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第9部 倒錯のイグニス
#185 イベント準備⑫
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ヤチカに続いて、店を出た。
迷路のようなゲームコーナーを苦労して抜け出すと、そこは平面駐車場だった。
市バスに乗るつもりなのだろう。
金髪の少女は、建物に沿ってキャットウォークを歩いていく。
その先に駐車場の出口があり、外周の舗道に通じているのだ。
少女が出口にさしかかった時だった。
ふいに喚声が沸き起こった。
出口から一番近い駐車スペースに、車体に黄色いゾウをペイントした幼稚園バスが止まっている。
そのドアが開いて、おそろいのスモックを着、黄色の帽子をかぶったた園児たちが一斉に下りてきたのだ。
わらわらと駆け出した園児たちが、ルナを取り囲んだ。
われもわれもと手を伸ばし、ルナに抱きついていく。
初めは困惑気味ながらも笑みを浮かべていたルナの顔が、遠目にもひきつり始めるのがわかった。
園児たちは、容赦なくルナの服やスカートにしがみつき、びりびりと引き裂いていく。
そうして、おしくらまんじゅうの中心にルナをとらえたまま、バスに向かってじりじりと戻り始めたのだ。
「なんだ、ありゃ?」
あっけにとられ、百足丸は目を見開いた。
幼稚園児の集団が、あのサイキック少女を拉致しようとしている。
あまりにシュールな展開に、脳が理解を拒否してしまっていた。
「相手が子どもでは、さすがの彼女も力は使えない。そうじゃなくって?」
幼児たちの手によってバスに引きずり込まれていくルナを眺めながら、ヤチカが言った。
「保険って、あれのことだったのか…。しかし、なんてことだ」
「さ、行くわよ。いよいよ、あなたの出番」
ヤチカの後を追い、バスに近づくと、側面のスライドドアが開き、女が下りてきた。
体の線を際立たせたグレーのスーツを着込んだ、中肉中背の中年女性である。
ひっつめ髪に眼鏡という地味な外見の割に、目に見えないオーラのようなものを身にまとっている。
「ありがとう、美里先生」
女に歩み寄ると、ヤチカが声をかけた。
「さすがだわ。よく仕込んである」
「人間は幼ければ幼いほど、コントロールしやすいから」
美里と呼ばれた女はにこりともせずそう答えると、眼鏡越しに百足丸を見た。
虚無を内包したようなその瞳に、百足丸のうなじの産毛がざわついた。
なんだ? この女?
ただの保育士には見えないが?
いや、というより、この雰囲気は…。
そう…。
まるで、優生種変異体じゃないか。
「こちらがうわさの?」
「ええ。調教師のムカデ丸君」
ヤチカが女に百足丸を紹介した。
「急ぎましょう。あのパトスが突破口を見つけないうちに」
「じゃ、あとはあなたたちふたりに任せるわ」
立ち去ろうとするヤチカ。
「え? 一緒に行かないのか?」
百足丸はあわてた。
初対面のこの女とふたりで、あのルナを料理しろと?
「私には私の役割があるから」
立ち去り際に、ヤチカが言った。
「だから今は、彼女の前に姿を見せるわけにはいかないの」
迷路のようなゲームコーナーを苦労して抜け出すと、そこは平面駐車場だった。
市バスに乗るつもりなのだろう。
金髪の少女は、建物に沿ってキャットウォークを歩いていく。
その先に駐車場の出口があり、外周の舗道に通じているのだ。
少女が出口にさしかかった時だった。
ふいに喚声が沸き起こった。
出口から一番近い駐車スペースに、車体に黄色いゾウをペイントした幼稚園バスが止まっている。
そのドアが開いて、おそろいのスモックを着、黄色の帽子をかぶったた園児たちが一斉に下りてきたのだ。
わらわらと駆け出した園児たちが、ルナを取り囲んだ。
われもわれもと手を伸ばし、ルナに抱きついていく。
初めは困惑気味ながらも笑みを浮かべていたルナの顔が、遠目にもひきつり始めるのがわかった。
園児たちは、容赦なくルナの服やスカートにしがみつき、びりびりと引き裂いていく。
そうして、おしくらまんじゅうの中心にルナをとらえたまま、バスに向かってじりじりと戻り始めたのだ。
「なんだ、ありゃ?」
あっけにとられ、百足丸は目を見開いた。
幼稚園児の集団が、あのサイキック少女を拉致しようとしている。
あまりにシュールな展開に、脳が理解を拒否してしまっていた。
「相手が子どもでは、さすがの彼女も力は使えない。そうじゃなくって?」
幼児たちの手によってバスに引きずり込まれていくルナを眺めながら、ヤチカが言った。
「保険って、あれのことだったのか…。しかし、なんてことだ」
「さ、行くわよ。いよいよ、あなたの出番」
ヤチカの後を追い、バスに近づくと、側面のスライドドアが開き、女が下りてきた。
体の線を際立たせたグレーのスーツを着込んだ、中肉中背の中年女性である。
ひっつめ髪に眼鏡という地味な外見の割に、目に見えないオーラのようなものを身にまとっている。
「ありがとう、美里先生」
女に歩み寄ると、ヤチカが声をかけた。
「さすがだわ。よく仕込んである」
「人間は幼ければ幼いほど、コントロールしやすいから」
美里と呼ばれた女はにこりともせずそう答えると、眼鏡越しに百足丸を見た。
虚無を内包したようなその瞳に、百足丸のうなじの産毛がざわついた。
なんだ? この女?
ただの保育士には見えないが?
いや、というより、この雰囲気は…。
そう…。
まるで、優生種変異体じゃないか。
「こちらがうわさの?」
「ええ。調教師のムカデ丸君」
ヤチカが女に百足丸を紹介した。
「急ぎましょう。あのパトスが突破口を見つけないうちに」
「じゃ、あとはあなたたちふたりに任せるわ」
立ち去ろうとするヤチカ。
「え? 一緒に行かないのか?」
百足丸はあわてた。
初対面のこの女とふたりで、あのルナを料理しろと?
「私には私の役割があるから」
立ち去り際に、ヤチカが言った。
「だから今は、彼女の前に姿を見せるわけにはいかないの」
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