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第9部 倒錯のイグニス

#170 偵察⑫

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 帰れと言われて、素直に引き下がる気にはなれなかった。
 せっかく、ヤチカと会うことができたのだ。
 なのに、声だけとは、あまりにも寂しい。
 せめて、顔を見せてほしい。
 ヤチカと過ごした日々の記憶は、杏里の中に克明に刻み込まれている。
 タナトスとして第二の人生をスタートしてみたものの、凌辱に次ぐ凌辱で、壊れかけていた杏里の心。
 それを、杏里に自信を与え、エロスの悦びを開花させることで救ってくれたのは、まぎれもなくヤチカなのだ。
「いやです。まだ帰りません。せめて、顔を見せてください。無事なら、そのくらい、いいでしょう? できれば、いずなちゃんにも会わせてほしいし…」
「ここにいるのは、みんな私の分身よ。それではだめなの? 探せば、いずなちゃんの分身を集めたお部屋もあるはずよ。正一君、いつもながら、いい仕事、してくれたから」
「こんな人形じゃなくて、私は生身のヤチカさんやいずなちゃんに会いたいんです!」
 のらりくらりと追及をかわそうとするヤチカに、杏里はとうとう声を荒げた。
 こんなの、おかしい。
 ふと、そんな気がした。
 ヤチカさん、何か隠してる。
 この沼人形工房の主、真布は、杏里たちのよき理解であるはずだ。
 だから、ここにかくまわれた以上、ヤチカといずなの安全はすでに保障されているといっていい。
 なのに、なぜ姿を現さないのだろう。
 何か、私に知られたくない秘密でもあるのだろうか。
「ヤチカさん、この中にいるんですよね? だったら、見つけるまで探しますよ」
 杏里が声に力をこめた時だった。
「しょうがないわね…」
 ふいに、ヤチカの深いため息が聞こえてきた。
 周囲で何かが動く気配がした。
 ん?
 気がつくと、いつのまにか杏里は、裸のヤチカ人形に取り囲まれていた。
 1体が傾き、杏里の首に腕を絡めた。
 あっと思った時には、両側から倒れてきた人形たちが、それぞれ杏里の腋の下に腕を差し入れてきた。
 とっさに身をよじると、反動で2体の人形が後ろに倒れかけ、絡めた杏里の腕を左右に引っ張る形になった。
 図らずも杏里は、人形の群れの中で両腕を左右に伸ばし、あたかも磔にされたような姿勢を取らされている。
 と、ふいに匂いがした。
 化粧品の匂いに混じった、艶めかしい、発情した女の匂い。
「ヤチカさん…?」
 その懐かしい匂いに、杏里は悟った。
 ヤチカがそばにいる。
 それも、手が届きそうなほど近くに。
 乳房で盛り上がったタンクトップの上に、手のひらが置かれた。
 しなやか指が、感触を味わうかのように、ゆっくりと動き始める。
 その絶妙な愛撫に、ブラの端を弾き、杏里の乳首がむっくりと勃ち上がる。
 布地の上からもはっきりそれとわかるほど、硬く勃起してしまっていた。
 指はいとおしむように、布地越しにその乳首をつまんでくる。
 右、左と交互につまみ、こよりをよじるようにひねり上げる。
「ああ…」
 後頭部が痺れるような快感に、動きを封じられる杏里。
 これ…この弄り方は…ヤチカさん…。
 そう確信したとたん、ぬるりと股間に熱いものがあふれ出た。
 その匂いを敏感に嗅ぎつけたのだろうか。
 ヤチカのもう一方の手が、杏里のスカートの中に入ってきた。
 むっちりした太腿の内側を撫でながら、じらすように陰部へと近づいていく。
 はあ、はあ、はあ…。
 杏里の息が荒くなる。
 首筋に汗の玉が浮き上がる。
 心臓が喉から飛び出しそうなほど、高鳴っている。
「くう…」
 全身をわななかせながら、杏里はおもむろに股を開き始めた。



 

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