上 下
237 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#237 嵐の予感⑭

しおりを挟む
「僕、なんかすごく嫌な予感がするんだけど…」
 重人の頬がひきつった。
「何言ってるの! タナトスあってのヒュプノスでしょ。あんたは私をサポートするために生まれたんだから」
 杏里は先に鉄梯子に取りつくと、尻込みする重人の足を引っ張った。
「ちょ、ちょっと、やめてってば。そんなことしたら、落ちるって! ああっ!」
 本当に重人が落ちてきて、ふたりはもつれうように屋上の床に転がった。
「いったーい! 何すんのよ!」
「だからだめだって言ったのに…」
 頭を抱えて立ち上がる。
 見ると、すぐそこに例の不良たちが倒れていた。
 全員、非常口からしなびたペニスをさらけ出し、ズボンの前を精液で濡らしている。
「浄化されてる…」
 重人が驚いたように言った。
「僕は平気だったのに」
「平気ってことはないでしょ。あんただって出したんだから」
「まあ、それはそうだけど、失神するには至らなかったよ」
 少し自慢げに、重人が言う。
「私が手加減したからね。でも」
 杏里はくびれた腰に手を当て、倒れた3人の不良と傍らの重人とを、順繰りに見比べた。
「これはますます好都合かも。つまり、人間の男よりヒュプノスの重人のほうが、多少なりとも耐性が上ってことでしょ。あの”快感生中継”を使えば、あんたが浄化される前に、他の男を先に浄化できるってわけ。うん、考えれば考えるほど、あんたは明日のイベントにうってつけって気がする」
「でも、僕はこの学校の生徒じゃないから、そのシークレットイベントには参加できないんだって」
「それがそうでもないんだな」
 杏里はにやりと笑った。
「とにかく来て。いいとこ連れてってあげる」
「いいとこ? なんだよ、それ」
「あんたが明日まで過ごすのにぴったりの隠れ場所だよ」
「は?」
 眼鏡の奥で、重人の目が点になった。 


「ここなら誰も来ないし、朝までゆっくりできるでしょ」
 杏里が重人を連れ込んだのは、昨年廃部になったとある運動部の部室だった。
 1年近く放置されているため、鍵は壊れ、誰でも出入り自由である。
 ただ、今年の夏、幽霊が出るという噂が流れたせいで、今は誰も近づかない。
「ここに朝まで隠れてて、その勢いでイベントに参加しろっていうの? そ、そんな、や、やだよ! せっかく、この土日は試験勉強に専念できると思ったのに! 来週、中間テストなんだぜ? 言っとくけどさ、僕にはこんなとこでボーっと油売ってる暇なんて、全然ないんだからね!」
 使われていない物置のような空間に引きずり込まれ、重人がわめいた。
「教科書なら私の貸してあげる。全部学校に置いてあるから」
「はあ? 置き勉かよ? 教科書全部学校に置いてあるって、いったい君はいつ勉強してるのさ?」
「あんたには関係ないよ。それより食料もさ、私がコンビニで何か買ってきてあげるから、それなら至れり尽くせりじゃない?」
「でも、僕が君に協力して、何かいいことがあるっての? 今まで迷惑かけられることのほうが多かった気がするよ」
「しょうがないでしょ。タナトスのサポート、それがあんたの使命なんだから。いい?重人。由羅もルナもいない今、私にはあんただけが頼りなの。初心に戻って、ここは男らしく、ひと肌脱いでくれないかな?」
 重人の顎を人差し指で軽く持ち上げ、その黒目がちな瞳をじっとのぞきこんで、諭すように杏里は言った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...