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第9部 倒錯のイグニス
#240 嵐の予感⑰
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「おい、おっさん、化け物はないだろ? ふみが傷ついてるじゃないか」
銀色の髪をショートに切りそろえた、キツネ眼の少女がドスの利いた声で言った。
何か企んでいそうな三白眼が、じっと百足丸を睨み据えている。
傷つくだと? こいつがか?
百足丸はずり落ちかけた半身を椅子に戻し、気味悪そうに目の前の巨体を見た。
ふみと呼ばれたもうひとりの少女は、ふたり分の座席を占領してすら、なおもまだ窮屈そうだ。
特注のブラウスを突き破らんばかりの勢いで飛び出た乳房が、テーブルの上にスライムみたいに扁平に変形して広がっている。
首はないに等しく、顔は巨大な肉まんそっくりだ。
トウモロコシ色の毛髪がその肉まんのてっぺんからすだれのように垂れ下がり、ふみを異次元の抽象アートのように見せていた。
「そうだよ。あたしだって、こう見えても一応年頃の女の子なんだかんね!」
キツネ目に援護され、肉まん女がきいきい声で叫んだ。
外観に似合わぬ甲高いアニメ声に、百足丸のうなじの産毛がぞわりと逆立った。
「しかし、誰がそんなこと、決めたんだよ?」
むっとして言い返すと、
「私よ」
隣のヤチカが短く答えた。
「今度の作戦は、私に一任されてるの。嘘だと思うなら、井沢に聞いてみて」
ヤチカはスキニーパンツの脚を組み、サングラスで顔を隠している。
いかにもスタイリッシュな都会のOLといった雰囲気だ。
井沢のやつ、どういうつもりだ?
たかが性奴にそこまで全権を与えるなんて。
自分が蔑ろにされたようで、百足丸は内心穏やかでない。
「第一、こいつら、ただの人間だろ? そんなに簡単に仲間に入れていいのかよ」
「この子たちを仲間に引き入れたのは井沢よ。それはあなたも知ってるはず」
異論を唱える百足丸を、ヤチカがぴしゃりと遮った。
「校内の監視カメラに、杏里ちゃんを弄ぶふたりの姿が映っていた。そのやり口にいたく感心してたじゃない」
「うちらは杏里が痛い目に遭うなら、なんでもいいんだよ」
ふいにキツネ眼少女が口をはさんだ。
「うちとふみは、あいつに借りがあるんでね」
「待てよ。これはガキの喧嘩じゃないんだぞ。だいたいだな、笹原杏里の肉体には…」
現代科学の常識をひっくり返すだけの秘密がある。
そう言いかけて、百足丸は危うく言葉を呑み込んだ。
そこまでこの少女たちに教えていいかどうか、迷ったのだ。
「とにかく、杏里ちゃんに関しては、あなたよりこの子たちや私のほうがよく知ってるの。ふみちゃんと私で彼女を戦闘不能状態に追い込むから、あなたは最後にとどめさえ刺してくれれば、それでいい」
「しかし、だからといって、このお化けのチャクラを…」
百足丸はこの場を逃げ出したくてたまらなくなった。
これまで百足丸が鍼を施した相手は、零といい、ルナといい、ヤチカといい、美女ぞろいである。
なのにこいつは…。
百足丸は、女の価値は見た目だと、そう固く信じ込んでいる。
考えが古い、差別的だと言われても、変えるつもりは金輪際ない。
その倫理観に照らし合わせると、ふみは明らかに問題外だった。
女どころか、人間かどうかも怪しくなってくるのだ。
「おっさんは、ふみの怖さを知らないんだよ」
百足丸の心の中を読んだかのように、キツネ眼少女がにやりと笑った。
「なんなら試してみるか? 本気になったふみは、欲求不満のヒグマより手強いぜ」
銀色の髪をショートに切りそろえた、キツネ眼の少女がドスの利いた声で言った。
何か企んでいそうな三白眼が、じっと百足丸を睨み据えている。
傷つくだと? こいつがか?
百足丸はずり落ちかけた半身を椅子に戻し、気味悪そうに目の前の巨体を見た。
ふみと呼ばれたもうひとりの少女は、ふたり分の座席を占領してすら、なおもまだ窮屈そうだ。
特注のブラウスを突き破らんばかりの勢いで飛び出た乳房が、テーブルの上にスライムみたいに扁平に変形して広がっている。
首はないに等しく、顔は巨大な肉まんそっくりだ。
トウモロコシ色の毛髪がその肉まんのてっぺんからすだれのように垂れ下がり、ふみを異次元の抽象アートのように見せていた。
「そうだよ。あたしだって、こう見えても一応年頃の女の子なんだかんね!」
キツネ目に援護され、肉まん女がきいきい声で叫んだ。
外観に似合わぬ甲高いアニメ声に、百足丸のうなじの産毛がぞわりと逆立った。
「しかし、誰がそんなこと、決めたんだよ?」
むっとして言い返すと、
「私よ」
隣のヤチカが短く答えた。
「今度の作戦は、私に一任されてるの。嘘だと思うなら、井沢に聞いてみて」
ヤチカはスキニーパンツの脚を組み、サングラスで顔を隠している。
いかにもスタイリッシュな都会のOLといった雰囲気だ。
井沢のやつ、どういうつもりだ?
たかが性奴にそこまで全権を与えるなんて。
自分が蔑ろにされたようで、百足丸は内心穏やかでない。
「第一、こいつら、ただの人間だろ? そんなに簡単に仲間に入れていいのかよ」
「この子たちを仲間に引き入れたのは井沢よ。それはあなたも知ってるはず」
異論を唱える百足丸を、ヤチカがぴしゃりと遮った。
「校内の監視カメラに、杏里ちゃんを弄ぶふたりの姿が映っていた。そのやり口にいたく感心してたじゃない」
「うちらは杏里が痛い目に遭うなら、なんでもいいんだよ」
ふいにキツネ眼少女が口をはさんだ。
「うちとふみは、あいつに借りがあるんでね」
「待てよ。これはガキの喧嘩じゃないんだぞ。だいたいだな、笹原杏里の肉体には…」
現代科学の常識をひっくり返すだけの秘密がある。
そう言いかけて、百足丸は危うく言葉を呑み込んだ。
そこまでこの少女たちに教えていいかどうか、迷ったのだ。
「とにかく、杏里ちゃんに関しては、あなたよりこの子たちや私のほうがよく知ってるの。ふみちゃんと私で彼女を戦闘不能状態に追い込むから、あなたは最後にとどめさえ刺してくれれば、それでいい」
「しかし、だからといって、このお化けのチャクラを…」
百足丸はこの場を逃げ出したくてたまらなくなった。
これまで百足丸が鍼を施した相手は、零といい、ルナといい、ヤチカといい、美女ぞろいである。
なのにこいつは…。
百足丸は、女の価値は見た目だと、そう固く信じ込んでいる。
考えが古い、差別的だと言われても、変えるつもりは金輪際ない。
その倫理観に照らし合わせると、ふみは明らかに問題外だった。
女どころか、人間かどうかも怪しくなってくるのだ。
「おっさんは、ふみの怖さを知らないんだよ」
百足丸の心の中を読んだかのように、キツネ眼少女がにやりと笑った。
「なんなら試してみるか? 本気になったふみは、欲求不満のヒグマより手強いぜ」
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