163 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#163 偵察⑤
しおりを挟む
ピンクで統一された、少女趣味の部屋である。
いや、少女とはこうあるべきだという男性側の視点からデザインされた、ある意味、醜悪極まりない部屋だ。
が、最初は鼻についてならなかったその雰囲気も、井沢の調教を受け続けているうちに、いつしか気にならなくなってしまった。
ヤチカは、薄物をまとっただけの裸体で、ベッドの上に仰臥した人形の腰にまたがっている。
ぱっちりと見開いた眼。
少し小生意気な小さな鼻。
ぽってりとした唇。
その人形の顔は、かつてヤチカが愛した少女に瓜ふたつだった。
人形といえども、ヤチカが今組み敷いているのは、最新技術を駆使して製作された高性能ラブドールだ。
肌の質感も、乳房のやわらかさも、性器の濡れ具合も、ほとんどオリジナルと遜色がない。
ただ違うところといえば、彼女が口をきかないことと、自分からは身体を動かさないこと。
それだけである。
ヤチカは熱心にその少女型ラブドールの胸の肉を手のひらでこねまわしている。
バストのサイズも形も手触りも、驚くほどの再現度だ。
仰臥してすらも張りを失わないその豊かな乳房を弄びながら、ゆっくり腰を振って陰部を少女の下腹にこすりつけていると、潜在意識の底から名状しがたい快感が込み上げてきて、ヤチカはうめいた。
甘酸っぱい喪失感が伴った、痺れるような疼き。
そのさざ波のような感覚があまりに懐かしくて、目尻に涙がにじんでくるのがわかった。
少女の顔に唇を近づけ、貪るようにその口を吸った。
ラブドールには当然のことながら、オリジナルそっくりの舌が備わっている。
その舌に己の舌を絡めて口の外に引きずり出すと、唇で強く挟んで吸ってやる。
ヤチカの遠い記憶の中で、少女が濡れたような眼を見開き、甘い吐息を漏らした。
杏里、ちゃん…。
気がつくと、両手で自分の乳房を搾り上げ、故意に尖らせた乳首を人形の乳首に押しつけていた。
乳首で乳首を弾き合う。
乳頭と乳頭を合わせて、徐々に身体を密着させていく。
お互いの乳輪の中にじりじり乳首がめりこんでいく。
乳輪同士がぴたりと合わさるまで胸と胸を密着させると、たまらない刺激がやってきた。
「杏里…好き…」
思わず声に出して名を呼んだ時だった。
ノックもなくいきなりドアが開いて、中肉中背の男が戸口に立った。
井沢だった。
いつものようにサングラスをかけているため、表情までは読み取れない。
まだ調教の時間ではないはずなのに…。
一瞬、ひやりとした。
気づかれた…?
まさか、と思う。
最近、覚醒している時間が長くなってきている。
ヤチカ自身、何度も術を施されているうちに、井沢のマインドコントロールに対して耐性ができ始めているようなのだ。
が、それが取り越し苦労だったことは、井沢の第一声で明らかになった。
「そんなにそのおもちゃが気に入ったか?」
ベッドの上で人形と抱き合うヤチカを一瞥し、次に部屋中をぐるりと見回すと、からかうような口調で井沢が言った。
ヤチカの部屋の中は、杏里人形でいっぱいである。
セーラー服姿の杏里、水着姿の杏里、下着姿の杏里、シースルーのネグリジェ姿の杏里…。
ある者は勉強机の前の椅子に座り、ある者はテレビの前の座椅子に座ってしどけなく足を投げ出し、ある者は無防備に股を開いてソファーに寝そべり…。
みんな、杏里と同じ顔を持ち、同じスリーサイズの肉体を備えている。
その中から日ごとに相手を選び、ヤチカは暇さえあれば愛の営みに耽るのだ。
やがてヤチカに視線を戻すと、井沢は予想外のことを口にした。
「そんなに杏里が忘れられないなら、いいニュースを聞かせてやろう。ちょっと早いが、本物に会ってみないか?
もっとも、何をしゃべってどんなしぐさをするか、それはすべてこちらでプログラムさせてもらうがね」
ヤチカは凍りついた。
杏里に、会える…?
頭の中が、急速にクリアになっていくのがわかった。
そこだけ陽が射したような懐かしい少女の笑顔が、一瞬脳裡に去来した。
が、喜びを顔に出すわけにはいかなかった。
うなだれたまま、そっと目を閉じた。
涙が一筋その頬を伝い、物言わぬ人形の裸の胸に染みをつくった。
いや、少女とはこうあるべきだという男性側の視点からデザインされた、ある意味、醜悪極まりない部屋だ。
が、最初は鼻についてならなかったその雰囲気も、井沢の調教を受け続けているうちに、いつしか気にならなくなってしまった。
ヤチカは、薄物をまとっただけの裸体で、ベッドの上に仰臥した人形の腰にまたがっている。
ぱっちりと見開いた眼。
少し小生意気な小さな鼻。
ぽってりとした唇。
その人形の顔は、かつてヤチカが愛した少女に瓜ふたつだった。
人形といえども、ヤチカが今組み敷いているのは、最新技術を駆使して製作された高性能ラブドールだ。
肌の質感も、乳房のやわらかさも、性器の濡れ具合も、ほとんどオリジナルと遜色がない。
ただ違うところといえば、彼女が口をきかないことと、自分からは身体を動かさないこと。
それだけである。
ヤチカは熱心にその少女型ラブドールの胸の肉を手のひらでこねまわしている。
バストのサイズも形も手触りも、驚くほどの再現度だ。
仰臥してすらも張りを失わないその豊かな乳房を弄びながら、ゆっくり腰を振って陰部を少女の下腹にこすりつけていると、潜在意識の底から名状しがたい快感が込み上げてきて、ヤチカはうめいた。
甘酸っぱい喪失感が伴った、痺れるような疼き。
そのさざ波のような感覚があまりに懐かしくて、目尻に涙がにじんでくるのがわかった。
少女の顔に唇を近づけ、貪るようにその口を吸った。
ラブドールには当然のことながら、オリジナルそっくりの舌が備わっている。
その舌に己の舌を絡めて口の外に引きずり出すと、唇で強く挟んで吸ってやる。
ヤチカの遠い記憶の中で、少女が濡れたような眼を見開き、甘い吐息を漏らした。
杏里、ちゃん…。
気がつくと、両手で自分の乳房を搾り上げ、故意に尖らせた乳首を人形の乳首に押しつけていた。
乳首で乳首を弾き合う。
乳頭と乳頭を合わせて、徐々に身体を密着させていく。
お互いの乳輪の中にじりじり乳首がめりこんでいく。
乳輪同士がぴたりと合わさるまで胸と胸を密着させると、たまらない刺激がやってきた。
「杏里…好き…」
思わず声に出して名を呼んだ時だった。
ノックもなくいきなりドアが開いて、中肉中背の男が戸口に立った。
井沢だった。
いつものようにサングラスをかけているため、表情までは読み取れない。
まだ調教の時間ではないはずなのに…。
一瞬、ひやりとした。
気づかれた…?
まさか、と思う。
最近、覚醒している時間が長くなってきている。
ヤチカ自身、何度も術を施されているうちに、井沢のマインドコントロールに対して耐性ができ始めているようなのだ。
が、それが取り越し苦労だったことは、井沢の第一声で明らかになった。
「そんなにそのおもちゃが気に入ったか?」
ベッドの上で人形と抱き合うヤチカを一瞥し、次に部屋中をぐるりと見回すと、からかうような口調で井沢が言った。
ヤチカの部屋の中は、杏里人形でいっぱいである。
セーラー服姿の杏里、水着姿の杏里、下着姿の杏里、シースルーのネグリジェ姿の杏里…。
ある者は勉強机の前の椅子に座り、ある者はテレビの前の座椅子に座ってしどけなく足を投げ出し、ある者は無防備に股を開いてソファーに寝そべり…。
みんな、杏里と同じ顔を持ち、同じスリーサイズの肉体を備えている。
その中から日ごとに相手を選び、ヤチカは暇さえあれば愛の営みに耽るのだ。
やがてヤチカに視線を戻すと、井沢は予想外のことを口にした。
「そんなに杏里が忘れられないなら、いいニュースを聞かせてやろう。ちょっと早いが、本物に会ってみないか?
もっとも、何をしゃべってどんなしぐさをするか、それはすべてこちらでプログラムさせてもらうがね」
ヤチカは凍りついた。
杏里に、会える…?
頭の中が、急速にクリアになっていくのがわかった。
そこだけ陽が射したような懐かしい少女の笑顔が、一瞬脳裡に去来した。
が、喜びを顔に出すわけにはいかなかった。
うなだれたまま、そっと目を閉じた。
涙が一筋その頬を伝い、物言わぬ人形の裸の胸に染みをつくった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる