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第9部 倒錯のイグニス
#162 偵察④
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陰部から垂れ下がった透明チューブから最後の一滴が落ちると、少女はがっくりとうなだれ、動かなくなった。
「死んだのか?」
手術台にはりつけにされたいずなを見やって、百足丸はごくりと唾を呑み込んだ。
いずなは最初ここへ来た時に比べると、気の毒なほどやせ細ってしまっている。
骨と皮だけになった裸体には、思春期の少女らしい丸みはすでに影も形もない。
無理もなかった。
何日にも渡り、金持ちの老婆たちにエキスを搾り取られ、また今、最後の何十CCかを、医師たちの手で無理やり抽出されてしまったのである。
白衣姿の医師たちが、いずなの乳首から電極をはずし、股間に据えられたプラスチック容器を手に取った。
容器にたまっているのは、たった今いずなが放出したばかりの愛液だ。
それをこれから実験棟に運んで、零に施す特性催淫剤を調合するつもりなのだろう。
「いや、衰弱が烈しいのは確かだが、しばらく点滴で栄養補給して休ませてやれば、いずれ回復するんじゃないかと思う。曲がりなりにも、この子もタナトスなんだからな」
作業の進行状況を目で追いながら、井沢が答えた。
その言葉に、少しほっとする。
聞くところによると、いずなは零と同い年だという。
信じられない、と百足丸は思う。
あの、成人女性より妖艶で野生的な零と、この痩せさらばえた少女が同年代だなんて。
百足丸にとって、零は愛憎半ばする攻略の対象だが、いずなは違う。
未成年の哀れな犠牲者といった感じがしてならないのだ。
考えてみれば、それはあのヤチカも同じだが、ヤチカは三十路を超えた成人女性であるだけに、ある意味自業自得と言えないこともない。
いい年をして、井沢の罠にかかった自分を責めるべきなのだ。
「それより、零はどうしてる?」
医師団がいずなを担架に乗せて運び去るのを見届けて、井沢が訊いてきた。
「大人しくしてるよ。あのVR、よほど気に入ったみたいだ」
「だろうな」
井沢の薄い唇が、笑みの形に歪んだ。
「あれには零の大好物が映っているからな」
VRというのは、井沢が零に与えた映像視聴用のゴーグルである。
現在、零が見ているのは、曙中学で行われたレスリング部の紅白戦の映像だった。
笹原杏里監視用に、体育館の天井に設置された防犯カメラからの画像らしい。
零に見せる前に、百足丸も少し視聴してみたのだが、映っているのは全編、井沢達が追い求めるターゲット、笹原杏里の痴態だった。
相手方にさまざまな技をかけられて悶え苦しむ杏里の姿は見るからに淫ら極まりなく、女体を見飽きているはずの百足丸ですら、危うく己の性器に手が伸びそうになったものだ。
残虐行為淫乱症で、尚かつ杏里に特別な思い入れのある零にとっては、堪えられない御馳走であるに違いない。
「あの試合の後、部員のひとりに化けていたはぐれ外来種変異体は、どうやら杏里とルナのコンビに瞬殺されたようだ。だが、まあ、考えてみれば、あの映像が手に入っただけ、儲けものだったというところだな」
井沢がそこまで言った時である。
ふいに、壁に埋め込まれたモニター画面に、皺だらけの老婆の顔が大写しになった。
「まずいお知らせだよ」
開口一番、真布が言った。
「ここに、杏里が来る。ルナとかいう、毛唐のサイキッカーも一緒だよ」
「死んだのか?」
手術台にはりつけにされたいずなを見やって、百足丸はごくりと唾を呑み込んだ。
いずなは最初ここへ来た時に比べると、気の毒なほどやせ細ってしまっている。
骨と皮だけになった裸体には、思春期の少女らしい丸みはすでに影も形もない。
無理もなかった。
何日にも渡り、金持ちの老婆たちにエキスを搾り取られ、また今、最後の何十CCかを、医師たちの手で無理やり抽出されてしまったのである。
白衣姿の医師たちが、いずなの乳首から電極をはずし、股間に据えられたプラスチック容器を手に取った。
容器にたまっているのは、たった今いずなが放出したばかりの愛液だ。
それをこれから実験棟に運んで、零に施す特性催淫剤を調合するつもりなのだろう。
「いや、衰弱が烈しいのは確かだが、しばらく点滴で栄養補給して休ませてやれば、いずれ回復するんじゃないかと思う。曲がりなりにも、この子もタナトスなんだからな」
作業の進行状況を目で追いながら、井沢が答えた。
その言葉に、少しほっとする。
聞くところによると、いずなは零と同い年だという。
信じられない、と百足丸は思う。
あの、成人女性より妖艶で野生的な零と、この痩せさらばえた少女が同年代だなんて。
百足丸にとって、零は愛憎半ばする攻略の対象だが、いずなは違う。
未成年の哀れな犠牲者といった感じがしてならないのだ。
考えてみれば、それはあのヤチカも同じだが、ヤチカは三十路を超えた成人女性であるだけに、ある意味自業自得と言えないこともない。
いい年をして、井沢の罠にかかった自分を責めるべきなのだ。
「それより、零はどうしてる?」
医師団がいずなを担架に乗せて運び去るのを見届けて、井沢が訊いてきた。
「大人しくしてるよ。あのVR、よほど気に入ったみたいだ」
「だろうな」
井沢の薄い唇が、笑みの形に歪んだ。
「あれには零の大好物が映っているからな」
VRというのは、井沢が零に与えた映像視聴用のゴーグルである。
現在、零が見ているのは、曙中学で行われたレスリング部の紅白戦の映像だった。
笹原杏里監視用に、体育館の天井に設置された防犯カメラからの画像らしい。
零に見せる前に、百足丸も少し視聴してみたのだが、映っているのは全編、井沢達が追い求めるターゲット、笹原杏里の痴態だった。
相手方にさまざまな技をかけられて悶え苦しむ杏里の姿は見るからに淫ら極まりなく、女体を見飽きているはずの百足丸ですら、危うく己の性器に手が伸びそうになったものだ。
残虐行為淫乱症で、尚かつ杏里に特別な思い入れのある零にとっては、堪えられない御馳走であるに違いない。
「あの試合の後、部員のひとりに化けていたはぐれ外来種変異体は、どうやら杏里とルナのコンビに瞬殺されたようだ。だが、まあ、考えてみれば、あの映像が手に入っただけ、儲けものだったというところだな」
井沢がそこまで言った時である。
ふいに、壁に埋め込まれたモニター画面に、皺だらけの老婆の顔が大写しになった。
「まずいお知らせだよ」
開口一番、真布が言った。
「ここに、杏里が来る。ルナとかいう、毛唐のサイキッカーも一緒だよ」
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