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第9部 倒錯のイグニス
#237 嵐の予感⑭
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「僕、なんかすごく嫌な予感がするんだけど…」
重人の頬がひきつった。
「何言ってるの! タナトスあってのヒュプノスでしょ。あんたは私をサポートするために生まれたんだから」
杏里は先に鉄梯子に取りつくと、尻込みする重人の足を引っ張った。
「ちょ、ちょっと、やめてってば。そんなことしたら、落ちるって! ああっ!」
本当に重人が落ちてきて、ふたりはもつれうように屋上の床に転がった。
「いったーい! 何すんのよ!」
「だからだめだって言ったのに…」
頭を抱えて立ち上がる。
見ると、すぐそこに例の不良たちが倒れていた。
全員、非常口からしなびたペニスをさらけ出し、ズボンの前を精液で濡らしている。
「浄化されてる…」
重人が驚いたように言った。
「僕は平気だったのに」
「平気ってことはないでしょ。あんただって出したんだから」
「まあ、それはそうだけど、失神するには至らなかったよ」
少し自慢げに、重人が言う。
「私が手加減したからね。でも」
杏里はくびれた腰に手を当て、倒れた3人の不良と傍らの重人とを、順繰りに見比べた。
「これはますます好都合かも。つまり、人間の男よりヒュプノスの重人のほうが、多少なりとも耐性が上ってことでしょ。あの”快感生中継”を使えば、あんたが浄化される前に、他の男を先に浄化できるってわけ。うん、考えれば考えるほど、あんたは明日のイベントにうってつけって気がする」
「でも、僕はこの学校の生徒じゃないから、そのシークレットイベントには参加できないんだって」
「それがそうでもないんだな」
杏里はにやりと笑った。
「とにかく来て。いいとこ連れてってあげる」
「いいとこ? なんだよ、それ」
「あんたが明日まで過ごすのにぴったりの隠れ場所だよ」
「は?」
眼鏡の奥で、重人の目が点になった。
「ここなら誰も来ないし、朝までゆっくりできるでしょ」
杏里が重人を連れ込んだのは、昨年廃部になったとある運動部の部室だった。
1年近く放置されているため、鍵は壊れ、誰でも出入り自由である。
ただ、今年の夏、幽霊が出るという噂が流れたせいで、今は誰も近づかない。
「ここに朝まで隠れてて、その勢いでイベントに参加しろっていうの? そ、そんな、や、やだよ! せっかく、この土日は試験勉強に専念できると思ったのに! 来週、中間テストなんだぜ? 言っとくけどさ、僕にはこんなとこでボーっと油売ってる暇なんて、全然ないんだからね!」
使われていない物置のような空間に引きずり込まれ、重人がわめいた。
「教科書なら私の貸してあげる。全部学校に置いてあるから」
「はあ? 置き勉かよ? 教科書全部学校に置いてあるって、いったい君はいつ勉強してるのさ?」
「あんたには関係ないよ。それより食料もさ、私がコンビニで何か買ってきてあげるから、それなら至れり尽くせりじゃない?」
「でも、僕が君に協力して、何かいいことがあるっての? 今まで迷惑かけられることのほうが多かった気がするよ」
「しょうがないでしょ。タナトスのサポート、それがあんたの使命なんだから。いい?重人。由羅もルナもいない今、私にはあんただけが頼りなの。初心に戻って、ここは男らしく、ひと肌脱いでくれないかな?」
重人の顎を人差し指で軽く持ち上げ、その黒目がちな瞳をじっとのぞきこんで、諭すように杏里は言った。
重人の頬がひきつった。
「何言ってるの! タナトスあってのヒュプノスでしょ。あんたは私をサポートするために生まれたんだから」
杏里は先に鉄梯子に取りつくと、尻込みする重人の足を引っ張った。
「ちょ、ちょっと、やめてってば。そんなことしたら、落ちるって! ああっ!」
本当に重人が落ちてきて、ふたりはもつれうように屋上の床に転がった。
「いったーい! 何すんのよ!」
「だからだめだって言ったのに…」
頭を抱えて立ち上がる。
見ると、すぐそこに例の不良たちが倒れていた。
全員、非常口からしなびたペニスをさらけ出し、ズボンの前を精液で濡らしている。
「浄化されてる…」
重人が驚いたように言った。
「僕は平気だったのに」
「平気ってことはないでしょ。あんただって出したんだから」
「まあ、それはそうだけど、失神するには至らなかったよ」
少し自慢げに、重人が言う。
「私が手加減したからね。でも」
杏里はくびれた腰に手を当て、倒れた3人の不良と傍らの重人とを、順繰りに見比べた。
「これはますます好都合かも。つまり、人間の男よりヒュプノスの重人のほうが、多少なりとも耐性が上ってことでしょ。あの”快感生中継”を使えば、あんたが浄化される前に、他の男を先に浄化できるってわけ。うん、考えれば考えるほど、あんたは明日のイベントにうってつけって気がする」
「でも、僕はこの学校の生徒じゃないから、そのシークレットイベントには参加できないんだって」
「それがそうでもないんだな」
杏里はにやりと笑った。
「とにかく来て。いいとこ連れてってあげる」
「いいとこ? なんだよ、それ」
「あんたが明日まで過ごすのにぴったりの隠れ場所だよ」
「は?」
眼鏡の奥で、重人の目が点になった。
「ここなら誰も来ないし、朝までゆっくりできるでしょ」
杏里が重人を連れ込んだのは、昨年廃部になったとある運動部の部室だった。
1年近く放置されているため、鍵は壊れ、誰でも出入り自由である。
ただ、今年の夏、幽霊が出るという噂が流れたせいで、今は誰も近づかない。
「ここに朝まで隠れてて、その勢いでイベントに参加しろっていうの? そ、そんな、や、やだよ! せっかく、この土日は試験勉強に専念できると思ったのに! 来週、中間テストなんだぜ? 言っとくけどさ、僕にはこんなとこでボーっと油売ってる暇なんて、全然ないんだからね!」
使われていない物置のような空間に引きずり込まれ、重人がわめいた。
「教科書なら私の貸してあげる。全部学校に置いてあるから」
「はあ? 置き勉かよ? 教科書全部学校に置いてあるって、いったい君はいつ勉強してるのさ?」
「あんたには関係ないよ。それより食料もさ、私がコンビニで何か買ってきてあげるから、それなら至れり尽くせりじゃない?」
「でも、僕が君に協力して、何かいいことがあるっての? 今まで迷惑かけられることのほうが多かった気がするよ」
「しょうがないでしょ。タナトスのサポート、それがあんたの使命なんだから。いい?重人。由羅もルナもいない今、私にはあんただけが頼りなの。初心に戻って、ここは男らしく、ひと肌脱いでくれないかな?」
重人の顎を人差し指で軽く持ち上げ、その黒目がちな瞳をじっとのぞきこんで、諭すように杏里は言った。
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