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第9部 倒錯のイグニス
#133 紅白戦⑦
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裏口から中に入ると、そこはステージの裏側の細い通路だった。
通路に沿って、ふたつの楽屋と体育倉庫が並んでいる。
手前の楽屋の前を通りかかった時である。
「おや、お姫様のお出ましだね」
ふいに中から声がして、誰かが乱暴に腕を引っ張った。
周囲を取り囲んだのは、紅組のメンバーである。
肉達磨のふみを中心にして、麻衣、アニス、美穂の4人が、にやにや笑いを顔に浮かべて杏里を見つめている。
「見たよ。あの動画」
麻衣が細い眼を光らせて言った。
「むちゃくちゃエロかったじゃん。あたし別にレズじゃないんだけどさ、さすがにあれには興奮しちまったよ」
「実ハ私モナンデス。学園祭ガスゴク楽シミデス。実ヲ言ウト、私、ばいせくしゃるナンデ」
アニスのぱっちり開いた瞳にも、心なしか淫蕩な光が宿っているようだ。
「そんな杏里先輩とひと足先に触れ合えるなんて、あたしたちは幸せ者かもですぅ」
舌っ足らずな物言いは、下級生の美穂のものである。
「だよねー、レスリングなんかどうでもいいからさ、とにかくあたしは早く杏里とハグしたいよ。もちろん、ハグだけじゃ済まないんだけどね」
飛び出た腹の肉を揺すって、ふみが笑った。
「ま、この子もそのつもりなんじゃない? だって、見てよ、こいつのユニフォーム。お乳が半分以上、はみ出してるじゃん」
長い腕を伸ばして、麻衣が杏里の両肩をつかみ、みんなによく見えるよう、身体を一回転させる。
「うはあ、お尻もそうだよ。パンツが浅すぎて、割れ目ちゃんが半分見えてますもの」
美穂が杏里の臀部をひと撫でし、嬌声を上げた。
「や、やめて」
杏里は踵を返し、出口に向かおうとした。
「もう少し、いいじゃんねえ」
後ろから抱きついてきたのは、ふみである。
「どうせすぐにイチャイチャできるんだからさあ。その前にリハーサルってことで」
強い腋臭の匂いに、胃の腑からすっぱいものが込み上げてきた。
「デモ、杏里ノ肌ッテ、綺麗デスヨネ。白クテすべすべデ。ホント、ウラヤマシイデスヨ」
杏里の二の腕を、指先でさすりながら、うっとりとアニスがつぶやいた。
「何やってんだ? おまえら」
戸口に咲良の巨体が現れたのはその時だ。
「まだ試合前だろう。杏里を放せ」
「なーんて言って、ほんとは咲良、あんたが杏里を独り占めする気じゃないの?」
憎々しげな口調でふみが言う。
「ばーか。あたしはおまえみたいな色情狂じゃねえんだよ」
咲良が杏里の左腕を引っ張った。
ふみと咲良のふたりの巨漢に左右別々の腕を引っ張られ、杏里の巨乳がぶるんと揺れる。
まずい…。
杏里は周りから見られないよう、顔をうつむけた。
みんなにこづきまわされ、腕を引っ張られて…。
私、また、感じてしまってる…。
が、訪れかけた陶酔感も、視界の隅をかすめたその映像に気づくなり、一瞬にして吹き飛んだ。
真っ赤なビキニの間からのぞく胸の谷間ー鎖骨のあたりに、五芒星の形をした痣が浮かび上がっている。
…どういうこと?
杏里は眼をしばたたいた。
己の見ているものが、信じられなかった。
タナトスの躰は、外来種検出器をも兼ねている。
外来種と交わると、ある特殊な刻印が肌に浮かび上がるようにできているのだ。
交わってもいないのにこの印が出現したのは、媚薬によって杏里が極限まで敏感になっているからに違いない。
どちらにせよ、このスティグマの意味は明らかだった。
この中に、外来種がいる。
思い出した。
水飲み場の血だまり。
校舎へと続く血のしずくの跡。
そして、何か言いかけて消えた、唯佳の首…。
すべてがひとつにつながった気がした。
杏里は恐怖に見開いた眼を、楽屋の中の4人に向けた。
誰?
心の中で叫んだ。
誰なの?
…化け物に、身体を乗っ取られてしまったのは?
通路に沿って、ふたつの楽屋と体育倉庫が並んでいる。
手前の楽屋の前を通りかかった時である。
「おや、お姫様のお出ましだね」
ふいに中から声がして、誰かが乱暴に腕を引っ張った。
周囲を取り囲んだのは、紅組のメンバーである。
肉達磨のふみを中心にして、麻衣、アニス、美穂の4人が、にやにや笑いを顔に浮かべて杏里を見つめている。
「見たよ。あの動画」
麻衣が細い眼を光らせて言った。
「むちゃくちゃエロかったじゃん。あたし別にレズじゃないんだけどさ、さすがにあれには興奮しちまったよ」
「実ハ私モナンデス。学園祭ガスゴク楽シミデス。実ヲ言ウト、私、ばいせくしゃるナンデ」
アニスのぱっちり開いた瞳にも、心なしか淫蕩な光が宿っているようだ。
「そんな杏里先輩とひと足先に触れ合えるなんて、あたしたちは幸せ者かもですぅ」
舌っ足らずな物言いは、下級生の美穂のものである。
「だよねー、レスリングなんかどうでもいいからさ、とにかくあたしは早く杏里とハグしたいよ。もちろん、ハグだけじゃ済まないんだけどね」
飛び出た腹の肉を揺すって、ふみが笑った。
「ま、この子もそのつもりなんじゃない? だって、見てよ、こいつのユニフォーム。お乳が半分以上、はみ出してるじゃん」
長い腕を伸ばして、麻衣が杏里の両肩をつかみ、みんなによく見えるよう、身体を一回転させる。
「うはあ、お尻もそうだよ。パンツが浅すぎて、割れ目ちゃんが半分見えてますもの」
美穂が杏里の臀部をひと撫でし、嬌声を上げた。
「や、やめて」
杏里は踵を返し、出口に向かおうとした。
「もう少し、いいじゃんねえ」
後ろから抱きついてきたのは、ふみである。
「どうせすぐにイチャイチャできるんだからさあ。その前にリハーサルってことで」
強い腋臭の匂いに、胃の腑からすっぱいものが込み上げてきた。
「デモ、杏里ノ肌ッテ、綺麗デスヨネ。白クテすべすべデ。ホント、ウラヤマシイデスヨ」
杏里の二の腕を、指先でさすりながら、うっとりとアニスがつぶやいた。
「何やってんだ? おまえら」
戸口に咲良の巨体が現れたのはその時だ。
「まだ試合前だろう。杏里を放せ」
「なーんて言って、ほんとは咲良、あんたが杏里を独り占めする気じゃないの?」
憎々しげな口調でふみが言う。
「ばーか。あたしはおまえみたいな色情狂じゃねえんだよ」
咲良が杏里の左腕を引っ張った。
ふみと咲良のふたりの巨漢に左右別々の腕を引っ張られ、杏里の巨乳がぶるんと揺れる。
まずい…。
杏里は周りから見られないよう、顔をうつむけた。
みんなにこづきまわされ、腕を引っ張られて…。
私、また、感じてしまってる…。
が、訪れかけた陶酔感も、視界の隅をかすめたその映像に気づくなり、一瞬にして吹き飛んだ。
真っ赤なビキニの間からのぞく胸の谷間ー鎖骨のあたりに、五芒星の形をした痣が浮かび上がっている。
…どういうこと?
杏里は眼をしばたたいた。
己の見ているものが、信じられなかった。
タナトスの躰は、外来種検出器をも兼ねている。
外来種と交わると、ある特殊な刻印が肌に浮かび上がるようにできているのだ。
交わってもいないのにこの印が出現したのは、媚薬によって杏里が極限まで敏感になっているからに違いない。
どちらにせよ、このスティグマの意味は明らかだった。
この中に、外来種がいる。
思い出した。
水飲み場の血だまり。
校舎へと続く血のしずくの跡。
そして、何か言いかけて消えた、唯佳の首…。
すべてがひとつにつながった気がした。
杏里は恐怖に見開いた眼を、楽屋の中の4人に向けた。
誰?
心の中で叫んだ。
誰なの?
…化け物に、身体を乗っ取られてしまったのは?
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