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第9部 倒錯のイグニス
#134 紅白戦⑧
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紅組のメンバーの中に、外来種が紛れ込んでいる…?
その恐ろしい認識に、リングの上に立っても、膝の震えが止まらなかった。
落ち着け。
落ち着きなさい、杏里。
深呼吸を繰り返し、杏里は必死で自分に言い聞かせた。
こうなると、がぜん話は変わってくる。
これまでは、己のプライドのためだけに、勝ちにこだわってきた杏里である。
だが、相手チームの中に人類の天敵がいるとなると、そんな呑気なことは言っていられない。
私は、タナトスとして、白組のチームメイト全員を守らなけらばならないのだ。
それには、どうしても、全勝する必要がある。
そして、試合の中で外来種を無効化し、試合後も他に害を及ぼさないように穏便に処理しなければならない。
「では、ルールを説明します」
向かい合った8人を前にして、小谷小百合が厳かな声で言った。
久しぶりに見る小百合は、少しやせたようだった。
杏里に”浄化”されて以来、しばらく練習に顔を出さなかったのは、おそらく記憶の一部が失われてしまったせいだろう。
おそらく今の小百合は、杏里との秘密の特訓の一部始終をほとんど覚えていないに違いない。
リングの周囲には、パイプ椅子が何十列も並べられ、ぎっしりと生徒たちで埋め尽くされている。
席にあぶれた生徒たちは体育館の壁際にずらりと立ち並び、今か今かとホイッスルの鳴るのを待ち受けている。
吹き抜けの2階のキャットウォークも同じ状況で、そちらは生徒よりむしろ教師たちの姿が目立つようだ。
「今回の紅白戦は、これまでのレスリング部の練習の成果を、全校の皆さんに知ってもらうよい機会です。ただ、これだけ注目を集めている以上、試合にはある程度、エンターテイメント性も必要ではないかと考えています。そこでこの紅白戦では、通常のアマチュアレスリングにはない、次のルールを追加します。すなわち、プロレス技の解禁です」
小百合の言葉に、体育館中がどよめいた。
最近では、アイドルがプロレスのチームをつくったりと、テレビでもよく女子プロレスが取り上げられている。
だから、生徒たちも意外にプロレスに触れる機会が多いのかもしれなかった。
「もちろん、顔面への殴打など、危険な技は禁止です。そして、選手の負担を減らすため、フォールのルールはプロレスのものではなく、従来のレスリングのものを採用しようと思います。すなわち、相手の両肩を1秒間マットにつけたほうが勝ち、という方式ですね」
説明を聞き流しながら、杏里は目の前に並ぶ紅組の4人をじっと観察していた。
この中の誰が外来種なのだろう?
いずなの時がそうだったように、外見からはまったく判断のしようがない。
みんな、いつもと変わらないように見える。
特定の個人に擬態する変異外来種。
それがまた一匹、現れたというわけなのだ。
楽屋で杏里の身体に触れたのは、4人全員である。
だから、誰にも可能性があるということになる。
「それから最後にもうひとつ。勝利の条件ですが、今回は見どころを増やすためにも、通常の団体戦の方式ではなく、あえて変則的なチーム対抗トーナメント方式とします。やり方は単純です。勝った者が、負けるか、相手チームを全滅させるまで勝ち進む、ただそれだけです。だから、場合によっては、1番目の選手が、そのまま最後まで勝ち残るということもありえるわけです。そして、その勝者の所属するチームが勝者となる」
マイクを通した小百合の声は、かなりの大音量である。
が、場内のどよめきは、それをも更に上回るほど、大きなものになっている。
「では、試合開始といきましょう。一同、礼!」
小百合の号令に、
「おねがいします!」
元気よく叫ぶ8人の選手たち。
「では、それぞれのチームは自軍のコーナーに分かれて」
杏里たちはステージに近い白コーナーだ。
「ね、杏里、やっぱり先鋒、あたしが行こうか?」
いったんリングの下に下りると、心配顔で純がささやいてきた。
「ううん。大丈夫」
杏里はきっぱりと首を横に振った。
状況が変わったのだ。
ここはもう、誰にも譲れない。
「では、1番手の選手、位置につきなさい。白組、笹原杏里。紅組、権藤美穂」
「予想通りだね」
純の後ろで咲良がにんまりとほくそ笑んだ。
「美穂が相手なら、杏里、あんたでも勝てるかもしれないよ」
「うん」
うなずいて、コーナーロープの間からリングに上った。
美穂は先に自分の位置についていた。
1年生ながら、杏里より5センチほど上背があり、スレンダーな身体にはほどよく筋肉がついている。
ショートカットのヘアと相まって、まるで野生のチーターのような雰囲気の少女である。
「お待たせ」
美穂と向かい合って立つと、杏里はやおら、ユニフォームの胸に手をやった。
右、左と、順にファスナーを下ろし、乳首をむき出しにする。
全校生徒の見ている前で、こんなこと、するなんて…。
恥ずかしかった。
あまりの恥かしさで、股間に伸ばした手が震えた。
だが、やるしかないのだ。
太腿の間に、もうひとつファスナーがある。
それを思い切って、へその下まで引き上げた。
すると、開いた布地の間から、恥じらうように、輝くリングと無垢のふくらみが現れた。
その恐ろしい認識に、リングの上に立っても、膝の震えが止まらなかった。
落ち着け。
落ち着きなさい、杏里。
深呼吸を繰り返し、杏里は必死で自分に言い聞かせた。
こうなると、がぜん話は変わってくる。
これまでは、己のプライドのためだけに、勝ちにこだわってきた杏里である。
だが、相手チームの中に人類の天敵がいるとなると、そんな呑気なことは言っていられない。
私は、タナトスとして、白組のチームメイト全員を守らなけらばならないのだ。
それには、どうしても、全勝する必要がある。
そして、試合の中で外来種を無効化し、試合後も他に害を及ぼさないように穏便に処理しなければならない。
「では、ルールを説明します」
向かい合った8人を前にして、小谷小百合が厳かな声で言った。
久しぶりに見る小百合は、少しやせたようだった。
杏里に”浄化”されて以来、しばらく練習に顔を出さなかったのは、おそらく記憶の一部が失われてしまったせいだろう。
おそらく今の小百合は、杏里との秘密の特訓の一部始終をほとんど覚えていないに違いない。
リングの周囲には、パイプ椅子が何十列も並べられ、ぎっしりと生徒たちで埋め尽くされている。
席にあぶれた生徒たちは体育館の壁際にずらりと立ち並び、今か今かとホイッスルの鳴るのを待ち受けている。
吹き抜けの2階のキャットウォークも同じ状況で、そちらは生徒よりむしろ教師たちの姿が目立つようだ。
「今回の紅白戦は、これまでのレスリング部の練習の成果を、全校の皆さんに知ってもらうよい機会です。ただ、これだけ注目を集めている以上、試合にはある程度、エンターテイメント性も必要ではないかと考えています。そこでこの紅白戦では、通常のアマチュアレスリングにはない、次のルールを追加します。すなわち、プロレス技の解禁です」
小百合の言葉に、体育館中がどよめいた。
最近では、アイドルがプロレスのチームをつくったりと、テレビでもよく女子プロレスが取り上げられている。
だから、生徒たちも意外にプロレスに触れる機会が多いのかもしれなかった。
「もちろん、顔面への殴打など、危険な技は禁止です。そして、選手の負担を減らすため、フォールのルールはプロレスのものではなく、従来のレスリングのものを採用しようと思います。すなわち、相手の両肩を1秒間マットにつけたほうが勝ち、という方式ですね」
説明を聞き流しながら、杏里は目の前に並ぶ紅組の4人をじっと観察していた。
この中の誰が外来種なのだろう?
いずなの時がそうだったように、外見からはまったく判断のしようがない。
みんな、いつもと変わらないように見える。
特定の個人に擬態する変異外来種。
それがまた一匹、現れたというわけなのだ。
楽屋で杏里の身体に触れたのは、4人全員である。
だから、誰にも可能性があるということになる。
「それから最後にもうひとつ。勝利の条件ですが、今回は見どころを増やすためにも、通常の団体戦の方式ではなく、あえて変則的なチーム対抗トーナメント方式とします。やり方は単純です。勝った者が、負けるか、相手チームを全滅させるまで勝ち進む、ただそれだけです。だから、場合によっては、1番目の選手が、そのまま最後まで勝ち残るということもありえるわけです。そして、その勝者の所属するチームが勝者となる」
マイクを通した小百合の声は、かなりの大音量である。
が、場内のどよめきは、それをも更に上回るほど、大きなものになっている。
「では、試合開始といきましょう。一同、礼!」
小百合の号令に、
「おねがいします!」
元気よく叫ぶ8人の選手たち。
「では、それぞれのチームは自軍のコーナーに分かれて」
杏里たちはステージに近い白コーナーだ。
「ね、杏里、やっぱり先鋒、あたしが行こうか?」
いったんリングの下に下りると、心配顔で純がささやいてきた。
「ううん。大丈夫」
杏里はきっぱりと首を横に振った。
状況が変わったのだ。
ここはもう、誰にも譲れない。
「では、1番手の選手、位置につきなさい。白組、笹原杏里。紅組、権藤美穂」
「予想通りだね」
純の後ろで咲良がにんまりとほくそ笑んだ。
「美穂が相手なら、杏里、あんたでも勝てるかもしれないよ」
「うん」
うなずいて、コーナーロープの間からリングに上った。
美穂は先に自分の位置についていた。
1年生ながら、杏里より5センチほど上背があり、スレンダーな身体にはほどよく筋肉がついている。
ショートカットのヘアと相まって、まるで野生のチーターのような雰囲気の少女である。
「お待たせ」
美穂と向かい合って立つと、杏里はやおら、ユニフォームの胸に手をやった。
右、左と、順にファスナーを下ろし、乳首をむき出しにする。
全校生徒の見ている前で、こんなこと、するなんて…。
恥ずかしかった。
あまりの恥かしさで、股間に伸ばした手が震えた。
だが、やるしかないのだ。
太腿の間に、もうひとつファスナーがある。
それを思い切って、へその下まで引き上げた。
すると、開いた布地の間から、恥じらうように、輝くリングと無垢のふくらみが現れた。
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