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第9部 倒錯のイグニス

#226 嵐の予感③

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 曙中学の校舎の配置は、単純なコの字型である。
 校庭を囲んで、正門の正面にエントランスのある北棟。
 その向かって右側に垂直に突き出ているのが、中1の教室の並ぶ東棟。
 左翼に当たるのが、中2と中3の教室の入った西棟だった。
 北棟の1階にはエントランスと事務所、そして保健室と職員室しかない。
 2階は東棟と西棟をつなぐ渡り廊下がメインで、東棟側の角に校長室がある。
 東棟の1階は1年生の教室で占められており、2階と3階には音楽室、視聴覚室、理科室、家庭科室などの特別教室が入っている。
 西棟は1階が3年生、2階が杏里たち2年生の教室になっている。
 体育館は、エントランスのある北棟の裏に位置していた。
 まずは1年生からということで、杏里と重人は東棟の1階廊下に足を踏み入れた。
 学年が幼いだけに、ここが一番、保護者の姿が目立つようだった。
 そのためか、挑発的な杏里の服装に批判的な目を向けてくる者も多かった。
 特に母親たちの眼は厳しく、杏里の突き出た胸やむき出しの太腿に非難の視線が集中した。
 廊下を1周して、模擬店に腰を落ち着けると、ストローでアイスミルクを啜りながら、重人が言った。
「通りすがりに生徒たちの思考を読んでみたけど、少なくともこの棟には、大した仕掛けはなさそうだね。迷路にロープを使ったトラップ、それから、ネズミ捕りの罠ぐらいかな」
「ネズミ捕り? なんか馬鹿にしてる」
 同じくアイスミルクで喉を湿らせながら、憮然とした表情で、杏里は言った。
「でも、バネ式の旧来のタイプみたいだから、挟まれるとやっかいだよ。気をつけるに越したことはない」
 まだ正式の発表はないが、考えられるルールとして、校庭のシアターで選抜者100人を相手にした後、杏里は各クラスを一つずつ浄化して回ることになるのではないか。
 そんな気がする。
 選抜者100人を除いても、残りの生徒はまだ500人以上いるのだ。
 まとめて浄化するのはまず不可能に近い。
 ならば残るのは、クラス単位の浄化しかないだろう。
 そう思うのだ。
 重人を呼んで事前に全教室を回っておこうと考えたのは、そのためだった。
 どの教室にどんな罠が仕掛けられているのかあらかじめ知っておけば、下手を打つことはないはずだ。
 もちろん各教室のトラップは、明日になるまで巧妙に隠されていることだろう。
 だが、テレパスの重人なら、生徒たちの思念からその概要を読み取ることができるのだ。
 絶対に避けねばならないのは、身体の自由を奪われて陰部のクリトリスリングを奪われることである。
 それが勝利の条件なのだから、生徒たちは死に物狂いでかかってくるはずだった。
 勝利者には、高校進学への保証だの、奨学金の無償貸与やらの特典があるだけに、尚更だ。
「それにしても、ここも居心地悪いね」
 尻をもぞもぞ動かして、重人が言った。
「1年のくせに、みんな杏里とやりたがってるよ。男はみんな勃起してるし、女の子も大半があそこを濡らしちゃってる。杏里ってほんと、たちが悪いよね」
「しょうがないでしょ。タナトスなんだから」
 手書きのレシートをつかんで、杏里は腰を上げた。
「行くよ。次は西棟だからね」


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