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第9部 倒錯のイグニス

#223 進化する淫獣⑨

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 突然陰核の先端に爪を立てられたような刺激に、杏里は危うく声を漏らしそうになった。
 冬美の鋭く伸びた爪が、陰核ではなく、杏里の乳首の根元に突き立てられたのだ。
 ネイルの装飾など一切ない冬美の爪は、さながら真珠色の剃刀だった。
 乳首と乳房の間からじわりと鮮血がにじみ出し、その小さな凶器が傷口にめりこんだ。
「これは、どう?」
 冬美がナイフでケーキを切るように、乳首の付け根を爪で一周した。
 赤い血に混じって半透明の脂肪が膨れ出し、ゼラチンのような塊となって乳房の表面を滑り落ちていく。
 皮一枚でかろうじて乳房本体とつながった乳首が、不自然な角度で垂れ下がる。
「顔色ひとつ変えないのね。このくらいはすぐに治ると思ってるから?」
 冬美は愉しそうだった。
 血の湧き出す乳首の取れた乳房の頂に狙いを定めると、その丸い傷口に刃物のような長い爪を突き刺した。
 毬のような杏里の豊乳が歪み、変形した。
 たっぷりと脂肪の詰まった肉の中を、ぶすぶすと冬美の爪が突き進んでいく。
 欠陥が切れ、乳腺が弾けるのがわかった。
 血の後から、今度は透明な体液があふれ出してきて、どくどくと杏里の乳房を濡らし始めた。
 脳天に突き抜ける快感に、杏里の口腔内では、三たび舌が変形しかけている。
 うっすらと目を開くと、すぐ前に冬美の貝殻のような耳があった。
 いっそのこと、舌をあの耳の穴に打ち込んでやったらどうだろう?
 残虐な思いとともに、杏里は思った。
 よくよく考えてみれば、たとえ冬美に変化を知られたところで、その後すぐに彼女を完全浄化してしまえば、この場での短期記憶は消えてしまうのだ。
 未体験の凄絶な快楽は、時として人の記憶を抹消してしまうものなのである。
 決心して、杏里が舌を使おうと口を開きかけた時だった。
 -あんた、本当にやる気かい?-
 脳内スクリーンいっぱいに、ジェニーの黄金の瞳が浮かび上がった。
 -仲間に刃を向けるだなんて、それがどんなに悪手なのか、わかってるんだろうね?-
 ジェニー…。
 杏里は唇を引き結び、舌を喉の奥深くしまいこんだ。
 -任務に私情をはさむんじゃない。好き嫌いはあるにせよ、曲りなりにも冬美はおまえの側の人間じゃないか。ただでさえ仲間が少ないのに、これ以上孤立してどうする?-
 だって、彼女のほうから、言いがかりを…。
 杏里は鼻白んだ。
 快感の波が急速に引いていく。
 ジェニーの言う通りだった。
 由羅も、ヤチカも、いずなも、そしてルナさえもいなくなった今、冬美と小田切、そして重人しか、味方らしい味方はいないのだ。
 しかも、冬美は委員会上層部にパイプを持っていて、この先貴重な情報源になる可能性が高い。
 わかった。
 やめておくわ。
 消えかけたジェニーに、杏里は思念を送った。
 ふと、美里とルナの消息を訊けばよかったと後悔したが、ジェニーの退場ぶりはいつにもまして早かった。
「やめようよ、冬美さん」
 力の抜けた声で、もう一方の乳首を斬りおとそうとする冬美に向かって、杏里は声をかけた。
「そんなこと、いくらやっても、無駄だから。それより、早く重人に会わせてくれないかな。ルナのことも心配だし、美里先生が復活した以上、こんなことしてる場合じゃないと思うんだ」
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