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第9部 倒錯のイグニス

#255 シークレット・イベント当日③

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 バスのタラップを上がると、運転手がぎょっとしたような眼で杏里を見た。
 ざっくりと前の開いたセーラー服の胸元。
 片膝を上げた姿勢から垣間見える黒いショーツの一部。
 そこに視線が釘付けになってしまったのだ。
 そんな運転手の不躾なまなざしを無視してコインボックスに硬貨を投入すると、杏里は通路に立った。
 満員の乗客たちの間に、さざ波のようにざわめきが広がっていく。
 男も女も関係なく、誰もが穴が開くほどの熱心さで杏里を見つめてきた。
 10月も半ばとなると、朝の気温はかなり低い。
 が、バスの中の温度は杏里の登場で、一気に5度ほど跳ね上がったようだった。
 事実、媚薬の効果で杏里自身、暑くてならなかった。
 そのせいか、毛穴という毛穴から、汗の代わりに目に見えないフェロモンが発散されているのがわかった。
 まるで身体を匂いのオーラが取り巻いているような感じなのだ。
 未練を断ち切るように、バスが動き出した。
 後から乗ってきた老婆たちが、よろめくついでに無言で杏里の背中を押した。
 ふいを突かれ、バランスを崩す杏里。
 待ちかまえる集団は、あたかもホラー映画のゾンビだった。
 無数の手が突き出され、杏里の二の腕を、肩を、腰をつかんできた。
 抵抗しても無駄。
 杏里は身体の力を抜いた。
 乗客たちは30人以上いる。
 きのうのリハーサルの時の倍近くの人数だ。
 ここは下手に抵抗するより、成り行きに任せて相手が自滅するのを待つほうがいい。
 とっさにそう判断したからだった。
 気がつくと、乗客たちに神輿のように担ぎ上げられ、後部座席のほうへと運ばれていた。
 どさっと投げ出され、シートの上に両手を突く杏里。
 シートに右頬を押しつけられ、尻を高く掲げた姿勢の杏里を幾重にも人の壁が取り囲む。
 人垣から伸びてきた手がマイクロミニのプリーツスカートの裾をつかみ、無造作に腰の上までめくり上げた。
 現れたのは、白桃のようなつややかな臀部である。
 丸い尻の肉の間に覗くのは、黒いストリングス状のショーツが食い込んだ、あまりに淫らな恥丘の膨らみだ。
 ここへ来るまでの刺激から、下着のその部分はぐっしょりと湿り、独特の匂いすら発散しているようだった。
 見られている…。
 この恥ずかしい、卑猥な姿を、こんなにたくさんの見ず知らずの人に…。
 いったんそう意識し出すと、動悸の高まりを押さえられなくなってきた。
 オナニーの時、杏里が決まって夢想するのは、多人数に自慰を見られるシーンと、その後複数の男女に犯されるシーンのふた通りである。
 それが今、現実になろうとしているのだ。
 身体の芯にマグマが湧き上がり、蜜壺の中をひたひたと満たしていく。
 リングで搾り上げられた陰核が充血し、ひりつくように疼き始めている。
 シートに押しつけられた乳房の先で、乳首が見る間に硬さを増していく。
「お願い…」
 夢と現実の区別がつかなくなり、杏里はうわ言のようにつぶやいた。
「このまま、犯して…」
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