激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
228 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#228 嵐の予感⑤

しおりを挟む
 体育館は合唱部の出し物の最中で、杏里と重人は目立たぬよう、最後列の入口近くの席に腰を落ち着けた。
 -ここには特に仕掛けはないようだね。あるいは、あっても誰も知らないのかー
 きょろきょろ周囲を見回していた重人が、テレパシーで直接頭の中に話しかけてきた。
 まわりをおもんばかってのことに違いない。
 -それよりここって、前任者のパトスが美里先生に殺された現場だろ? かすかに残留思念みたいなのが残ってて、僕、ちょっと気味が悪いんだけどー
 -武藤類、だね。天井に、ちぎれた頭部がつぶれて貼りついてたらしいよー
 杏里が思考を返すと、重人が露骨にいやそうな顔をした。
 -脅かさないでよ。やだよ、こんなとこ。用が済んだら早く出ようよー
 -あんたって、本当に小心者だよねー
 -なんとでも言えよ。ったく、最近の杏里はいじわるなんだからー
 憤然と腰を浮かしかけた時である。
 重人がふいに凍りついた。
 -あ。待ってー
 中腰のまま、前のほうの座席を食い入るように見つめている。
 -どうしたの?-
 その手に自分の手を重ねて、杏里は訊いた。
 -この波動…知ってるー
 -え?ー
 重人はこの学校の生徒ではない。
 ルナがいない今、彼の顔見知りがここにいるとはとても思えない。
 ーまさかね…うーん、でも、間違いないー
 困惑し切った重人の思念が、杏里の脳髄に流れ込んできた。
 -さっきから、何をもぞもぞ言ってるのよ?-
 -ヤチカさんだ。この中に、ヤチカさんがいるー

「気をつけて」
 傍らの百足丸の手の甲に、自分の手のひらを重ね、ささやくようにヤチカは言った。
「杏里ちゃんと一緒に、ヒュプノスの重人君が来てる。心を読まれないように、何かで頭の中をガードして」
「頭の中をガードだと? そんなの、いったいどうすりゃいいんだよ」
 大柄な体を前かがみにして、泡を食ったような口調で百足丸が訊いた。
「強烈なインパクトのある歌を頭の中で歌う。一番最近に見た、あなた好みのエッチな動画をえんえんと再生する。どっちでも、お好きなほうを」
「流行歌なんて興味ねえよ。俺は断然後者だな」
「だと思った」
 ふたりは何かを待ち受けてでもいるかのように、退屈な合唱に聴き入っている。
 杏里に出会う可能性は、想定内だった。
 ただ、ヒュプノスが一緒というのは、ある意味盲点だったと思う。
 百足丸は、ゆうべの零の様子を思い浮かべることにした。
 百足丸の鍼により、チャクラを活性化された零は、毎日杏里が凌辱されるビデオを見ては、自分を慰めている。
 百足丸のペニスを受け入れるようになったものの、エクスタシーはそのオナニーでしか感じないようなのだ。
 可愛さ余って憎さ百倍とはこのことだな。
 自嘲気味に、百足丸は思った。

「やばいよ」
 口に出して、重人が言った。
「ヤチカさんの隣に座ってる男の人だけど…かなりやばい」
 重人の目玉は今にも飛び出しそうだ。
「なに、声に出してしゃべってるのよ」
 杏里は叱責した。
「だってあの人、零のこと、考えてるんだもん」
 泣き出しそうな声音で、重人が言った。
「まさか…」
 杏里は絶句した。
「本当だって。零が、その…杏里の映ったビデオ見ながら、オナニーしてるとこ」


 

 
 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...