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第9部 倒錯のイグニス
#233 嵐の予感⑩
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もう一度、すべての棟のすべての部屋を回ってみたが、ヤチカと男の姿はなかった。
「どこにもいないね。あと行ってないのは、校長室ぐらいなもんだよ」
西棟の屋上に上がり、給水タンクの上に腰を落ちつけると、げっそりと疲れた顔で重人がぼやいた。
「校長室? いくらなんでも、それはあり得ないんじゃない?」
重人と並んで足をぶらぶらさせ、杏里は言った。
「まあね。あの男が裏委員会の回し者なら、校長とは対立する立場だってことだもんね。校長は教育委員会の管理下にあって、その教育委員会は”原種薔薇保存委員会”とつながっている。裏委員会とは、いわば敵同士ってわけだ」
「そう。そういうこと」
「じゃ、きっと帰っちゃったんだよ。潜入したの、僕らにバレちゃったからさ」
「そんなことぐらいで? じゃ、いったいヤチカさんたちは、ここに何しにきたわけ?」
「さあねえ…。あ、それより杏里、僕、さっきからずっと、気になってることがあるんだけど」
急に声をひそめる重人。
「なに? その、気になってることって」
「誰かがね、僕らの後、尾けてるみたいなんだよ」
「え?」
「複数だ。どうも、この学校の生徒じゃないみたい」
「はあ? どういうこと?」
杏里が眉をひそめた時だった。
乱暴に屋上の鉄扉が開いて、3人の人影がコンクリートの床面に姿を見せた。
ひと目で不良とわかる、くずれた着こなしの少年たちである。
高校生だろうか。
3人とも、この学校の男子生徒に比べて、格段に体格がいい。
「いたいた」
先頭の、黄色い髪をトサカのように逆立てた少年が、杏里のほうを指さした。
「うひょっ、まじエロいじゃん! あんなとこに座って、またパンツ見せてるしいっ!」
明らかに黒人系とのハーフと思われる、肌の黒いドレッドヘアの少年が浮かれた声を上げる。
「だよな。ここまであからさまに誘われちゃ、もうやるっきゃないってことだよな」
レスラー並みに恰幅のいい少年が、どすの利いた声で、最後をしめくくった。
「ちょっと、なんなのよ? あいつら?」
杏里は重人の膝に手を置き、ズボンの上から皮膚をつねった。
「気づいてたなら、なんでもっと早く言わないの?」
「だって、ヤチカさんたちを探すのが最優先と思ったから…」
「そういう問題じゃないでしょ?」
「だいたい、杏里があんまりフェロモンまき散らしながらのし歩くから悪いんだろ?」
「誰がのし歩いたって? 私は怪獣か」
「パンツ見せながら歩かないでってことだよ」
「そんなのもう遅いよ」
もめていると、下からだみ声が飛んできた。
「よお、姉ちゃん、そんなクソガキ、放っておいて、下に降りて来いよ。退屈してんだろ? 俺たちが、たあっぷり遊んでやるからさあ」
テンプレみたいなその不良っぽい言い回しに、杏里は危うく吹き出しそうになった。
へーえ、今どき、まだいるんだ。こういう人たち。
もう、とっくに死滅したかと思ってたけど。
#
「どこにもいないね。あと行ってないのは、校長室ぐらいなもんだよ」
西棟の屋上に上がり、給水タンクの上に腰を落ちつけると、げっそりと疲れた顔で重人がぼやいた。
「校長室? いくらなんでも、それはあり得ないんじゃない?」
重人と並んで足をぶらぶらさせ、杏里は言った。
「まあね。あの男が裏委員会の回し者なら、校長とは対立する立場だってことだもんね。校長は教育委員会の管理下にあって、その教育委員会は”原種薔薇保存委員会”とつながっている。裏委員会とは、いわば敵同士ってわけだ」
「そう。そういうこと」
「じゃ、きっと帰っちゃったんだよ。潜入したの、僕らにバレちゃったからさ」
「そんなことぐらいで? じゃ、いったいヤチカさんたちは、ここに何しにきたわけ?」
「さあねえ…。あ、それより杏里、僕、さっきからずっと、気になってることがあるんだけど」
急に声をひそめる重人。
「なに? その、気になってることって」
「誰かがね、僕らの後、尾けてるみたいなんだよ」
「え?」
「複数だ。どうも、この学校の生徒じゃないみたい」
「はあ? どういうこと?」
杏里が眉をひそめた時だった。
乱暴に屋上の鉄扉が開いて、3人の人影がコンクリートの床面に姿を見せた。
ひと目で不良とわかる、くずれた着こなしの少年たちである。
高校生だろうか。
3人とも、この学校の男子生徒に比べて、格段に体格がいい。
「いたいた」
先頭の、黄色い髪をトサカのように逆立てた少年が、杏里のほうを指さした。
「うひょっ、まじエロいじゃん! あんなとこに座って、またパンツ見せてるしいっ!」
明らかに黒人系とのハーフと思われる、肌の黒いドレッドヘアの少年が浮かれた声を上げる。
「だよな。ここまであからさまに誘われちゃ、もうやるっきゃないってことだよな」
レスラー並みに恰幅のいい少年が、どすの利いた声で、最後をしめくくった。
「ちょっと、なんなのよ? あいつら?」
杏里は重人の膝に手を置き、ズボンの上から皮膚をつねった。
「気づいてたなら、なんでもっと早く言わないの?」
「だって、ヤチカさんたちを探すのが最優先と思ったから…」
「そういう問題じゃないでしょ?」
「だいたい、杏里があんまりフェロモンまき散らしながらのし歩くから悪いんだろ?」
「誰がのし歩いたって? 私は怪獣か」
「パンツ見せながら歩かないでってことだよ」
「そんなのもう遅いよ」
もめていると、下からだみ声が飛んできた。
「よお、姉ちゃん、そんなクソガキ、放っておいて、下に降りて来いよ。退屈してんだろ? 俺たちが、たあっぷり遊んでやるからさあ」
テンプレみたいなその不良っぽい言い回しに、杏里は危うく吹き出しそうになった。
へーえ、今どき、まだいるんだ。こういう人たち。
もう、とっくに死滅したかと思ってたけど。
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