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第9部 倒錯のイグニス
#181 イベント準備⑧
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パトスを浄化する…?
思いがけないルナの提案に、杏里は首をかしげた。
そんなことが可能だろうか?
由羅と過ごした日々を思い出す。
傷ついた由羅を癒すため、杏里は何度か彼女の前で官能に溺れる己の姿を曝したことがある。
だが、結局のところ、浄化に至ったことは一度もない。
あれは、目的が違ったからなのだろうか。
パトスとタナトスの肌の愛称は抜群だ。
それはわかっている。
ならば、その気になれば相手を浄化に導くことも、不可能ではないのかもしれない。
「杏里、おまえがほかの男や女と行為に及ぶたび、わたしはおまえを殺したくてたまらなくなる。そんな気持ちで、おまえを守れるわけがない。だから、わたしの衝動を、消してほしい。今すぐ。イベントが始まる前に」
ルナの瞳は涙で曇り、赤く血走ってさえいるようだ。
杏里はいつしか、自分が冬美に抱いた激しい嫉妬心を反芻していた。
初期の頃、SMプレイで由羅を虜にしていた冬美。
その冬美を、一時は杏里も殺したいほど憎んだものだ。
「わかったわ」
小さくため息をついて、杏里は言った。
「だから、これ以上、”力”を暴走させないで」
廊下の窓はあらかた割れてしまっている。
何事かと、視聴覚室の割れた窓から、大山と前原がのぞいている。
「確かに、浄化が成功すれば、あなたは私にしばらくの間、性欲を感じなくなる。それは私としては少し悲しいことだけど、ルナがそれでいいというなら、協力しないでもないわ」
浄化は、対象への性欲の消失と一部の記憶障害を伴う。
卑近な例としては、クラスメイトの純がそうだ。
杏里が絶不調の時、唯一浄化に成功した相手である純は、その後、嘘のように扱い易くなった。
純自身はそのきっかけになった出来事を覚えていないようなのだが、邪念が消えてしまっただけに、今は杏里に対しても、普通の友人として接してくれるのだ。
ルナが純のように変わってくれるなら、それはそれでいいのかもしれない。
そもそも、タナトスがパトスを恋愛の対象にしようとしたのが間違いだったのだ。
そのことは、由羅との一件で懲りたはず。
それを繰り返そうとした私が馬鹿だったのだ…。
「浄化が済んで、曇りのない心になれば、わたしはおまえを今よりずっと純粋に愛せると思う。だから…」
喉を詰まらせながら、ルナが言う。
「そうね」
杏里は必死の面持ちのルナに対して、気のない返事を返しただけだった。
「そうなると、いいよね」
口ではそう言いながら、でも、そんなの、ありえない。
心の中では、真逆のことを考えている。
しょせん、愛の原動力はエロスなのだ。
エロス抜きで、愛など存在するはずがない…。
「いくら声を出しても、誰の迷惑にもならないところ、どんなに恥ずかしい恰好をしても、誰にも見られないところ、そんなところがあるのなら、今すぐ直行するのも悪くないわね」
杏里の言葉に、ルナが答えた。
「あるさ。それも、この近くに」
「ラブホは」だめだよ。制服では入れないでしょう? 警察に通報されるのがオチじゃない?」
「ラブホなんかじゃない」
ルナがかぶりを振った。
「JKにはおなじみの場所。大してお金もかからない」
「あ、そっか」
ようやく、ルナの言う意味がわかった。
杏里はうなずいた。
「なるほどね、その手があったんだ」
思いがけないルナの提案に、杏里は首をかしげた。
そんなことが可能だろうか?
由羅と過ごした日々を思い出す。
傷ついた由羅を癒すため、杏里は何度か彼女の前で官能に溺れる己の姿を曝したことがある。
だが、結局のところ、浄化に至ったことは一度もない。
あれは、目的が違ったからなのだろうか。
パトスとタナトスの肌の愛称は抜群だ。
それはわかっている。
ならば、その気になれば相手を浄化に導くことも、不可能ではないのかもしれない。
「杏里、おまえがほかの男や女と行為に及ぶたび、わたしはおまえを殺したくてたまらなくなる。そんな気持ちで、おまえを守れるわけがない。だから、わたしの衝動を、消してほしい。今すぐ。イベントが始まる前に」
ルナの瞳は涙で曇り、赤く血走ってさえいるようだ。
杏里はいつしか、自分が冬美に抱いた激しい嫉妬心を反芻していた。
初期の頃、SMプレイで由羅を虜にしていた冬美。
その冬美を、一時は杏里も殺したいほど憎んだものだ。
「わかったわ」
小さくため息をついて、杏里は言った。
「だから、これ以上、”力”を暴走させないで」
廊下の窓はあらかた割れてしまっている。
何事かと、視聴覚室の割れた窓から、大山と前原がのぞいている。
「確かに、浄化が成功すれば、あなたは私にしばらくの間、性欲を感じなくなる。それは私としては少し悲しいことだけど、ルナがそれでいいというなら、協力しないでもないわ」
浄化は、対象への性欲の消失と一部の記憶障害を伴う。
卑近な例としては、クラスメイトの純がそうだ。
杏里が絶不調の時、唯一浄化に成功した相手である純は、その後、嘘のように扱い易くなった。
純自身はそのきっかけになった出来事を覚えていないようなのだが、邪念が消えてしまっただけに、今は杏里に対しても、普通の友人として接してくれるのだ。
ルナが純のように変わってくれるなら、それはそれでいいのかもしれない。
そもそも、タナトスがパトスを恋愛の対象にしようとしたのが間違いだったのだ。
そのことは、由羅との一件で懲りたはず。
それを繰り返そうとした私が馬鹿だったのだ…。
「浄化が済んで、曇りのない心になれば、わたしはおまえを今よりずっと純粋に愛せると思う。だから…」
喉を詰まらせながら、ルナが言う。
「そうね」
杏里は必死の面持ちのルナに対して、気のない返事を返しただけだった。
「そうなると、いいよね」
口ではそう言いながら、でも、そんなの、ありえない。
心の中では、真逆のことを考えている。
しょせん、愛の原動力はエロスなのだ。
エロス抜きで、愛など存在するはずがない…。
「いくら声を出しても、誰の迷惑にもならないところ、どんなに恥ずかしい恰好をしても、誰にも見られないところ、そんなところがあるのなら、今すぐ直行するのも悪くないわね」
杏里の言葉に、ルナが答えた。
「あるさ。それも、この近くに」
「ラブホは」だめだよ。制服では入れないでしょう? 警察に通報されるのがオチじゃない?」
「ラブホなんかじゃない」
ルナがかぶりを振った。
「JKにはおなじみの場所。大してお金もかからない」
「あ、そっか」
ようやく、ルナの言う意味がわかった。
杏里はうなずいた。
「なるほどね、その手があったんだ」
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