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第9部 倒錯のイグニス
#218 進化する淫獣④
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車に乗せられ、冬美の家に向かった。
車内では、冬美も杏里も無言だった。
冬美は杏里をただの道具としか見ていない。
それがわかっているだけに、杏里としても、自分から話をする気になれないのだ。
冬美の家も、小田切の家と同じ、農家を改造した一軒家である。
以前は畑だった平地に車を止めると、冬美は母屋から少し離れた土蔵に杏里を導いた。
「いきなり?」
土蔵の用途を知っているだけに、少なからず、杏里は驚いた。
「重人に声かけようかと思ってたのに」
「それはあとでいいわ。早く済ませたほうが、気が楽でしょ」
土蔵の扉を開きながら、冬美が言った。
「もし、私が感染してたら、どうするつもり?」
警戒するように、杏里は訊いた。
この土蔵は、かつて由羅が生きていた頃、冬美が由羅を調教するために使用していたSMルームである。
杏里自身、この中で由羅と対峙したことがある。
「その時は、ラボに強制送還かな。そうなれば、当然、あさってのイベントは中止。曙中学には、あなたに代わって新しいタナトスを送り込まなきゃいけなくなる」
何でもないことのように、冬美が言った。
そんなことになったら、校長の大山は目を回すに違いない。
杏里としては面倒が減るので、それでもいっこうにかまわないが、ラボとやらに送還されるのは避けたかった。
ラボというからには、人体実験のようなことをする施設なのだろう。
それくらいの想像はつく。
「さ、入って」
冬美に促され、薄暗い建物内に一歩足を踏み入れると、異様な光景が目に飛び込んできた。
正面の少し高くなったステージに立てられた大きな十字架。
天井の梁から垂れ下がる、拘束具つきの無数のロープ。
「しばらく使ってないけど、定期的に手入れはしてあるから」
部屋の中を眺めながら、冬美がつぶやいた。
「いつ、由羅が帰ってきても、いいようにね」
「由羅は…生きてるの?」
心臓に釘を刺されたような痛みを覚え、杏里は訊いた。
「本部で蘇生に成功したのね?」
「わからない」
冬美がかぶりを振った。
「ただ、あの後すぐに、ラボに運ばれたことがわかってるだけ」
「でも、あなたはそのラボから帰ってきたところなんでしょう? 向こうで由羅の消息は聞かなかったの?」
はやる杏里に、
「残念ながら」
冬美が外国人のように肩をすくめてみせた。
「誰も教えてくれなかったわ。由羅のことは、機密事項なんですって」
「じゃ、少なくとも、死んじゃいないってことですよね?」
杏里は食い下がる。
あの由羅が、生きている?
だったら、会いたい。
会って、もう一度、改めて思いのたけを伝えたい。
「仮にそうだとしても、その時はもう、以前の由羅じゃないかもね」
冬美がブラウスを、タイトスカートを脱いでいく。
下着も脱いで全裸になると、ロッカーから取り出したエナメルの衣装に着替え始めた。
ボンテージ風のコスチュームに身を包むと、鞭で杏里を指し示し、冷ややかな口調で命令した。
「さあ、あなたも脱いで。面倒なことは、さっさと済ませてしまいましょう」
車内では、冬美も杏里も無言だった。
冬美は杏里をただの道具としか見ていない。
それがわかっているだけに、杏里としても、自分から話をする気になれないのだ。
冬美の家も、小田切の家と同じ、農家を改造した一軒家である。
以前は畑だった平地に車を止めると、冬美は母屋から少し離れた土蔵に杏里を導いた。
「いきなり?」
土蔵の用途を知っているだけに、少なからず、杏里は驚いた。
「重人に声かけようかと思ってたのに」
「それはあとでいいわ。早く済ませたほうが、気が楽でしょ」
土蔵の扉を開きながら、冬美が言った。
「もし、私が感染してたら、どうするつもり?」
警戒するように、杏里は訊いた。
この土蔵は、かつて由羅が生きていた頃、冬美が由羅を調教するために使用していたSMルームである。
杏里自身、この中で由羅と対峙したことがある。
「その時は、ラボに強制送還かな。そうなれば、当然、あさってのイベントは中止。曙中学には、あなたに代わって新しいタナトスを送り込まなきゃいけなくなる」
何でもないことのように、冬美が言った。
そんなことになったら、校長の大山は目を回すに違いない。
杏里としては面倒が減るので、それでもいっこうにかまわないが、ラボとやらに送還されるのは避けたかった。
ラボというからには、人体実験のようなことをする施設なのだろう。
それくらいの想像はつく。
「さ、入って」
冬美に促され、薄暗い建物内に一歩足を踏み入れると、異様な光景が目に飛び込んできた。
正面の少し高くなったステージに立てられた大きな十字架。
天井の梁から垂れ下がる、拘束具つきの無数のロープ。
「しばらく使ってないけど、定期的に手入れはしてあるから」
部屋の中を眺めながら、冬美がつぶやいた。
「いつ、由羅が帰ってきても、いいようにね」
「由羅は…生きてるの?」
心臓に釘を刺されたような痛みを覚え、杏里は訊いた。
「本部で蘇生に成功したのね?」
「わからない」
冬美がかぶりを振った。
「ただ、あの後すぐに、ラボに運ばれたことがわかってるだけ」
「でも、あなたはそのラボから帰ってきたところなんでしょう? 向こうで由羅の消息は聞かなかったの?」
はやる杏里に、
「残念ながら」
冬美が外国人のように肩をすくめてみせた。
「誰も教えてくれなかったわ。由羅のことは、機密事項なんですって」
「じゃ、少なくとも、死んじゃいないってことですよね?」
杏里は食い下がる。
あの由羅が、生きている?
だったら、会いたい。
会って、もう一度、改めて思いのたけを伝えたい。
「仮にそうだとしても、その時はもう、以前の由羅じゃないかもね」
冬美がブラウスを、タイトスカートを脱いでいく。
下着も脱いで全裸になると、ロッカーから取り出したエナメルの衣装に着替え始めた。
ボンテージ風のコスチュームに身を包むと、鞭で杏里を指し示し、冷ややかな口調で命令した。
「さあ、あなたも脱いで。面倒なことは、さっさと済ませてしまいましょう」
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