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第9部 倒錯のイグニス
#228 嵐の予感⑤
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体育館は合唱部の出し物の最中で、杏里と重人は目立たぬよう、最後列の入口近くの席に腰を落ち着けた。
-ここには特に仕掛けはないようだね。あるいは、あっても誰も知らないのかー
きょろきょろ周囲を見回していた重人が、テレパシーで直接頭の中に話しかけてきた。
まわりをおもんばかってのことに違いない。
-それよりここって、前任者のパトスが美里先生に殺された現場だろ? かすかに残留思念みたいなのが残ってて、僕、ちょっと気味が悪いんだけどー
-武藤類、だね。天井に、ちぎれた頭部がつぶれて貼りついてたらしいよー
杏里が思考を返すと、重人が露骨にいやそうな顔をした。
-脅かさないでよ。やだよ、こんなとこ。用が済んだら早く出ようよー
-あんたって、本当に小心者だよねー
-なんとでも言えよ。ったく、最近の杏里はいじわるなんだからー
憤然と腰を浮かしかけた時である。
重人がふいに凍りついた。
-あ。待ってー
中腰のまま、前のほうの座席を食い入るように見つめている。
-どうしたの?-
その手に自分の手を重ねて、杏里は訊いた。
-この波動…知ってるー
-え?ー
重人はこの学校の生徒ではない。
ルナがいない今、彼の顔見知りがここにいるとはとても思えない。
ーまさかね…うーん、でも、間違いないー
困惑し切った重人の思念が、杏里の脳髄に流れ込んできた。
-さっきから、何をもぞもぞ言ってるのよ?-
-ヤチカさんだ。この中に、ヤチカさんがいるー
「気をつけて」
傍らの百足丸の手の甲に、自分の手のひらを重ね、ささやくようにヤチカは言った。
「杏里ちゃんと一緒に、ヒュプノスの重人君が来てる。心を読まれないように、何かで頭の中をガードして」
「頭の中をガードだと? そんなの、いったいどうすりゃいいんだよ」
大柄な体を前かがみにして、泡を食ったような口調で百足丸が訊いた。
「強烈なインパクトのある歌を頭の中で歌う。一番最近に見た、あなた好みのエッチな動画をえんえんと再生する。どっちでも、お好きなほうを」
「流行歌なんて興味ねえよ。俺は断然後者だな」
「だと思った」
ふたりは何かを待ち受けてでもいるかのように、退屈な合唱に聴き入っている。
杏里に出会う可能性は、想定内だった。
ただ、ヒュプノスが一緒というのは、ある意味盲点だったと思う。
百足丸は、ゆうべの零の様子を思い浮かべることにした。
百足丸の鍼により、チャクラを活性化された零は、毎日杏里が凌辱されるビデオを見ては、自分を慰めている。
百足丸のペニスを受け入れるようになったものの、エクスタシーはそのオナニーでしか感じないようなのだ。
可愛さ余って憎さ百倍とはこのことだな。
自嘲気味に、百足丸は思った。
「やばいよ」
口に出して、重人が言った。
「ヤチカさんの隣に座ってる男の人だけど…かなりやばい」
重人の目玉は今にも飛び出しそうだ。
「なに、声に出してしゃべってるのよ」
杏里は叱責した。
「だってあの人、零のこと、考えてるんだもん」
泣き出しそうな声音で、重人が言った。
「まさか…」
杏里は絶句した。
「本当だって。零が、その…杏里の映ったビデオ見ながら、オナニーしてるとこ」
-ここには特に仕掛けはないようだね。あるいは、あっても誰も知らないのかー
きょろきょろ周囲を見回していた重人が、テレパシーで直接頭の中に話しかけてきた。
まわりをおもんばかってのことに違いない。
-それよりここって、前任者のパトスが美里先生に殺された現場だろ? かすかに残留思念みたいなのが残ってて、僕、ちょっと気味が悪いんだけどー
-武藤類、だね。天井に、ちぎれた頭部がつぶれて貼りついてたらしいよー
杏里が思考を返すと、重人が露骨にいやそうな顔をした。
-脅かさないでよ。やだよ、こんなとこ。用が済んだら早く出ようよー
-あんたって、本当に小心者だよねー
-なんとでも言えよ。ったく、最近の杏里はいじわるなんだからー
憤然と腰を浮かしかけた時である。
重人がふいに凍りついた。
-あ。待ってー
中腰のまま、前のほうの座席を食い入るように見つめている。
-どうしたの?-
その手に自分の手を重ねて、杏里は訊いた。
-この波動…知ってるー
-え?ー
重人はこの学校の生徒ではない。
ルナがいない今、彼の顔見知りがここにいるとはとても思えない。
ーまさかね…うーん、でも、間違いないー
困惑し切った重人の思念が、杏里の脳髄に流れ込んできた。
-さっきから、何をもぞもぞ言ってるのよ?-
-ヤチカさんだ。この中に、ヤチカさんがいるー
「気をつけて」
傍らの百足丸の手の甲に、自分の手のひらを重ね、ささやくようにヤチカは言った。
「杏里ちゃんと一緒に、ヒュプノスの重人君が来てる。心を読まれないように、何かで頭の中をガードして」
「頭の中をガードだと? そんなの、いったいどうすりゃいいんだよ」
大柄な体を前かがみにして、泡を食ったような口調で百足丸が訊いた。
「強烈なインパクトのある歌を頭の中で歌う。一番最近に見た、あなた好みのエッチな動画をえんえんと再生する。どっちでも、お好きなほうを」
「流行歌なんて興味ねえよ。俺は断然後者だな」
「だと思った」
ふたりは何かを待ち受けてでもいるかのように、退屈な合唱に聴き入っている。
杏里に出会う可能性は、想定内だった。
ただ、ヒュプノスが一緒というのは、ある意味盲点だったと思う。
百足丸は、ゆうべの零の様子を思い浮かべることにした。
百足丸の鍼により、チャクラを活性化された零は、毎日杏里が凌辱されるビデオを見ては、自分を慰めている。
百足丸のペニスを受け入れるようになったものの、エクスタシーはそのオナニーでしか感じないようなのだ。
可愛さ余って憎さ百倍とはこのことだな。
自嘲気味に、百足丸は思った。
「やばいよ」
口に出して、重人が言った。
「ヤチカさんの隣に座ってる男の人だけど…かなりやばい」
重人の目玉は今にも飛び出しそうだ。
「なに、声に出してしゃべってるのよ」
杏里は叱責した。
「だってあの人、零のこと、考えてるんだもん」
泣き出しそうな声音で、重人が言った。
「まさか…」
杏里は絶句した。
「本当だって。零が、その…杏里の映ったビデオ見ながら、オナニーしてるとこ」
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