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第9部 倒錯のイグニス

#205 美里の影⑨

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 男児の行為は、いたずらにしては度を越していた。
 パンティを半ばまでずり下げられ、硬直したペニスを押し当てられながら、杏里は思った。
 これはレイプだ。
 大人の男の強姦と、どこが違うというのだ。
 男児は杏里のパンティを膝まで一気に引き下ろすと、きゃはきゃは笑いながら背中に馬乗りになってきた。
 太っているだけあって、恐ろしく重い。
 その重みに負けて、地面に両手と両膝をつく杏里。
 尖った鉛筆のような男児のペニスは今や杏里の会陰部を滑り、正確に膣口を狙っている。
 その芋虫のように太い指が杏里の豊満な乳房を揉みしだき、時折強く乳首をつまみあげてきた。
 脱げたパンティが膝に絡まり、足の自由が利かなかった。
 が、幸いなことに、肌という肌からは、すでに防護液がにじみ出し始めている。
 思い切って身体をひねると、摩擦が激減したおかげで、男児の手が滑った。
 チャンスだった。
 こうなったら、こっちも本気になるしかない。
 子どもだと思って甘く見たのが、間違いだったのだ。
 杏里は仰向けになり、男児を両腕に抱き留めた。
 右手を下半身に伸ばし、挿入直前のペニスを握り締める。
 同時に左手で男児のうなじをつかみ、顔をぐいと引き寄せる。
 かあっと開いたそのサメのような口めがけて、杏里は己の唇を押しつけた。
 男児が口を閉じ、入ってきた杏里の舌の感触に目を白黒させた。
 杏里の口腔内に唾液が湧き上がる。
 それを舌ですくって、男児の口の中に送り込む。
 右手で包皮を剥き、頭を出した亀頭を指の腹で撫でまわす。
「お姉ちゃん、気持ち、いい! ボク、おちんちんから、なにか出そうだよォ!」
 男児が感極まって、嬌声を上げた。
「出しなさい」
 男児の指が乳房に食い込むのもかまわず、杏里は身体を反転させ、男児の上に馬乗りになった。
「全部出して、楽になりなさい」
 右手の動きを加速させ、抵抗しなくなった男児の肩を左手で地面に押さえつけた時である。
 突然、背中に柔らかいものがぶつかってきて、杏里は横に転がった。
「リョウちゃんをいじめるな!」
「リョウちゃんを放せ! このババア!」
 ふたりの女児だった。
 窓から転げ落ちてきた女児たちが、杏里の背中に次々とぶつかったのだ。
「あなたたち…」
 顔を上げると、キューピー人形のようにつるんとした裸体の女児が、並んで立って杏里をにらみつけていた。
「子どもをいじめるのは、ヨウジギャクタイって言って、すっごく悪いことなんだよ!」
「そんなやつはゆるさないって、みさと先生も言ってたよ!」
「美里、先生…?」
 杏里はぽかんと口を開けた。
 そして、その時になって、ようやく気づいた。
 女児のひとりが、首に青いスカーフを巻いている。
 あれは、うちの学校の…?
「ちょっと、訊きたいんだけど」
 イキかけている男児を放置して、杏里は立ち上がった。
「あなた、そのスカーフ、どこで手に入れたの?」
 女児たちが怯えたように後じさる。
 と、ふいに鋼鉄が軋むような音が聞こえてきた。
 施設の門扉が開きかけているのだ。
 半ば開いた鉄格子の間だから、グレーのスーツ姿が現れた。
「もうそのへんで、やめたらどうかしら」
 聞き覚えのある声が、杏里の耳朶を打った。
「幼児相手に真剣になるなんて、らしくないわね。笹原さん」
 眼鏡の奥から、無表情な目で杏里を見つめ、たしなめるような口調で、スーツ姿の女が言った。




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