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第9部 倒錯のイグニス
#238 嵐の予感⑮
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「とにかく、買い出しついでに勉強道具持ってきてあげるから、あんたはここで待ってなさい」
そう言い捨てると、杏里は部室を後にし、裏門から校外に出た。
大通りに出れば、確かコンビニがあったはずだ。
いつもバスの窓から見ていたから、場所はすぐにわかる。
通りを横切ってしばらく歩くと、青と白の看板が見えてきた。
店に入り、パンだのサンドイッチだのを適当に見繕い、飲み物と一緒にレジカウンターに置く。
「イラッシャイマセ」
椅子から腰を上げた東南アジア系の若い男の店員が、杏里のきわどい制服姿に目を見開いた。
「若イ女ノ子ガ、昼間カラソンナ恰好シテチャ駄目デスヨ」
袋の商品を詰めながら親切にそう忠告してくれたが、杏里にとっては余計なお世話である。
「ご忠告、どうも」
ぷいと横を向いてすたすたと店を出る。
通りをもと来た側に渡って、コンビニのほうを何気なく振り返った時だった。
信じられない光景を目にして、杏里はぽかんと口を開けた。
コンビニの2階は、イートインを兼ねたレストルームになっている。
その窓側の席に、見覚えのある横顔が見えたのだ。
ショートカットの、細面の女性。
ヤチカである。
ヤチカさん、こんなところにいたんだ…。
重人がいくらテレパシーの網を張り巡らせても、捕まらなかったはずだった。
それにしても、と思う。
なんであいつらが、ヤチカさんと一緒にいるの?
杏里がいぶかしんだのは、ヤチカの向かいに座るふたり連れの姿だった。
銀髪のキツネ目の少女と、相撲取りのような体格の醜女である。
クラスメイトの凛子とふみ。
あの凶悪コンビが、ヤチカさんと居る…。
あり得ない組み合わせだった。
しかも、ヤチカの向こう側には、背の高い黒い影。
顔までは見えないが、おそらくあの謎の男も一緒なのだ。
何を話しているのだろう?
怪しい。絶対に、怪しい。
行って、確かめなきゃ…。
もう一度、通りを渡ろうとした時だった。
「こら、笹原、そんなところで何してるんだ?」
ふいに声をかけられ、腕をつかまれた。
「いくら学園祭の最中だからって、学校から出たらダメじゃないか」
振り向くと、担任の木更津が立っていた。
くう。
杏里は唇を噛んだ。
なんて間の悪いところに。
「すみません。ちょっと、買い出しに」
不愛想にコンビニの袋を掲げて見せると、
「おかしいな。おまえ、模擬店の係に入ってなかったはずだろう?」
木更津が、いぶかしげに銀縁眼鏡の縁を光らせた。
「そうですけど…人手が足りないからって、純に頼まれて…」
もちろん嘘だが、木更津には、それ以上追及するつもりはなさそうだった。
「まあいい。早く中に戻れ。今回だけは見逃がしてやる」
「ありがとうございます」
ありがたがっていないのが丸わかりの不機嫌な口調で、杏里は言った。
そして腺病質の数学教師に背を向けると、わざとスカートの裾を翻して、下着をチラ見せしながら尻を振り振り駆け出した。
そう言い捨てると、杏里は部室を後にし、裏門から校外に出た。
大通りに出れば、確かコンビニがあったはずだ。
いつもバスの窓から見ていたから、場所はすぐにわかる。
通りを横切ってしばらく歩くと、青と白の看板が見えてきた。
店に入り、パンだのサンドイッチだのを適当に見繕い、飲み物と一緒にレジカウンターに置く。
「イラッシャイマセ」
椅子から腰を上げた東南アジア系の若い男の店員が、杏里のきわどい制服姿に目を見開いた。
「若イ女ノ子ガ、昼間カラソンナ恰好シテチャ駄目デスヨ」
袋の商品を詰めながら親切にそう忠告してくれたが、杏里にとっては余計なお世話である。
「ご忠告、どうも」
ぷいと横を向いてすたすたと店を出る。
通りをもと来た側に渡って、コンビニのほうを何気なく振り返った時だった。
信じられない光景を目にして、杏里はぽかんと口を開けた。
コンビニの2階は、イートインを兼ねたレストルームになっている。
その窓側の席に、見覚えのある横顔が見えたのだ。
ショートカットの、細面の女性。
ヤチカである。
ヤチカさん、こんなところにいたんだ…。
重人がいくらテレパシーの網を張り巡らせても、捕まらなかったはずだった。
それにしても、と思う。
なんであいつらが、ヤチカさんと一緒にいるの?
杏里がいぶかしんだのは、ヤチカの向かいに座るふたり連れの姿だった。
銀髪のキツネ目の少女と、相撲取りのような体格の醜女である。
クラスメイトの凛子とふみ。
あの凶悪コンビが、ヤチカさんと居る…。
あり得ない組み合わせだった。
しかも、ヤチカの向こう側には、背の高い黒い影。
顔までは見えないが、おそらくあの謎の男も一緒なのだ。
何を話しているのだろう?
怪しい。絶対に、怪しい。
行って、確かめなきゃ…。
もう一度、通りを渡ろうとした時だった。
「こら、笹原、そんなところで何してるんだ?」
ふいに声をかけられ、腕をつかまれた。
「いくら学園祭の最中だからって、学校から出たらダメじゃないか」
振り向くと、担任の木更津が立っていた。
くう。
杏里は唇を噛んだ。
なんて間の悪いところに。
「すみません。ちょっと、買い出しに」
不愛想にコンビニの袋を掲げて見せると、
「おかしいな。おまえ、模擬店の係に入ってなかったはずだろう?」
木更津が、いぶかしげに銀縁眼鏡の縁を光らせた。
「そうですけど…人手が足りないからって、純に頼まれて…」
もちろん嘘だが、木更津には、それ以上追及するつもりはなさそうだった。
「まあいい。早く中に戻れ。今回だけは見逃がしてやる」
「ありがとうございます」
ありがたがっていないのが丸わかりの不機嫌な口調で、杏里は言った。
そして腺病質の数学教師に背を向けると、わざとスカートの裾を翻して、下着をチラ見せしながら尻を振り振り駆け出した。
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