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第9部 倒錯のイグニス
#195 生誕の秘密②
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ルナだ。
杏里はようやくその事実に思い至った。
ルナの名字も、富樫である。
では、あの老人が、ルナの祖父だとでもいうのだろうか?
もし、そうだとするなら、それは杏里を”わが子”と呼ぶこととは、本質的に意味が違うはずだった。
富樫博士は、己の孫の死体をベースにパトス”ルナ”を創造した。
そういうことになるはずだ。
「ルナの生い立ちはどんなふうなの? ルナってハーフなんだよね? どこで生まれてどうしてパトスに?」
息せき切ってたずねたものの、小田切は首を振るばかりだった。
「おまえたちの生前の記録は公開されていない。本部のメインコンピュータのメモリの中に厳重に保管されてるのさ。そんな機密情報、俺みたいな下っ端が知るはずないだろ」
「じゃ、冬美さんは? 彼女は勇次の上司なんでしょ? 私、ちょっと聞いてみる」
「無駄だろうな。仮に知っていても、冬美がそんな情報を漏らすはずがない」
スマホを引っ張り出した杏里を、小田切がとりつく島もない口調でたしなめる。
「聞いてみなきゃ、わかんないじゃない!」
重人の電話番号にかけてみた。
『あ、杏里』
2コールで重人が出た。
『ちょうどこっちからかけようと思ってたとこだよ。あのさ、ルナ、知らない?』
「え? ルナがどうかしたの?」
杏里の背筋を冷たい汗が伝った。
ルナとはカラオケルームで喧嘩別れしたばかりである。
『まだ帰ってこないんだよ。マンションのほうに電話してみても、出ないし。もちろん、ケータイも』
「そんな…。もう、別れてから、ずいぶん経つのに」
杏里のつぶやきにこもる不安を、敏感に感じ取って重人が言った。
『何かあったのかい? まさか、また喧嘩したんじゃないだろうね?』
「ち、違うよ。それより、あんたお得意のテレパシーで呼んでみればいいじゃない。電話よりずっと早いでしょ」
心を読まれたのかと思い、杏里は一瞬、ひやっとした。
『それがさあ、テレパシー使うと、ルナ、すごく怒るんだよ。人の頭の中、勝手に覗くなって』
「でも、事情が事情なら、やってみるしかないんじゃないの?」
『まあ、そうだけど…』
嫌そうに重人が口ごもる。
「それより、そこに冬美さん、いる? 居たらかわってほしいんだけどな」
『冬美? いないよ。なんでも、北海道に出張だって、今朝あわてて出てったけど』
「北海道…?』
富樫博士の件だろうか。
それなら私も、一緒に連れて行ってほしかった。
もっとも、頼んだところで、冬美がうんと言うはずないのだけれど。
「ルナと連絡が取れたら、私のケータイにかけてくれない? きょうの夜はずっとうちにいるつもりだから。お願いね」
スマホを切ると、小田切が訊いてきた。
「冬美が北海道に? そりゃ、いったい、どういうことなんだ?」
杏里はようやくその事実に思い至った。
ルナの名字も、富樫である。
では、あの老人が、ルナの祖父だとでもいうのだろうか?
もし、そうだとするなら、それは杏里を”わが子”と呼ぶこととは、本質的に意味が違うはずだった。
富樫博士は、己の孫の死体をベースにパトス”ルナ”を創造した。
そういうことになるはずだ。
「ルナの生い立ちはどんなふうなの? ルナってハーフなんだよね? どこで生まれてどうしてパトスに?」
息せき切ってたずねたものの、小田切は首を振るばかりだった。
「おまえたちの生前の記録は公開されていない。本部のメインコンピュータのメモリの中に厳重に保管されてるのさ。そんな機密情報、俺みたいな下っ端が知るはずないだろ」
「じゃ、冬美さんは? 彼女は勇次の上司なんでしょ? 私、ちょっと聞いてみる」
「無駄だろうな。仮に知っていても、冬美がそんな情報を漏らすはずがない」
スマホを引っ張り出した杏里を、小田切がとりつく島もない口調でたしなめる。
「聞いてみなきゃ、わかんないじゃない!」
重人の電話番号にかけてみた。
『あ、杏里』
2コールで重人が出た。
『ちょうどこっちからかけようと思ってたとこだよ。あのさ、ルナ、知らない?』
「え? ルナがどうかしたの?」
杏里の背筋を冷たい汗が伝った。
ルナとはカラオケルームで喧嘩別れしたばかりである。
『まだ帰ってこないんだよ。マンションのほうに電話してみても、出ないし。もちろん、ケータイも』
「そんな…。もう、別れてから、ずいぶん経つのに」
杏里のつぶやきにこもる不安を、敏感に感じ取って重人が言った。
『何かあったのかい? まさか、また喧嘩したんじゃないだろうね?』
「ち、違うよ。それより、あんたお得意のテレパシーで呼んでみればいいじゃない。電話よりずっと早いでしょ」
心を読まれたのかと思い、杏里は一瞬、ひやっとした。
『それがさあ、テレパシー使うと、ルナ、すごく怒るんだよ。人の頭の中、勝手に覗くなって』
「でも、事情が事情なら、やってみるしかないんじゃないの?」
『まあ、そうだけど…』
嫌そうに重人が口ごもる。
「それより、そこに冬美さん、いる? 居たらかわってほしいんだけどな」
『冬美? いないよ。なんでも、北海道に出張だって、今朝あわてて出てったけど』
「北海道…?』
富樫博士の件だろうか。
それなら私も、一緒に連れて行ってほしかった。
もっとも、頼んだところで、冬美がうんと言うはずないのだけれど。
「ルナと連絡が取れたら、私のケータイにかけてくれない? きょうの夜はずっとうちにいるつもりだから。お願いね」
スマホを切ると、小田切が訊いてきた。
「冬美が北海道に? そりゃ、いったい、どういうことなんだ?」
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