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第9部 倒錯のイグニス

#150 ふみ④

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 刻印が、現れない…。
 これは、いったい、どういう、こと…?
 切れ切れの意識の中で、杏里は思った。
 その事実が表しているのは、ふみも外来種ではないということだ。
 全部、私の、カン違い、だったってこと…?
 それとも…・
 ふと浮かんだもうひとつの恐ろしい想像に、杏里は慄然とした。
 仲間の中に、外来種が、いるって、こと?
 胸の奥をえぐられるような不気味な感触とともに、また肋骨が何本か折れたようだった。
 支えを失い、杏里は冷凍マグロのようにごろりと支柱から落下した。
 マットに叩きつけられ、口から血反吐と一緒に折れた前歯を吐き出した。
 が、ふみはまだ杏里をフォールする気はないようだった。
 動けぬ杏里を軽々持ち上げると、両手と両足をロープに絡め、固定した。
 全裸の杏里は、両手と両足を水平に伸ばし、股間を前に突き出す格好でロープにはりつけになっている。
 その前に立つふみは、まるで酔っ払いのように巨体をふらふら揺すり、口からだらだら涎を垂らしている。
 肉に埋もれた豚のそれのように細い目は、異常な光を宿し、完全にイッてしまっているように見える。
 どうやら、杏里の分泌物が、ふみの脳神経をも狂わせてしまったようだった。
 快楽中枢だけでなく、大脳全体に媚薬成分が回り、麻薬中毒患者に近い状態に陥っているのかもしれなかった。
「げへへへ、杏里、可愛いよ、いいザマだよねえ。もっと、もっと、可愛がってあげるからねえ」
 げたげた笑いながら、短い手で、杏里の胸と言わず腹と言わず、柔らかい部分を狙ってがむしゃらに殴りつけてきた。
 手足こそ短いものの、ふみの怪力は雌外来種の零や武闘派パトスの由羅なみである。
 たちまち杏里の身体の前面は紫色に腫れあがり、あちこちで皮膚が破れて血が噴き出してきた。
 そこに、ロープの反動を使って、更にふみが体当たりを繰り返す。
 全身の骨が砕けるような感覚に、杏里は恍惚となった。
 ここまで滅茶苦茶にされるのは、この前、本部で零と戦って以来だ。
 この世で最も醜いふみの巨躯に蹂躙され、肉体を破壊され続ける美少女。
 その凄絶なイメージが、死への恐怖を通り越し、杏里を真のエロスに近づけていた。
 ふみの体重で肉が爆ぜる。
 その繰り返しで、身体中の骨がザクザクになり、毛穴という毛穴からじわじわと血がにじみ出してくる。
 ガタガタになった筋肉組織が、疼くような快感にさざ波のように痙攣した。
「もっと…」
 舌の千切れた口で、杏里は哀願する。
「いいよ、ふみ、もっと…」
 その時だった。
「いい加減にしやがれ!」
 ふみの何十回目の突進の前に、咲良が立ちはだかった。
 飛んできたふみの巨体を、相撲の構えでがっしりと受け止めた。
「おまえなんか、人間じゃない!」
 そこに、コーナーポストからジャンプした純が降ってきた。
 そして、純の肘が、ふみの頭頂部に激突した。
 
 
 

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