まっていた杏里の性欲がぶり返し始めた。
 もっと見られたい。
 その衝動に駆られ、ブラを散り去り、ショーツを脱ぎ捨てた。
 たわわに揺れる乳房と桜色の乳首、そして人形のパーツのごとくつるりとした無毛の恥部に、一斉に視線が集中する。
「これを着ればいいんですね」
 杏里は教師たちの前にわざとユニフォームを掲げてみせた。
 股繰りの切れ込みの深い、純白のレオタードである。
 ただ、ふつうと違うのは、ちょうど乳首にあたる部分に穴が開き、股間に縦長のスリットが入っていることだ。
「ああ、頼む」
 血走った眼を杏里に向けて、大山がうなずいた。
 その脂ぎった顔を見て、杏里は思った。
 この人、自分の趣味で、私にこんなことさせてるんじゃないの?



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