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第9部 倒錯のイグニス
#190 邂逅②
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「そんな…無理です。あなたがどなたか知らないけど、私には…」
髪を逆立てた男が、人混みから姿を現すのを見て、杏里は言った。
米軍払い下げのぶかぶかのジャンパーを着たその若者は、目を血走らせ、右手にサバイバルナイフ、左手に鎌のようなものを握っている。
-おらおらおら、どけ、畜生!
そう叫んでは、刃物を交互に振り回す。
ブティックの店先にいた女子中学生が、肩を切られてうずくまる。
傷口を手で押さえているが、噴き出る血潮は止まらない。
止めに入った初老の男性の首筋に、斜め下から鎌の切っ先が突き立った。
振り向きざまに男が腕を振り上げたのだ。
外来種だろうか。
それとも、通り魔?
恐怖で足がすくんで動けない。
男は逃げ遅れ、通路の左右で凍りついた客たちを無差別に襲いながら、杏里のほうへ近づいてくる。
「おいで、杏里」
老人が呼んだ。
これまでかけられたことにない優しい声に、糸に引かれるように杏里は動いていた。
杏里の上半身をそっと抱きかかえると、老人の右手の人差し指が、ふいに顔を撫でた。
下唇の裏側を、指先で触れられた瞬間である。
杏里の身体の中心に、ぽっと熱い火がともった。
「あ」
その熱の塊が、もどかしいような疼きとなって全身に広がっていく。
「これでいい」
杏里の表情の変化を見て、老人がうなずいた。
「気づいていないかもしれないが、ここもタナトスの力を呼び覚ますスイッチだ。さ、行くがいい」
杏里は右手を胸にさまよわせた。
ブラウスを持ち上げる硬い突起が指の腹に触れた。
乳首が勃起して、ハーフカップブラの縁から顔を出しているのだ。
左手を体で隠すようにして、スカートの中へ入れた。
パンティのクロスの部分をめくり、人差し指を中に忍ばせてみる。
案の定、”唇”が開きかけていた。
中が湿り、ぬるりとした感触を指に伝えてくるのがわかった。
にわかには信じられなかった。
下唇の裏側。
そんな目に見えない個所を触られただけで、肉体がこんなにも興奮してしまうだなんて…。
背中を優しく押され、杏里は歩き出した。
夢遊病者のような足取りで、荒れ狂う若者に向かって近づいていく。
男は小学生くらいの少年の胸からナイフを抜いたところだった。
少年は血の噴き出す胸を無言で見つめ、奇妙なものを見るように何度かまばたきした。
そしてそのまま、壁に背中をつけてずるずると崩れ落ちた。
男が振り向いた。
男と杏里の間に、1台のベビーカーがあった。
髪を茶色に染めた若い母親が、その取っ手を握りしめたまま、金縛りに遭ったかのように立ちすくんでいる。
杏里はベビーカーの前に回りこむと、男の正面に立った。
「ん?」
網の目のように毛細血管が浮き出した気味の悪い目が、杏里をじっと見下ろした。
内圧で眼球が飛び出しかけた、妙に白いところの多い眼だった。
「なんだ、おまえ? 殺されたいの?」
変声期前の子どものように変に甲高い声で、男が言った。
杏里は答えず、ゆっくりとブラウスの前を開いた。
歩きながら、ボタンがすべて外してあった。
Gカップの豊乳がこぼれ出し、たちまち男の視線を釘づけにする。
「ほうっ、こりゃおもしろい! おまえも、いかれてるんだ!」
男がうれしそうに叫び、脇をしめ、勢いよくナイフを突き出した。
長い刃の部分が、するりと杏里の右胸に吸い込まれた。
形のいい乳房がぐにゃりと歪む。
陽にあたったことのない真っ白な肌に、じわりと赤い染みが広がっていく。
「う」
刃物のの感触を味わうように、杏里は一瞬、目を閉じた。
「警察だ! 110番を!」
誰かの叫び声が、聞こえてきた。
髪を逆立てた男が、人混みから姿を現すのを見て、杏里は言った。
米軍払い下げのぶかぶかのジャンパーを着たその若者は、目を血走らせ、右手にサバイバルナイフ、左手に鎌のようなものを握っている。
-おらおらおら、どけ、畜生!
そう叫んでは、刃物を交互に振り回す。
ブティックの店先にいた女子中学生が、肩を切られてうずくまる。
傷口を手で押さえているが、噴き出る血潮は止まらない。
止めに入った初老の男性の首筋に、斜め下から鎌の切っ先が突き立った。
振り向きざまに男が腕を振り上げたのだ。
外来種だろうか。
それとも、通り魔?
恐怖で足がすくんで動けない。
男は逃げ遅れ、通路の左右で凍りついた客たちを無差別に襲いながら、杏里のほうへ近づいてくる。
「おいで、杏里」
老人が呼んだ。
これまでかけられたことにない優しい声に、糸に引かれるように杏里は動いていた。
杏里の上半身をそっと抱きかかえると、老人の右手の人差し指が、ふいに顔を撫でた。
下唇の裏側を、指先で触れられた瞬間である。
杏里の身体の中心に、ぽっと熱い火がともった。
「あ」
その熱の塊が、もどかしいような疼きとなって全身に広がっていく。
「これでいい」
杏里の表情の変化を見て、老人がうなずいた。
「気づいていないかもしれないが、ここもタナトスの力を呼び覚ますスイッチだ。さ、行くがいい」
杏里は右手を胸にさまよわせた。
ブラウスを持ち上げる硬い突起が指の腹に触れた。
乳首が勃起して、ハーフカップブラの縁から顔を出しているのだ。
左手を体で隠すようにして、スカートの中へ入れた。
パンティのクロスの部分をめくり、人差し指を中に忍ばせてみる。
案の定、”唇”が開きかけていた。
中が湿り、ぬるりとした感触を指に伝えてくるのがわかった。
にわかには信じられなかった。
下唇の裏側。
そんな目に見えない個所を触られただけで、肉体がこんなにも興奮してしまうだなんて…。
背中を優しく押され、杏里は歩き出した。
夢遊病者のような足取りで、荒れ狂う若者に向かって近づいていく。
男は小学生くらいの少年の胸からナイフを抜いたところだった。
少年は血の噴き出す胸を無言で見つめ、奇妙なものを見るように何度かまばたきした。
そしてそのまま、壁に背中をつけてずるずると崩れ落ちた。
男が振り向いた。
男と杏里の間に、1台のベビーカーがあった。
髪を茶色に染めた若い母親が、その取っ手を握りしめたまま、金縛りに遭ったかのように立ちすくんでいる。
杏里はベビーカーの前に回りこむと、男の正面に立った。
「ん?」
網の目のように毛細血管が浮き出した気味の悪い目が、杏里をじっと見下ろした。
内圧で眼球が飛び出しかけた、妙に白いところの多い眼だった。
「なんだ、おまえ? 殺されたいの?」
変声期前の子どものように変に甲高い声で、男が言った。
杏里は答えず、ゆっくりとブラウスの前を開いた。
歩きながら、ボタンがすべて外してあった。
Gカップの豊乳がこぼれ出し、たちまち男の視線を釘づけにする。
「ほうっ、こりゃおもしろい! おまえも、いかれてるんだ!」
男がうれしそうに叫び、脇をしめ、勢いよくナイフを突き出した。
長い刃の部分が、するりと杏里の右胸に吸い込まれた。
形のいい乳房がぐにゃりと歪む。
陽にあたったことのない真っ白な肌に、じわりと赤い染みが広がっていく。
「う」
刃物のの感触を味わうように、杏里は一瞬、目を閉じた。
「警察だ! 110番を!」
誰かの叫び声が、聞こえてきた。
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