222 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#222 進化する淫獣⑧
しおりを挟む
「そう? じゃ、遠慮なく、そうさせてもらうわ」
冬美の顔が引きつった。
首筋に太い静脈が浮き上がっている。
鼻孔が開き、眼には狂気の光が宿っていた。
これほどまでに感情をあらわにする冬美を見るのは、これが初めてだ。
普段の模範教師然とした姿を見慣れているだけに、ある意味杏里にとって、この変貌ぶりは驚きだった。
「前から気に入らなかったのよね」
杏里の首を右手でつかみ、歯軋りするような声で、冬美が言った。
「たかがモノの分際で、生意気で、いい女ぶって」
冬美の膝頭が鳩尾に食い込み、杏里はうめいた。
胃液が逆流し、口の中が酸っぱい味でいっぱいになる。
「いつか、思い知らせてやらなきゃと思ってたところなの。ちょうどいい機会だわ」
喉輪で締め上げて杏里を上向かせると、その右頬を、すかさず冬美が左手で張った。
唇の端が切れ、唾液とともに鮮血が飛び散った。
「これがあなたの流儀なの?」
冷ややかな目で冬美を見下ろして、静かな口調で杏里が挑発する。
「これしきのことで、私が降参すると思う?」
膝蹴りも平手打ちも、杏里に痛みを与えることはできない。
残るのは、熾火のようにくすぶる快感だけなのだ。
「なんとでもおっしゃい」
冬美が右足を振り上げ、分厚いブーツの底で杏里の下腹を蹴った。
へそを中心に、平らな腹に赤い靴痕が残ると、じわじわとまた快感の波が広がり始めた。
「さすがタナトスね。閾値を超えた痛みは、すべて快感に変換する。だから、よほどのことがない限り、あなたは苦しむことがない」
冬美の顔に浮かぶのは、小動物を虐待して喜ぶ異常者の表情だ。
池のアヒルをボウガンで射る。
子犬に火をつけて燃える様子を観察する。
子猫を電子レンジに入れ、苦しむ様子を動画に撮る。
小学校から盗み出したウサギを解体して、体の中がどうなっているか調べる。
そんな時、ある種の人間たちは、今の冬美のような表情を顔に浮かべているのに違いない。
「でも、その機能にも、限界があるんじゃないかしら? 快感に変換できないほどの痛み、それを私はあなたに与えてあげたいの」
杏里の右の乳首を、人差し指と親指でつまんで、その冬美が言った。
腹の底から絞り出すような、憎しみに満ちた声音だった。
これが素の冬美なのだ、と杏里は思った。
これほどまでに疎まれていたとは、今の今まで気づかなかった。
ここまでくると、ショックを通り越して、むしろ快感だ。
この冬美を激高させるだけの存在感が、自分には備わっているということなのだから。
「無駄だと思うけど」
杏里はうっすらと余裕の笑みを浮かべた。
「手足を引きちぎられ、内臓を引きずり出されても、私は死ななかったのよ。そんな怪物相手に、ただの人間に過ぎないあなたに、いったい何ができるというの?」
「やってみなけりゃ、わからないでしょ」
冬美の語尾が震えた。
乳首をつまむ指に恐ろしい力がこもった。
それは断じて愛撫などではなかった。
冬美は今、本気で杏里の乳首を引きちぎろうとしているのだ。
冬美の顔が引きつった。
首筋に太い静脈が浮き上がっている。
鼻孔が開き、眼には狂気の光が宿っていた。
これほどまでに感情をあらわにする冬美を見るのは、これが初めてだ。
普段の模範教師然とした姿を見慣れているだけに、ある意味杏里にとって、この変貌ぶりは驚きだった。
「前から気に入らなかったのよね」
杏里の首を右手でつかみ、歯軋りするような声で、冬美が言った。
「たかがモノの分際で、生意気で、いい女ぶって」
冬美の膝頭が鳩尾に食い込み、杏里はうめいた。
胃液が逆流し、口の中が酸っぱい味でいっぱいになる。
「いつか、思い知らせてやらなきゃと思ってたところなの。ちょうどいい機会だわ」
喉輪で締め上げて杏里を上向かせると、その右頬を、すかさず冬美が左手で張った。
唇の端が切れ、唾液とともに鮮血が飛び散った。
「これがあなたの流儀なの?」
冷ややかな目で冬美を見下ろして、静かな口調で杏里が挑発する。
「これしきのことで、私が降参すると思う?」
膝蹴りも平手打ちも、杏里に痛みを与えることはできない。
残るのは、熾火のようにくすぶる快感だけなのだ。
「なんとでもおっしゃい」
冬美が右足を振り上げ、分厚いブーツの底で杏里の下腹を蹴った。
へそを中心に、平らな腹に赤い靴痕が残ると、じわじわとまた快感の波が広がり始めた。
「さすがタナトスね。閾値を超えた痛みは、すべて快感に変換する。だから、よほどのことがない限り、あなたは苦しむことがない」
冬美の顔に浮かぶのは、小動物を虐待して喜ぶ異常者の表情だ。
池のアヒルをボウガンで射る。
子犬に火をつけて燃える様子を観察する。
子猫を電子レンジに入れ、苦しむ様子を動画に撮る。
小学校から盗み出したウサギを解体して、体の中がどうなっているか調べる。
そんな時、ある種の人間たちは、今の冬美のような表情を顔に浮かべているのに違いない。
「でも、その機能にも、限界があるんじゃないかしら? 快感に変換できないほどの痛み、それを私はあなたに与えてあげたいの」
杏里の右の乳首を、人差し指と親指でつまんで、その冬美が言った。
腹の底から絞り出すような、憎しみに満ちた声音だった。
これが素の冬美なのだ、と杏里は思った。
これほどまでに疎まれていたとは、今の今まで気づかなかった。
ここまでくると、ショックを通り越して、むしろ快感だ。
この冬美を激高させるだけの存在感が、自分には備わっているということなのだから。
「無駄だと思うけど」
杏里はうっすらと余裕の笑みを浮かべた。
「手足を引きちぎられ、内臓を引きずり出されても、私は死ななかったのよ。そんな怪物相手に、ただの人間に過ぎないあなたに、いったい何ができるというの?」
「やってみなけりゃ、わからないでしょ」
冬美の語尾が震えた。
乳首をつまむ指に恐ろしい力がこもった。
それは断じて愛撫などではなかった。
冬美は今、本気で杏里の乳首を引きちぎろうとしているのだ。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる