激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#219 進化する淫獣⑤

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 それはただの十字架ではなかった。
 上部は突き出た縦棒のない、Tの字型をしていて、エジプトのアンクに似ている。
 下部は二股に分かれており、45度ほどの角度で開いている。
 その全体としてはヒトの形をした柱に、杏里は手足を縛りつけられていた。
 手首と足首を固定した拘束具は革製で、少しでも動くと皮膚に食い込んでくる。
 冬美に命じられるまま、杏里は全裸になっている。
 14歳の少女のものとはとても思えない豊満な肉体に、オレンジ色の非常灯が淫靡な影を落としていた。
 正直、杏里はSMプレイに興味はない。
 だから、冬美の女王様然としたハイレグボンテージコスチュームにも、その手に握られた鞭にも、漠然とした嫌悪感を抱いていた。
 私は、真正のマゾヒストだった由羅ではないのだ。
 馬鹿のひとつ覚えで、SMの小道具を使って私を試そうだなんて。
 この女、案外、頭が悪いのかもしれない。
「行くわよ」
 杏里の思惑をよそに、冬美が鞭を振り上げた。
 先が触手のように何本にも分かれた、変わった形の鞭である。
 SMプレイのアイテムというより、猛獣をしつけるのに使う道具に似ている。
 風切り音とともに、冬美の腕から鞭が放たれた。
 軟体動物の触手そのものの鞭の先が、杏里の左の乳房を襲い、その柔らかな表面に吸いついた。
「ううっ」
 杏里がうめいたのは、ほかでもない。
 乳房のカーブに沿って離れるかに見えた鞭の先が、あたかも指のように乳首をつまんだのだ。
 そして、痺れるような感触が来た。
 静電気で指先に火花が散る時のような感触だった。
 微細な電流を受け、見る間に乳首が硬くなる。
 いったん手元に引き寄せ、冬美がもう一度、鞭をふるった。
 同じことが右の乳首に起こり、杏里は跳ねるように下半身を動かした。
 冬美は無言だった。
 ただ、機械のように鞭をふるってきた。
 電気を帯びた触手状の先端が、そのたびに、杏里の腹に、腋の下に、脇腹に、太腿に当たった。
 その振動で、杏里の豊乳が揺れ、汗のしずくが飛び散った。
 冬美の力はそれほど強くはない。
 が、杏里の誤算は、己の特異体質の変化を失念していたことだった。
 以前なら、閾値を超えなければ、痛みは快楽に転嫁されなかったものである。
 それが、性感帯が進化を遂げるに従い、変わりつつあった。
 変換の閾値のハードルが、異様に低くなっている。
 すなわち、今の杏里の肉体は、ほんの少しの痛みをも快感に変えてしまうのだ。
 むち打ちは、その最たるものだった。
 打擲を受けるたびに、鞭の当たった部位で快感がスパークした。
 知らなかった。
 いつしか、喘ぎ、身悶えながら、杏里は思った。
 SMプレイが、こんなに、気持ちいいだなんて…。
 ああ、このままでは、舌が…触手が…。
 
 
 
 

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